日本・ロシアに縁をもつ「人」にスポットを当て、その「人」を紹介、そして「人」を通じて、ロシアの魅力や日本とロシアの関わりなどを、車でドライブするような冒険心を持って発信していく「日ロドライブ」。
第34回のゲストは、ロシアとの新たな交流を模索するアイディアソン「Remake 日ロ交流 24時間ジャブれますか?」を推進する加藤哲煕さんです。
加藤さんは、日本とロシア及びヨーロッパ・アジア各国の政治、経済、文化、社会に関する調査研究、交流の促進を行っている団体・欧亜創生会議に所属し、機関誌「lector Inspirits」の編集員として活動するほか、「ロシアに行きたくなる100の理由+」というInstagramアカウントの運営もされています。
学生時代にロシアに1週間ホームステイをし、その体験からロシア・東欧に強い興味を持ち始めた加藤さん。
そんな加藤さんから、ご自身が関わられているロシア交流についてのお話や、今年初めに始動した、新プロジェクトのコンセプトなど、様々なことをお聞きしました。
ホームステイをきっかけにロシアに関心を持つことに
--今日はよろしくお願いします!まず初めに加藤さんの簡単なプロフィールからお聞きできればと思います!
こちらこそよろしくお願いします。
私は広島県出身で、大学は同志社大学経済学部を卒業しています。
今は国内の電機メーカーで、営業企画の仕事をしています。
大学時代は海外旅行が好きで、4年間で、ロシアも含め、約10カ国に行きました。たくさん行っている人に比べれば、全然少ないと思いますが(笑)
現地の人々の生活や暮らしを旅行を通じて垣間見るのが好きで、それが海外旅行を好きな理由ですね。
なので、旅先では観光名所ではなく、住宅街や路地裏を歩いたり、食事も、現地の人たちが普段利用しているようなレストランに行くことが多かったです。
ちなみに、最近は魚を捌くことにハマっていて、毎週日曜日に開かれている、港の朝市に行って、魚を買っています(笑)
--海外旅行から、魚を捌くことまで、趣味が幅広いですね!?
昔から、興味を持つ分野が広くて。
熱しやすく冷めやすいと言われるとも思うんですが、自分自身、そんな性質があると思っています。
色んなことに手を突っ込んでは、辞めてきました(笑)
-ーそんな中で、ロシアとの交流については、大学時代から長く続けていらっしゃると思うんですが、元々、ロシアに関心を持ったきっかけは何だったんでしょうか?
ロシアに関心を持つようになった一番のきっかけは、大学二年生のときに、「日本JC日ロ友好の会」が毎年行なっている日ロ交流事業「ロシアミッション(※)」に参加して、訪ロした際のホストファミリーの優しさに触れたことです。
ホームステイを受け入れてくれたロシア人学生が、自分の両親が日本語を話せなかったこともあり、日本語とロシア語の両方で書かれた簡単な挨拶シートみたいなものを事前に作ってくれて、それを、何食わぬ顔で冷蔵庫に貼ってくれていたんです。
ご両親と私たちの間を取り持とうとしてくれているのがヒシヒシと伝わってきて、優しさを感じましたね。
素敵だなと思ったので、とても印象に残っています。
それまでロシアに関しては、世界史の授業で学ぶ内容や北方領土の問題であったり、学校やニュースなどで得られる情報しか知らなかったんです。ネガティブな先入観も多少ありました。
しかし、実際、ロシアを訪れて、そこに住む人たちと交流すると、そういった先入観もそれほど重要じゃないと感じました。
自分の先入観と現地に訪れたときの印象を天秤にかけれたからこそ、今もこうして日ロ交流に携わっているんだと思います。
(※)ロシアミッション・・・日本とロシアの歴史・経済・文化を知り、日ロ両国間の諸問題を平和的解決に導き、友好の懸け橋になる人財育成を目的に、日本人学生のロシア派遣などを行う日ロ青年交流事業。
機関誌「lector Inspirits」について
--加藤さんは、現在、日本とロシア及びヨーロッパ・アジア各国の政治、経済、文化、社会に関する調査研究、交流の促進を行っている団体・欧亜創生会議に所属されていますよね。同団体の機関誌である「lector Inspirits」の編集もされていますが、このきっかけは何だったんでしょう?
大学一年生の時に、「旅」をテーマにしたインカレサークルに所属していたんですが、その際、現在、欧亜創生会議の副理事長を務めていらっしゃる大森貴之さんからお誘いを受けたことがきっかけです。
当時の「lector Inspirits」は、大学生たちが硬派なフリーマガジンを作ることをコンセプトにした任意団体のようなものでした。
私が執筆した記事はそれほど多くなくて、4〜5記事くらいですが、現職の議員さんに対する取材への同行や、普段なかなかお会いする機会のない住職さんへの取材など、活動は刺激的でしたね。
RouteX Inc.の代表・大森貴之さんインタビュー「情報の非対称性を無くし、日本・ロシアのスタートアップ企業の交流を促す」
--まさに刺激的な大学時代ですね!初めての活動などは覚えていらっしゃいますか?
「lector Inspirits」での最初の活動は現職議員に対する取材への同行でした。
東京まで足を運んでの取材だったんですが、取材の空気感や現場の雰囲気を肌で感じたことを今でも鮮明に覚えています。
防衛省への見学会などにも参加し、現場ではカメラマンをしながら取材の要領を学んでいきました。
取材から帰ったあとは記事の校正なども担当していましたよ。
ちなみに、初めて自分で企画を立ち上げて取材したのは、ロシアとは全く関係なくて、「禅」についてでした(笑)
建仁寺塔頭のお寺にお伺いをしました。
--初取材がお寺というのは渋いですね(笑)!
たしか、哲学の授業だったと思うんですが、鈴木大拙について学んだんですよ。「あ、これは面白いな」と思いました。
当時は、自分が何者で何のために存在しているのかとずっと思い悩んでいました。
今も全然わからないままですが(笑)
なので、その方向で取材内容を考えていたと思うのですが、これでは広がりがないとご指導を頂いて、結果的に禅の海外展開をキーワードに取材をし、記事を書きました。
お伺いした建仁寺塔頭の霊源院は一休さんで有名な一休宗純が修行をしていたお寺で、和尚も大変お忙しい中、懇切丁寧にご対応をいただいたことを今でも覚えています。
ただ、肝心の記事の内容は、あまり覚えていないんですけど、直されまくって半分くらい自分の文章じゃなかったのは覚えています(笑)
現在は、企画や構成、必要であれば取材などもする形で「lector Inspirits」に携わっています。
国際的な情報を発信するクオリティマガジン「lector Inspirits」の編集長・三宅綾香さんインタビュー「ロシアのみならず、日本にない新しい目線による記事を提供したい」
「ロシアに行きたくなる100の理由+」について
--今ではベテラン編集者になったわけですね!ぜひ、この流れで、欧亜創生会議が運営するもう一つのメディア「ロシアに行きたくなる100の理由+」についてもお聞きかせしていただけると嬉しいです!
「ロシアに行きたくなる100の理由+」は、団体として名刺代わりになるようなものがあるといいよね、というところからInstagramで開設されたメディアです。
欧亜創生会議は「ロシアミッション」のOB、OGが集まってできた団体ということもあって、メンバーには、ロシアについて、あまり知られていないようなニッチな知識や実体験がたくさんあります。
それらを発信していくことで、日本人にロシアのことをもっと知ってもらおう、という思いを持って、アカウントを運営しています。
コンセプトは、しっかり定まっているわけではないんですが、「ロシアの定番からニッチな分野まで、幅広いトピックをお届けするメディア」ですね。
運営には、先ほど言ったように、ロシア関係のスペシャリストから現在、大学院でロシア研究をしている人まで、様々な人材が関わっているので、幅広い情報を届けることができていると思います。
--発信する情報はどのようにして決めているんでしょうか?
いえ、特に決め方のようなものはありません。
これまでは、投稿を色分けして、赤枠=観光関連、青枠=日本文化をロシア語で発信、白枠=その他何でも、といった形で発信していたんですが、最近はそのルールも撤廃して、運用に関わるメンバー各々が好きなテーマを好きなように発信できる方向に方針を転換しました。
トピックに縛られず、各々が関心のある分野の情報を発信する方が、投稿の深みも増すのではないかと考えた結果です。
新たな日ロ交流を模索する枠組み「Remake 日ロ交流 24時間、ジャブれますか?」
--ありがとうございます。ここからは最近の活動についてお聞きしたいのですが、加藤さんは先日、行われた欧亜創生会議の日ロ交流プロジェクト「Remake 日ロ交流 24時間、ジャブれますか?」の運営に関わってらっしゃいますよね!ぜひ、プロジェクト発足の経緯等をお聞きできればと思います!
欧亜創生会議は2020年に発足しましたが、運の悪いことに、その年新型コロナウイルスが大流行して、世界への扉が閉じ、お互いの国を行き来するような「リアルな国際交流」ができなくなってしまいました。
これまでの国際交流の枠組みというのは、オフラインの交流がメインだったと思いますが、コロナ禍によって急に方向転換を迫られ、オンラインで交流することを余儀なくされた部分があると思います。
オンライン交流には良い面もたくさんありますが、私としては、2020年を通して、オンライン交流に対して物足りなさを感じることが頻繁にありました。
そこで、この物足りなさというのが、どこから来るものなのかを考えたんです。
そうすると、これまでの日ロ交流というのが、「ロシアを訪問すること」ばかりにフォーカスしたものであることに気付いて、これまで訪ロ以上の深い交流に踏み込めていなかったのではないか、という仮説を立てました。
この仮説に対する答えを検証すべく、日ロ交流に関係するテーマに沿って、幅広くアイディアを募集し、採用されたアイディアを実現に向けてバックアップすることを趣旨としたアイディアソン「Remake 日ロ交流 24時間、ジャブれますか?」が発足した次第です。
--「Remake 日ロ交流 24時間、ジャブれますか?」という名称にはどのような意味が込められているんでしょうか?
分解して説明しますね(笑)
メインである、「Remake 日ロ交流」の部分に関しては、これまでの日ロ交流を作り直そう、新しい枠組みを作ろう、という思いから名付けました。
サブテーマである「24時間、ジャブれますか?」という部分は、見ての通り、二つに分かれていて、「24時間」の部分は、昔のリゲインのCMで「24時間戦えますか?」というのがあったと思うんですが、そこから着想を得ています(笑)
「ジャブる」については、Japan、Bridge、Russiaの頭の部分(Ja、B、Ru)を繋げたもので、「日本とロシアの架け橋になる」という意味を込めました。
サブテーマはこの二つを組み合わせてできているわけですが、そのままの意味の通り、それくらい熱烈に日ロの架け橋になってほしい、という思いを込めています。
--めっちゃいいですね〜!2021年度のテーマ「ロシアの地方都市の魅力を日本人に伝えよ」はどのように決めたんでしょうか?
欧亜創生会議が発足した2020年は日露地域・姉妹都市交流年(※)だったんですね。
そのため、2020年は全国的にロシアの地方都市の魅力を伝えることをコンセプトにしたプログラムがたくさんありました。
その一翼を欧亜創生会議も担っていて、ロシアの地方都市をもっと知ってもらうことをテーマに、ロシアの各地方都市の行政関係者らにそれぞれの都市の魅力を発信してもらうオンラインイベントを何度か開催しました。
その結果、欧亜創生会議として、ロシアの地方都市とのつながりができたんですよ。
これをどうにか活かせないかという話があって、「Remake 日ロ交流 24時間、ジャブれますか?」のプロジェクトテーマを「ロシアの地方都市の魅力を日本人に伝えよ」に決めました。
(※)日露地域・姉妹都市交流年(日露地域交流年)・・・2019年6月29日、プーチン大統領訪日の際、日露両国は2020年から2021年にかけて「日露地域・姉妹都市交流年」(日露地域交流年)を実施することで一致し、当局間覚書が署名された。その後、日露地域交流年の開催期間を1年間延長し、2022年末までとされることとなった。
--元々は2020年の活動がきっかけだったんですね!今回採用されたのは、「ぬいぐるみ旅行プロジェクト」でしたよね。ぜひそのお話もお聞かせください!
「ぬいぐるみ旅行プロジェクト」は、東京外国語大学ロシア語サークル「リュボーフィ」が提案してくれたアイディアです。
これは、まず、日本からロシアにぬいぐるみを送って、様々なシーンを現地のスタッフに撮影してもらい、その写真を企画用のInstagramアカウントに投稿します。
例えば、現地のレストランでぬいぐるみが食事をしているような写真や公園で寛いでいるような写真や動画ですね。
ぬいぐるみにロシアでの旅を楽しんでもらい、最後は、お土産とともにぬいぐるみが日本に帰国して、持ち主の手元に戻ってもらいます。現地に行けなくても五感でロシアを感じてもらうことを趣旨としたプロジェクトになっています。
このアイディアは、企画書に目を通した段階で、具体性、実現可能性が高いと感じました。
また、写真をSNSにあげていくことで、現地でのぬいぐるみの足跡を知ることができるという部分にも、オリジナリティを感じましたね。
新しい交流の枠組みという主題にも沿っているため、ぜひ一緒にやらせて頂きたいと思いました。
--いいですね〜!今回、交流のカウンターパートとしてタタールスタン共和国を選んだ理由は何でしょうか?
これには二つの理由があります。
1つ目は地方都市を知ってほしかったという思いです。
ロシアに関わったことがある人なら知っているかもしれませんが、普通の日本人にとっては、正直、タタールスタン共和国の知名度は低いと思います。
そういった、日本であまり知られていない都市の魅力を発信することは、国際交流の1つの枠組みとして非常に有益なことだと考えています。
タタールスタン共和国は、日本と同じように四季がはっきりしているほか、住民はイスラム教徒とロシア正教徒が半々くらいで、宗教が入り混じっているので、建物なども特徴的で面白いんですよ。
タタールスタン共和国は、日本人にあまり知られていないものの、たくさん見どころがある都市なので、ロシアの地方都市を知ってもらうための入り口として、取っかかりやすいだろうと思ったんです。
二つ目は、欧亜創生会議のパートナーに、タタールスタン共和国のカザン大学で日本語を学ぶアディリャさんというロシア人女性がいるんですが、この方を通じて、プロジェクトを円滑に進めることができるという展望があったからです。
アディリャさんは、現地で「NICHIRO SEINEN 日露青年」という交流団体を立ち上げるなど、日ロ交流にとても積極的な方で、その人と一緒に活動ができたら、このプロジェクトも上手くいくのではないかと思いました。
加藤さんが感じるロシアの魅力と今後について
--そういった理由があったんですね〜!ありがとうございます!ここまで加藤さんの関わる日ロ交流活動についてたくさんお聞きしてきましたが、交流を続ける中で、加藤さんが感じるロシアの魅力は何ですか?
ありきたりの回答にはなってしまうんですが、一言で言うと「人」ですね。
ロシア人だけでなく、ロシアに関わる日本人たちも含めて、ロシアの魅力は「人」だと、私は考えています。
私が知っているその「人」たちは、みんなイキイキとしていて、すごく人生を楽しんでいる方が多いと感じています。
そういう方といると自分も楽しくなりますし、自分の人生もイキイキしてきて、元気をもらえるんですよ。
私はロシア語を話すことができませんが、むしろロシア語を話せない者代表として、草の根的に日ロ交流を支えていくことができればと考えています。
--いいですね〜!「人」の魅力は、私たちもいつも感じています。最後に、加藤さんの今後のビジョンのようなものがあれば、お聞かせしてもらえると嬉しいです!
現在、情勢の問題で、「ロシア」に対するイメージが非常に悪くなっていますよね。
もちろん、どんな形であれ国家が他国の主権を脅かすような行為はあってはならないというのが前提ですが、私が出会ってきたロシアに関係する人たちのことを考えると、「ロシア」を一括りにして、悪感情を募らせることは少し悲しいなと思います。
長期的なビジョンにはなりますが、見てくれる人たちだけでもいいので、ロシアを好きになるとまでは言わずとも、違った視点でもロシアを捉えてもらえるような活動をしていきたいですね。
--素晴らしいと思います!今日は本当にありがとうございました。ぜひ、私たちもそうした視点の提供の一助になれるように情報発信していきたいと思います!
加藤哲煕さんの所属する団体などについての情報はこちらから
↓
名称:一般社団法人 欧亜創生会議
HP:https://europe-ace-asia.com/
名称:ロシアに行きたくなる100の理由+
Instagram:https://www.instagram.com/europe_ace_asia/
(インタビュアー/山地ひであき)
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