2023.01.31

(株)LikePayのイーゴリ・ヴォロシオフ代表取締役インタビュー(後編)
「『特定の人しかできなかったことを、できるだけたくさんの人ができるようにすること』が私の理念です」

Today's Guest

イーゴリ・ヴォロシオフさん

ロシア・ブリャンスク出身。起業家。(株)LikePayのCEO。モスクワ大学卒業後、東京大学大学院へ。修士2年で、LikePayを起業する。現在はノーコードサービス「Webflow」の日本語版サービスの立ち上げやスクールを運営しているほか、「Webflow」の普及のための情報発信にも力を入れている。

日本・ロシアに縁をもつ「人」にスポットを当て、その「人」を紹介、そして「人」を通じて、ロシアの魅力や日本とロシアの関わりなどを、車でドライブするような冒険心を持って発信していく「日ロドライブ」

 

ゲストは前回に引き続き、LikePayの代表取締役で、ロシア人起業家のイーゴリ・ヴォロシオフさんです。

(※インタビューの前編はこちらから)

(株)LikePayのイーゴリ・ヴォロシオフ代表取締役インタビュー(前編) 「モスクワ大学時代の日本人との交流が来日のきっかけです」

 

インタビューの後編となる今回は、ロシアと日本の起業風土の違いやロシアで進んでいるデジタル化などについてお届けします。

 

以前LikePayで働いていた中村有紗さんへのインタビューはこちら

ロシア語話すPR担当・中村有紗さんインタビュー「ロシア人と日本人の長所を組み合わせることができれば最強のタッグになります」

 

目次

日本とロシアの起業文化の違い

--日本で起業されているヴォロシオフさんですが、ロシアと日本で、起業文化の違いのようなものは感じますか?

私は、ロシアのスタートアップ業界については、あまり詳しくないですが、知ってるところで言うと、ロシアは民間主導よりも、行政主導で業界を盛り上げているの気がしますね。

例えば、ロシアでは、行政からの様々な助成金をはじめ、イノベーションを促すために、モスクワの近くに「スコルコボ」という特区を作るなどしています。
逆に言えば、民間や個人の投資家が少ないイメージがあります。資金があんまり回ってないんですよね。

そのため、海外での資金調達が魅力的ということもあり、ロシア人起業家たちは、事業を始める以前から海外展開を考えているんですよ。
なので、ロシア人起業家のサービスはレベルが高いと思います。

以前、ロシアのベンチャーキャピタルに関するイベントをzoomで聞いてたことがあるんですが、そこで思ったのは、日本のスタートアップのプロダクトのレベルや実績とロシアのスタートアップのそれを比べると全然レベルが違うということです。
ロシアの方が圧倒的にレベルが高いんですよ。
ロシアのスタートアップは、技術的なレベルや実績、ユーザーの数や売上も含めて、全部すごかったです。

これだけ実績のあるスタートアップだったら、日本ではもっと大きな調達ができるだろうな、と思う反面、実際の彼らの調達額を見ると、とてももったいないと感じました。

元々、ロシアは経済的には厳しい環境です。
その中で成功できる人は、幾多の困難を乗り越えていると思います。
そういった彼らのサービスは本当にすごいですし、優秀な人たちだと思いますね。

(写真:イーゴリ・ヴォロシオフさん)

 

--印象に残っているロシアのスタートアップの事業はありますか?

面白かったのは、「聞けない、話せない、見えない人」とコミュニケーションを取るためのグローブを開発しているスタートアップですね。

暗闇の中で生活している人たちが、コミュニケーション取るには、多くの場合、「手」で伝えるしかありませんよね。
そこで、そのロシアの起業家は、グローブを通じて、彼らに対して、ジェスチャーのようなものを送って、コミュニケーションできるようにするという方法を考えたんです。

これをどこかの大学ではなく、スタートアップがやっているということに驚きました。
また、彼らの話聞いていると、ロシアの会社にも関わらず、なぜかイギリスやアメリカのマーケットについて話していたんです。
つまり、最初からイギリスやアメリカのマーケットをターゲットにしてるんですよ。

このことからも分かるように、ロシア国内でもレベルの高い起業家たちは、最初から海外のマーケットを見据えてます。
日本はほとんどの起業家が日本市場だけを見据えてますよね。
そもそも日本市場が大きいので、日本市場をターゲットにするだけでもユニコーン企業(※)になれるという事情もあると思います。
例えば、会計ソフトを作るだけで、日本ではユニコーン企業になれますし。

ロシアは、日本に比べて国内のマーケットが小さいので、海外に進出しない限り、ユニコーンになれる可能性は低いです。
なので、海外展開を前提にして、事業を始めるんだと思います。

(※)ユニコーン企業・・・設立10年以内で、未上場かつ評価額が10億円を超えるベンチャー企業

 

日本での起業について

--ヴォロシオフさんが日本で起業する上で感じた、日本での起業のメリットやデメリットみたいなものはありますか?

まずデメリットは、当然のことですが、外国人として他国で起業するのは難しいですよね。
自分は日本語が喋れるから大丈夫ですが、やはり日本でも言語の壁はありますし、起業した際、取得しなければならない経営ビザのハードルも高いです。

また、日本で資金調達しようとする際、多くの投資家が外国人をあまり信頼してくれないというか、できれば、日本人に投資したいという思いがあるように感じます。
それを言わない人もいますが、面と向かって、はっきり言われたこともあります。

ただ、メリットとして、サービス内容の点では、他の国に比べて、日本は割と起業しやすい国だと思っています。
サービスを思いつきやすいんですよ。

海外のサービスで流行ってるものを、日本で展開するというのが早くて、とても簡単です。
世界で流行ってるサービスが、わりと日本には遅れて来ることがその理由です。

それと、日本では法人営業が成功すれば、結構儲けることができる印象です。

私が思うに、日本の大企業の人たちは、あまり積極的に自分から情報を探しに行きません。
大企業は、営業を受けて、納得したら、割と高めの値段でも契約しますが、自分たちで、同じようなサービスの有無や海外のもので、いいツールがないかといったことを調べようとしないことが多いと思うんです。

言語の壁や大企業の担当者のやる気が低い場合なども要因になるかもしれませんが、日本人はサービスに気前よくお金を払ってくれる印象ですね。

海外では、例えば10ドルしか取れないサービスであっても、日本では1万円で売れるので。
そういった面ではビジネスしやすい、儲かりやすい側面があると思います。

 

ロシアの魅力

--日本とロシアの違いから、「ロシアのここが日本でも活かせそう」といった部分はありますか?

ロシアは技術者がとても多いんですよね。
先ほど言ったように、スタートアップもプロダクトレベルが高いですし、IT分野は特に優れています。
例えば、日本の銀行のアプリはすごく使いづらいですが、それに比べて、ロシアの銀行アプリは完璧なんですよ。本当にすごい。

一つの銀行アプリで何でもできますし、すごく使いやすいです。
例えば、色んなポイントも貯まりますし、各種支払いはもちろん、投資もできます。

ちなみに、日本のオンライン銀行は、書類を送らないといけないと思うんですが、ロシアではオンラインで完全に申し込みが完了して、次の日にカードが届くという銀行もあります。

また、ロシアは行政のデジタル化も結構進んでいます。
日本にもe-Taxなどがあると思うんですが、使ってみた感想は、正直ひどかったです。
特定のブラウザでないとダメとか、自分のパソコンのシステムが日本語になってないとダメとか、色んな要因で引っかかる仕様になっていて、すぐには使えないものでした。

反面、ロシアではそういった政府のデジタル化はすごく進んでいて、アカウント一つで、そこから自分に課されている税金や交通違反の罰金など全部が把握できて、支払うこともできます。

そういった、システムをデジタル化できるノウハウを日本に持ってくるとすごく良いと思います。

ちなみに、ロシア人の弱い部分は、日本人ほど細かいことは気にしないことが挙げられると思います。
ロシア人は、予定を立てて、その通りに進めていくのが少し苦手です。
ロシアには、物事を迅速に進める文化があるので、計画的に物事を進める日本の文化と組み合わせると、より良いと思いますね。

 

日本の魅力

--ビジネスだけを見ても、ロシアから学べることはたくさんありそうですね。

とはいえ、日本からもたくさん学ぶところがあります。本当に日本人は物事を計画通りに進めていくのが上手です。

それは実行率が高さにも繋がっていて、どの国と比べてもすごいとおもいます。
色々なことを細かいところまで作り込んだりするところや、お互いを尊重する態度は、ロシアや他の国に足りてないだろうなと思います。

ロシアだと、日常生活の中で、毎日かなりのストレスを受けるんですよ。
突然、赤の他人から変なことを言われたりとか、買い物するときにレジの人に怒られたりもします。
ロシアでは、本当に変なことが多いんですが、それに比べて、日本はとても平和に感じるので、そういった部分は、ぜひ色んな国に取り入れてほしいなと思います。

 

「今まで特定の人しかできなかったことを、できるだけたくさんの人ができるようにする」

--ありがとうございます。最後の質問になるんですが、ヴォロシオフさんの今後について、お伺いできたらと思います!

そうですね、私の理念は、「今まで特定の人しかできなかったことを、できるだけたくさんの人ができるようにする」ということです。
ノーコードもその一環ですね。

この理念に従って、ノーコードに限らず、いろんなサービスを展開できればいいかなと思っています。

私は「チーム」を大事にしているので、今後は会社を成長させつつ、自分のチームを拡大していきたいですね。

 

--今日は本当に貴重なお話をありがとうございました!ヴォロシオフさんからビジネスや理念について、たくさんお話を聞けて勉強になりました!

 

 

イーゴリ・ヴォロシオフさんが代表を務めるLikePayに関する情報などはこちらから

名称:(株)LikePay
HP:https://www.likepay.jp/company/about
Twitter:https://mobile.twitter.com/likepay_inc
YouTubeチャンネル:https://m.youtube.com/channel/UCsGq3nlFuMApRlZ5KLyQarA

 

 

 

(インタビュアー/山地英明)

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