日本・ロシアに縁をもつ「人」にスポットを当て、その「人」を紹介、そして「人」を通じて、ロシアの魅力や日本とロシアの関わりなどを、車でドライブするような冒険心を持って発信していく「日ロドライブ」。
第32回のゲストは、ロシア国立モスクワ音楽院を2019年に卒業されたピアニスト・坂本里沙子さんです。
坂本さんは高校卒業後、ロシア国立モスクワ音楽院に進学、6年間の留学生活を送った後、日本に帰国して、現在は都内を中心にピアニストとして活躍されています。
ロシア留学時代には、数々のコンクールで優秀な成績を収められているほか、モスクワ音楽院卒業時にはロシア国家演奏家資格も取得されました。
また、2020年には、ロシアのモスクワ音楽院での留学生活について綴った、自身初となる著書『私の音楽留学』を出版。
ピアニストとしての活動と同時に、様々な媒体でロシア芸術の魅力を発信し続けている坂本さんに、留学時代のエピソードやロシアの魅力、著書『私の音楽留学』についてなど、お聞きしてきました。
モスクワ音楽院での生活・エピソード
--今日はよろしくお願いします!まず最初に坂本さんの簡単なプロフィールをお伺いしてもよろしいですか?
私は5歳からピアノを始めて、桐朋女子高校音楽科を卒業、その後ロシア国立モスクワ音楽院で予備科と本科で6年間学びました。
ロシアから帰国後は、都内を中心にピアニストとして活動しています。
--坂本さんは5歳からピアノを始められて、ピアニストとして活躍されていらっしゃいますが、留学先をロシアに決めたきっかけは何だったのでしょうか?
高校三年生の時に、モスクワ音楽院の教授が私の音楽高校でレッスンをしており、そのレッスンを受けた際、教授から「モスクワ音楽院で勉強してみないか」と誘っていただいたことが、最初のきっかけです。
--ロシアでの学生生活やカリキュラムについてもお聞きしたいのですが、印象に残ったことなどはありますか?モスクワ音楽院についても教えていただけると嬉しいです。
モスクワ音楽院はチャイコフスキーが教鞭をとり、ラフマニノフやスクリャービンが学び、数々のピアニストや作曲家を生み出した伝統と歴史のある音楽院です。
私は最初の1年間はモスクワ音楽院の予備科というコースに通い、レッスンを受けながらロシア語等を学び、学部の5年制の本科に入学しました。
モスクワ音楽院での授業は全部ロシア語で、実践的な授業や試験が多かったです。
歌手の方と初見の楽譜で合わせる試験やロシア語の試験も読んだ文章を口頭で要約したり、音楽院のピアノを調律する授業があったり、実際に子供にピアノを指導したり、ロシアならではのユニークな授業がたくさんありました。
--音楽院時代はどこに住まわれていたのですか?
留学の最初の3年間は寮で生活していました。その時はロシア人と台湾人の子と3人で共同生活をしていました。
寮の部屋はとても狭くて常にお互いが何をしているかわかるような状態でしたが、見ず知らずの国籍も違う人と、そこまで近い距離感で暮らすということは新鮮で、一緒にドラマを見たり散歩をしたり、ご飯を作り合ったりして楽しかった良い思い出です。
--寮にはロシア人の学生もいらっしゃったんですね!その後はどちらにお住まいだったのですか?また生活の中でロシアの方に対しては、どのような印象をお持ちになりましたか?
そうですね、寮は8割くらいはロシア人の学生だったと思います。
その後はコムナルカというロシアの共同住宅に三年間住みました。
こちらは音楽とは関係のないロシア人との共同生活で、音楽家ということでも、日本人ということでも珍しがられました。
どちらの生活でもロシアの人は嘘がなくてとても人懐っこい人たちだな、と思うようになりましたね。驚くようなことが毎日起こるのですが、皆さん静かに受け入れていたのも印象的でした。
それと、話の中にシニカルなジョークを混ぜて、笑わせてくれたのも印象に残っています(笑)
--シニカルなジョークいいですね〜(笑)ロシアでは、何度も演奏する機会があったと思うんですが、特に印象に残っている演奏などはありますか?
右手を痛めてしまい、ピアノが弾けない時に、実技試験を「左手のシャコンヌ」と言う左手のみの曲で乗り切ったことや、5年生の時の卒業試験で演奏したロシア作曲家の曲を「ロシアで勉強したことが分かるロシアを感じるものだった」と、審査した先生が高い評価をして下さったことが嬉しくて印象に残っています。
ロシア音楽の魅力
--そうした演奏も経て、坂本さんが思うロシア音楽の魅力についても、ぜひお聞きできればと思います。
19世紀の初めにグリンカがロシア音楽の基盤を作り、それはやがてチャイコフスキーなどに受け継がれていきます。
ロシア音楽の特徴は、グリンカが「音楽は民衆が作るものである」と話したように、ロシアの民族的なメロディがロシアの自然やロシアという国の広大さから影響を受けながら紡がれていることだと思います。
そのメロディは西洋のクラシック音楽のフォルマの中に上手く溶け込みながら今日まで残っています。
ロシア音楽の中には人知を超えた国土や自然の壮大さを感じ、また哀愁漂う土着のメロディの中には私たちの心にすっと寄り添ってくれるなんとも言えない魅力があると思います。
芸術が身近に存在することがロシアの魅力
--音楽とは別に、坂本さんが感じるロシアという国の魅力はありますか?
音楽も含めて芸術が身近な存在であることがロシアの魅力の一つだと思っています。
毎日いろいろなところでコンサートや演劇が行われていて、それらを比較的安価で楽しむことができるんです。
また、美術館も多いのですが、毎年『夜の美術館』という特別な日があって、その日は深夜12時まで美術館が開館しています。
18時以降から入館料が無料になって、好きな美術館を深夜まで楽しむことができるんです。
大人でもわくわくできる取り組みだなぁ、と思いましたし、芸術が身近に存在するロシアならではの催しだなとも思いました。
著書『私の音楽留学』について
--『夜の美術館』めっちゃいいですね!ロシアの方は芸術への理解が深い方が多いですもんね。坂本さんはご自身の留学経験をまとめた『私の音楽留学』という著書を出版されていますよね?ぜひ、そのお話もお聞きしたいです!
『私の音楽留学』はロシアへの留学当初から、ずっと書き続けていたブログが元になっています。
『私の音楽留学』はそのブログの中でも、『音楽院の出来事』に関わる部分のみをピックアップして、書籍化したものです。
本書を通じて、あまり馴染みのないであろう『ロシア』という国の『音楽大学』が実際どういうところなのか、どのような生徒や先生がいて、どのようなカリキュラムで授業が行われているのか、そんなところも細かく書いているので、ロシアの音楽大学の実像だけでなく、ロシアの音楽教育全体についても身近に感じることができる内容になっていると思います。
読んだ方からは、「留学を追体験したような気持ちになった」という嬉しい感想もいただいているので、ロシアや音楽に興味ある方はもちろん、どちらにも興味のない方にもストーリーとして楽しんでいただけると嬉しいです。
今後の予定などについて
--ありがとうございます!エピソードの一つ一つからロシアでの留学生活が想像できるつくりになっているのですね。現在坂本さんは早稲田大学のロシア語ロシア文学コースで学んでいらっしゃるとのことですが、今後の展望についてお聞きできればと思います!
ピアノの魅力をみなさんに伝えられるようなピアニストでありたいなと思います。そして、ロシア音楽やロシアの芸術を広めるような活動もしていきたいと考えています。
また、現在、大学で勉強しているロシア文学とロシア音楽の接点を見つけながら、ロシアの芸術全般を紹介していきたいです。
5月にはコンサートもあるのでぜひ。
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日曜午後のコンサート@昼サイドテラス
日曜午後のひと時、代官山で聴くクラシック音楽のシリーズコンサート〜
出演:小野綾香 (メゾソプラノ)
坂本里沙子(ピアノ)
2022年5月22日(日)14:00~15:00(13:30開場)
会場:ヒルサイドバンケット(ヒルサイドテラスC棟)東急東横線代官山駅より徒歩3分
入場料:一般2000円 学生・クラブヒルサイド会員1500円(全席自由)お茶券付
ご予約/お問合せ先 email:Sunday.A.Concert@gmail.com
主催:SPACE・SEVEN / 朝倉健吾
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ロシア歌曲のプログラムでロシア音楽の魅力を存分にお届けします。
--ロシア文学と音楽の接点、とても興味深いですね!活動の幅も広がりそうです。コンサートも楽しみです!今日は本当にありがとうございました!
坂本里沙子さんの情報についてはこちらから
↓
HP:https://risakosakamoto.com/
坂本さんの著書『私の音楽留学』について(※Amazonから購入できます)
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https://www.amazon.co.jp/dp/4910100121
(インタビュアー/山地ひであき)
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