2022.03.23

ロシア語話すPR担当・中村有紗さんインタビュー
「ロシア人と日本人の長所を組み合わせることができれば最強のタッグになります」

Today's Guest

中村有紗さん

元防衛省語学職としてロシア語翻訳・通訳を経験。現在はロシアと関わりのある複数の日本企業でPR担当として広報業務に携わりながら、個人でロシア語翻訳を行っている。幼いころからクラッシックバレエに親しみ、ロシアに関心を持ったのもバレエがきっかけ。

日本・ロシアに縁をもつ「人」にスポットを当て、その「人」を紹介、そして「人」を通じて、ロシアの魅力や日本とロシアの関わりなどを、車でドライブするような冒険心を持って発信していく「日ロドライブ」

 

第33回のゲストは、ロシア語を話すPR担当として活躍されている中村有紗さんです。

 

中村さんは、防衛省語学職としてロシア語翻訳・通訳していた経験のある方で、現在はロシアと関わりのある複数の日本企業でPR担当として広報業務に携わりながら、個人でロシア語翻訳もされています。

幼いころからクラシックバレエをされていて、大学時代からロシア語を学び、現在までロシアと関わり続けていらっしゃる中村さん。

そんな中村さんにロシアと関わる仕事の面白さ、ロシアの魅力、さらには防衛省時代のエピソードまでたっぷりお聞きしました。

(写真:中村有紗さん)

目次

多様なキャリアとロシアにハマったきっかけ

--今日はよろしくお願いします!中村さんは、とてもたくさんの経歴をお持ちだと思うのですが、まずは簡単に自己紹介をお願いしてもよろしいですか?

こちらこそよろしくお願いします。

私は東京外国語大学でロシア語を学んだ後、防衛省に入省、防衛省語学職としてロシア語翻訳・通訳をしていました。

その後転職して、LIXILグループの一つであったダイナワンでオンラインの広報やマーケティングを担うようになると同時に、LikePayというスタートアップでも働くようになりました。

LikePayは、ロシア人が日本で起業した会社で、当初はウェブ開発の教育やSNSの『いいね』を店舗での割引に利用できるサービスなどを展開していました。
現在は、ノーコードツール”Webflow”を用いた事業を展開しています。
創業時、私は翻訳等を通じて、同社の設立を支援していたのですが、その後広報やSNS運用も担うようになりました。

この2社での経験がパラレルキャリアのような形になって、今に繋がる広報のキャリアが形成されました。
ダイナワンのような“ザ・日本企業”のような職場環境にいるのと同時に、LikePayでスタートアップの環境を経験できたことは面白かったです。

現在は、海外のスタートアップ・エコシステムのリサーチを専門とするRouteX Inc.にも参画していて、PR Leadとして広報統括及び英語・ロシア語での海外マーケットに関するリサーチや政府関係機関との交渉等をしています。

 

--改めてお聞きすると本当に多様な経歴ですよね、すごいです!!中村さんがロシアに関心を持ったきっかけはバレエである旨拝見しましたが、ロシアにハマったきっかけなどはありますか?

まずは『ロシア語の響き』ですね。
初めてロシア語を聞いたのは、東京外国語大学のオープンキャンパスに行った時ですが、衝撃を受けました。こんなに美しい言語だったのかと。
もちろん意味はわかりませんでしたが、その頃から既にロシア語の響きが好きでしたね。

とはいえ、実は入学当初、ロシア語の先生がとても怖くて、すぐ辞めたくなったんですよ(笑)
ただ、大学で所属していた日露学生交流会というインカレサークルで、初めて同世代のロシア人と関わって、ロシア語学習のモチベーションが一気にアップしました。
実際に交流することの大事さを学びましたね。

それと、『ロシア人という民族の面白さ』もロシアにハマった要素の一つです。

ロシア人は性格がはっきりしていますよね。
私自身、はっきり物を言うタイプの性格なので、それが結構自分に合ったというのは大きかったです。
また、いい意味でロシア人は周りを気にしません。
私も昔から周りに合わせるというよりは、何か変わったことがしたいと思うタイプだったので(笑)
なので、ロシア人とは性格上の共通点も多いですし、仲良くなると、本当に温かい民族だということも日露学生交流会を通じて知りました。

(写真:交流の様子)

 

防衛省への入省について

--中村さんのキャリアの中でも、とりわけ防衛省での勤務経験というのは、独特なキャリアだと思うのですが、昔から防衛省に入省したいと思っていたんですか?

元々は防衛省ではなく、外務省への入省を考えていました。
ただ、昔から国のために自分のロシア語スキルを活用したい、という思いはあって。

うちは父も祖父も県庁に勤めていて、いわゆる公務員家庭なのですが、それもあってか、昔から『ビジネス』というよりは国や地方自治体などで、人の役に立つ仕事をしたいという思いがありました。
加えて、『海外』に関心があったので、漠然と外務省への入省を考えていましたね。

ただ、具体的に進路を考えていくにつれ、外務省では海外に長期滞在することになるので、海外に10年単位で生活するとなると、自分としては、家族とかどうしよう、と思う部分もありましたし、外務省だとロシア語で受験したとしても、希望の地域に配属されるとは限らないので、希望の地域でなかった場合に果たしてがんばれるのか、という思いもありました。

なので、他の公務員で、語学を活用できる業務を検討することにしたんです。
防衛省以外に警察なども検討しましたが、祖母が戦争体験者で幼い頃から戦争の話を聞いて、関心を持っていたこともあり、防衛省を選択しました。

軍事戦略が外交の裏付けとして関わっていることを知って、軍事を知ることで外交や経済の見方も変わるんじゃないか、という思いもありましたね。

ちなみに、私の祖父は元軍人だったんですよ。軍の士官学校出身で、優秀な軍人だったそうです。

 

--ご自身の興味関心だけでなく、身近なところにも防衛省を進路に選ぶきっかけがあったんですね!

祖母から戦時中の話などを聞いていたことがきっかけで、紛争解決や平和の構築を考えるようになりましたからね。

 

--差し支えない範囲で防衛省時代の業務内容なども教えていただいていいですか?

私の業務は、軍事関係を含め、ロシア情勢に関する情報を翻訳することでした。
防衛省の高官に対してロシアの軍事戦略を日々報告するための資料に使われる情報ですね。

それと、ロシア国防省の要人が来日した際の通訳業務です。
大変な業務ではありましたが、自分の中でとても貴重な経験になったと思っています。

 

--ありがとうございます!どちらも大変な業務ですね…!防衛省時代に印象に残ったエピソードなども教えていただけると嬉しいです!こちらも差し支えない範囲で!

私にとっては『研修』です。

防衛省への入省後、省全体で約1週間の研修があって、これは駐屯地で行われるんですが、まぁ過酷でしたね。
自衛官と同じ研修を行いますから。タイムスケジュールも細かく決められていました。

ただ、一般的な日常では絶対に知ることのない生活を知ることができたという意味で貴重な体験でしたし、自衛官と一緒に生活したことで、こんな風に自分たちの安全を守ってくれている人たちがいるんだな、と思い、自衛官を身近な存在に感じることができました。自衛官への感謝の念も感じましたね。

それと、自衛隊の非常食を食べることができたのもいい思い出です(笑)
賞味期限が近いものを処分も兼ねて、食べることができるんですが、意外と美味しくて驚きました。

(写真:防衛省時代の中村さん)

 

--非常食って意外と美味しいんですね(笑)!ちなみに、今に活きている防衛省時代の経験等はありますか?

現在、私は欧亜創生会議という団体が発行している外交雑誌「『国際生活』日本語版」(※)の翻訳業務をさせてもらっているのですが、この仕事に防衛省時代の翻訳業務が活きていると感じます。

防衛省では軍事関係だけでなく、日本文化などについても通訳したことがあるので、日常やビジネスでロシア語話者と関わる際は役立っています。
また、防衛省時代の経験から、軍事関係の単語や軍人の階級などが分かるので、シベリア抑留者に関連する資料等の翻訳にも携わることができています。

軍事関係の戦術理解なども防衛省時代の経験が役に立ってますね。

 

(※)「『国際生活』日本語版」・・・「国際生活」はロシア連邦外務省を発起人とする、国際政治、外交、国家安全保障の問題を取り扱う月刊誌。今日、ロシア国内だけでなく、世界各国において幅広い読者を獲得している。「『国際生活』日本語版」は国際生活編集部と欧亜創生会議の正式なパートナーシップに基づき発刊されている。

 

防衛省退職後は広報の道に

--防衛省で身に付けた専門性はニッチでしょうし、役に立つんですね〜!防衛省退職後は広報の仕事に転職されましたよね?

そうです。
防衛省退職後は、LikePayとLIXILの両方で、広報やオンラインにおけるPR、マーケティングを担当することになりました。

広報の業務なので、例えば、オウンドメディアやSNSだけではなく、総合的にPRするということをやってきました。これによって広報のキャリアができましたし、LikePayではスタートアップ企業での経験を積むこともできました。
LikePayはビジネスの方向性が変わったこともあり、抜けることになったんですが、その時の経験がRoutex inc.での業務に繋がりましたね。

Routex inc.での広報業務のほか、ユニゾンシステムズという企業でも広報を担当していました。
ユニゾンシステムズは、テレビ局、ラジオ局、CS局向けオリジナルパッケージ商品開発や販売等の業務を行う企業です。
ちなみに、同社は総務省主催の「日露ICTビジネスミッション2018」のビジネスマッチングに参加していて、ロシアのスタートアップ企業や関連施設の視察をするなど、ロシアとの関わりもある企業なんですよ。

また、広報の仕事に関連して、つい先日、Routex inc.とロシア連邦文化科学協力庁からの推薦で、ロシアの政府系通信社スプートニクによる、記者や広報担当者向けプログラム「SPUTNIK PRO」にも参加させていただきました。プログラムについては、Routex inc.のHPで参加レポートも書いているので、ぜひ。

 

「SPUTNIK PRO」に関する中村さんの記事はこちらから
https://routexstartups.com/event-report/eventreport-sputnik-pro/

 

 

ロシアに関わる面白さと魅力

--様々な企業の広報で活躍していらっしゃるんですね!現在まで中村さんは様々な分野でロシアと関わっていらっしゃいますが、ロシアと関わる仕事をする面白さややりがいはありますか?

ロシアと関わる仕事をする中で、面白いと感じるのは、ロシア人の『アイディア力の高さ』を感じる時です。
ロシア人はとにかく発想力や企画力に優れていて、日本人にはない発想力を持っていると思います。すごく刺激になりますよ。

とはいえ、仕事の進め方の面で言うと、ロシア人は、初めは持ち前のアイディア力などもあって、どんどん進むんですが、途中で息切れしてしまうことも多いです(笑)
逆に、最後までやりきるのは日本人の強みだと思っているので、そこを日本人がフォローしつつ、上手く組み合わせることができれば最強のタッグになるんですよ。
そこもロシアに関わる仕事をする上での面白さですね。

 

--お互いの長所を掛け合わせることができるのがロシアと関わる仕事の面白さの一つなんですね!

そうですね、お互いの強みを活かせるのがロシアに関連する仕事の面白さの一つです。

それと、ロシア人は物事に関してはっきり言う傾向にあるので、私にとってはコミュニケーションが取りやすくて、仕事を進めやすいです。

 

--ありがとうございます!最後に、長年ロシアと関わり続けてきた中村さんが感じる『ロシアの魅力』について教えていただけると嬉しいです!

うーん、なんでしょうね。
『謎』なところが魅力かもしれません(笑)

ロシアはとてもミステリアスな国だと思っていて、掘っても掘っても、情報が尽きることなく、新しい情報に触れることができます。

ロシア人そのものも思慮深いというか、考える力がすごいと思っていて、だからこそ、表面上の付き合いをしないんだと思います。それが私にとっても心地が良いんですよね。

 

--ミステリアスなところいいですよね~!今日は本当にありがとうございました!今後の中村さんのご活躍が楽しみです!

 

 

中村さんの情報についてはこちらから

Twitter:https://mobile.twitter.com/arinko31n
note:https://note.com/arinko31/

 

 

 

(インタビュアー/山地ひであき)

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