【コラム】ロシア語講師の教える
『ロシアに関係するお仕事紹介』第2回『映像翻訳者』

東京都内でロシア語講師や通訳・翻訳などのほか、YouTuberとしても活動されている福田知代さん『ロシアに関係するお仕事紹介』第2回です。



前回までの連載記事はこちらから
(以下、福田さんのコラムです)




(写真:福田知代さん。マトリョーシカとともに)


「日ロドライブ」の読者のみなさん、こんにちは。福田知代です。
先月から「日ロドライブ」で連載を始めて、今回が二回目の寄稿です。

はじめましての方に、改めて簡単に自己紹介を。
わたしは、大学と大学院でロシア語を専門的に学び、現在はロシア語関連のフリーランスとして働いています。
仕事の種類はさまざまで、これまでに10種類くらいの立場を経験してきました。

このシリーズでは、ロシア語を活かすことのできる仕事のうち、わたしがフリーランスとして、これまで経験してきた仕事や立場について、順番にお話ししていこうと思っています。

前回は、わたしのロシア語を使ったお仕事のデビューでもある、「翻訳」のお仕事についてお話ししました。
ご興味のある方は、どうぞこちらもご覧になってみてくださいね。


今回は、「映像翻訳」のお仕事についてお話ししてみたいと思います。
なぜ「翻訳」と「映像翻訳」を分けてお話しするのかと言いますと、お仕事の内容や必要なスキルがかなり異なるからです。


・「映像翻訳者」の仕事について

そもそも映像翻訳とは何をする職業でしょうか。
分かりやすい例を挙げますと、外国の映画が日本で上映されるときに、字幕が付けられたり、吹替えがなされたりひますが、そういったものの制作に携わるお仕事です。
映画以外にも、テレビドラマやバラエティ番組、インタビュー、企業の広報ビデオの翻訳なども行います。

簡単に分けると、翻訳は文書を翻訳するお仕事。一方の映像翻訳は、映像の中のどのタイミングで誰が何を言っているかを翻訳していく、という作業をするお仕事です。


・「映像翻訳」を始めたきっかけ

前回の翻訳のお仕事についてのコラムの中で、わたしが翻訳のお仕事を始めたのは、大学三年生、20歳のときで、これがわたしにとってのロシア語でのお仕事デビューだというお話をしました。
映像翻訳のお仕事を始めたのは、大学院の修士二年生、24歳のときで、これが二つ目のロシア語でのお仕事です。

大学院のときの同級生が、先輩から作業を引き受けたものの、「おれにはできないから、ともちゃんやらない?」と声をかけてくれ、「やるやる!」と二つ返事で引き受けました。
それが修士二年生の12月のことです。
その時期とはつまり、1月が締め切りの修士論文で修士二年生は、みな殺気立っているとき。

わたしもそのうちの一人でしたが、修士課程修了後はフリーランスとして社会に出ることをすでに決めていたので、こんな貴重なチャンスを逃すものか、という気持ちと、単純に、おもしろそうだし、ぜひやってみたいという両方の気持ちから、初めての映像翻訳のお仕事に取り掛かりました。
いつも相談に乗ってくれ、熱心に論文の指導をしてくださっていた指導教官の先生には、こんな時期に映像翻訳のお仕事を始めたなどとは言えませんでした。
論文はもちろんクオリティの高いものを書き上げる。自分の近い将来のために、映像翻訳のお仕事もがんばる。そう心に決めました。

依頼元の会社から映像と作業用のファイルを受け取り、いざ作業に取り掛かろうとして、途方に暮れてしまいました。
映像翻訳で使用するファイルは、Excelのファイルなのですが、左から順番に字幕番号、表示開始時間、表示終了時間、表示時間というふうに、タイムがずらりと並んでいて、それが縦に数百行続くのです。

映像翻訳では、分業作業の工程の中で、原語が分からない人も関わってくるので、字幕にはすべて字幕番号が振られています。
表示開始時間とは、セリフが始まる時間のことで、表示終了時間とはセリフが終わる時間のこと。
表示時間というのは、セリフが継続する時間を意味します。
ちなみに、日本語の字幕を作る際のルールに、「一秒4文字」というものがあります。
セリフ一秒につき、4文字。つまりセリフの継続時間によって、そこに該当する字幕で何文字まで使えるかが決まるのです。
外国の映画を字幕付きで見ていると、実際のセリフと字幕の日本語が完全に一致していないことに気付くことがあるかもしれません。
それは限られた文字数の中で、セリフの内容を最大限に表現できるように工夫がなされているからなのです。
まさに「匠の技」と言えるでしょう。
吹替えの場合は、また少しルールが異なります。
ここまでのお話で、「翻訳」と「映像翻訳」では、作業や必要なスキルが大きく異なることがお分かりいただけたでしょうか。

わたしは、そんな初めてだらけの映像翻訳の作業に戸惑いながらも、修士論文の執筆と同時進行でどうにか作業を進めようと必死でした。
そのときの依頼は、戦争を扱ったテレビドラマで、わたしには一番納期の遅い最終話を割り振ってもらいましたが…セリフのスクリプトはもらっているものの、まず、最終話までのあらすじがまったく分からない。
そもそも、登場人物が誰が誰だかさっぱり分からない。
人物の人間関係も分からなければ、どちらが味方なのかさえも分からない。
回想シーンなんてものが出てきたら、もう…。

基本的には、セリフごとに映像を止めて、スクリプトと照らし合わせて、ベタ訳をしていくのですが、スクリプトと実際のセリフが変わっていたり、スクリプトにはないセリフがあったりすることもよくあるので、セリフを聞き、スクリプトを確認しながら翻訳し、必要に応じて聞き起こしもする、という感じで作業を進めることになります。

聞き起こしも大変でした。戦争ものなので、両軍が激しく入り乱れている場面では、なにを叫んでいるのか、全然聞き取れません。
大きな爆発音でセリフがかき消されているような場面もあり、イヤホンで音量を最大にして、一つの場面を何度も何度も聞くということもありました。
幸い、耳にダメージはありませんでしたので、今でも映像翻訳のお仕事を続けることができています。

そんなこんなで、約1週間かけて、45分の最終話の翻訳をどうにか仕上げました。字幕数は600弱でした。
わたしはストレスに強い方なのですが、論文の執筆と慣れない映像翻訳の作業でイライラし、母親を心配させてしまいました。
けれども、このときの経験のおかげで、これだけのことをどうにかして成し遂げることができたのだから、この先、フリーランスとして、いくつか同時にお仕事を受けたとしても、同じように乗り越えることができそうかな、という自信を持つことができました。

その後も、現在に至るまで、たびたび映像翻訳の依頼を受けています。
ロシアの映画やテレビドラマ、バラエティー番組、スポーツ選手のインタビュー映像を日本語に翻訳したり、日本の映画や企業の広報ビデオをロシア語に翻訳したり。
ときには、ロシア語がメインでない映画の一場面にロシア人が登場し、その部分だけ聞き起こして翻訳してください、という依頼もあったりします。
根気とスピードと正確さが求められる大変な作業ですが、映画やドラマを公開前に見ることができるという楽しみもあります。

20代なかばくらいのときに、映像翻訳の会社の周年パーティーにお呼ばれした際、社長さんから、「この子、バケモン!」と紹介されたことがありました。
今までかけていただいた褒め言葉の中で一番心に残る、うれしい褒め言葉です。


・「映像翻訳者」になるには

前回同様、最後に「映像翻訳者」になるための方法をまとめてみます。
と言っても、映像翻訳というと基本的には英語の世界です。次いで韓国語や中国語でしょうか。

何もないところから、新しく新しく映像翻訳のお仕事を始めるには、映像翻訳のアカデミーなどを修了して業界に入る方法があります。
ただし、アカデミー修了後は、ときどき依頼を受けられるかもしれないし、まったく依頼を受けられずにそのまま廃業、という事例も少なくないようです。
やはり、経験値のあるベテランに依頼が集中しますので、数年続けられたらすごい方だと言われています。

そのほかの道としては、わたしのようにはじめは紹介やつながりで依頼を受け、その後、映像翻訳の会社から直接依頼が来るようになるという方法です。

狭き道ではありますが、まさに語学の力でお仕事ができている、という自信を持つことができるでしょうし、ときには自分の名前を作品にクレジットしてもらえ、「これ、わたしが翻訳したんだよ!」と周囲に自慢することもできますよ。
作業自体は地味の極みですが、作品に携わる喜びを感じることができます。



以上、今回はわたしのお仕事のうち、「映像翻訳」のお仕事について書いてみました。次回もどうぞお楽しみに。






(文/福田知代/ロシア語講師、翻訳家、通訳、YouTuber)

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