2020.05.31

【コラム】ロシア語講師の教える
『ロシアに関係するお仕事紹介』第1回『翻訳家』

Columnist

福田知代

東京外国語大学を卒業後、フリーランスとして、ロシア語講師、通訳、翻訳家、YouTuberなど多彩な顔を持ち、今まで経験したロシア関連の仕事は10種類以上。都内で、誰でも気軽に参加できるロシア語教室「セラピオンロシア語学習会」を主宰している。


これまで、日本とロシアに関わりのある「人」にフォーカスし、インタビュー記事を掲載してきた「日ロドライブ」ですが、知り合ってきた方々とのご縁もあり、今月から、日本とロシアに関わり、交流を続けている方々のコラムなども掲載させていただけることになりました。

記事を書いてくださる方は、どの方も魅力的な方々ばかりで、コラムの内容も、興味深く、それぞれに特色があって、とても面白いものになっています。

今回は、東京都内でロシア語講師や通訳・翻訳などのほか、YouTuberとしても活動されている福田知代さん『ロシアに関係するお仕事紹介』第1回です。

(以下、福田さんのコラムです)




「日ロドライブ」の読者のみなさん、はじめまして。福田知代と申します。
大学と大学院でロシア語を専門的に学び、現在はロシア語関連のフリーランスとして働いています。 仕事の種類はさまざまで、これまでに10種類くらいの立場を経験してきました。

多くの方は、「ロシア語関連の仕事」と聞くと、通訳や翻訳者などを思い浮かべるかもしれませんが、 それ以外にもロシア語を活かすことのできる仕事はいくつもあります。
このシリーズでは、 ロシア語を活かすことのできる仕事のうち、わたしがフリーランスとしてこれまで経験してきた仕事や立場について、順番にお話ししていこうと思います。



わたしにとってのロシア語での仕事のデビューは、ロシア語を勉強しはじめて2年半が経った大学三年生の夏、20歳のときでした。
一つ上の学年の先輩がまとめ役になっていた翻訳プロジェクトへの参加を志願して、初めて翻訳の仕事をしました。
当時の友人(もともと一つ上の学年でしたが、留学を終えて帰ってきて、わたしと同じ学年になりました) から、先輩がまとめ役になっている翻訳プロジェクトの話を聞き、わたしもどうしても参加したくなりました。

さかのぼって思い返してみますと、わたしは中学・高校のころから、英語の教科書や夏休みの読み物課題を、自分で日本語に翻訳することが好きでした。英語だけでなく、授業で習う古文や漢文を、自分で現代語訳するもの好きでした。原語を読んだときに感じる文章の質感だったり、口調だったりを、「自分のフィルタ」を通して、自分の持ちうる日本語を最大限駆使しながら再現することが楽しく、その作業がとても好きでした。

その後、大学二年生のときに、ロシア文学者であり、翻訳家でもある亀山郁夫先生 の授業を受け、「自分のフィルタ」を通して外国語を日本語に翻訳することの楽しさや満足感がよみがえり、漠然と、「翻訳の仕事ができたらいいな」と思うようになりました。


そんな時期に先輩の翻訳プロジェクトの話を耳にし、緊張しながら先輩に電話をしたのをよく覚えています。
「三年生なのに、本当に大丈夫?」と門前払いされる覚悟でいましたが、先輩はとても歓迎してくれ、すぐにわたしが分担する箇所を送ってくれました。
ちなみにこの先輩は、学部のときにロシアに留学していないにも関わらず、ロシア語がものすごくできて、当時から通訳もばっちりこなし、大学院のときにはラトヴィア語の教科書を出版した、わたしにとってはスーパースターのような存在の人で、現在は京都大学で准教授をされています。
今でも、年に一度、ロシアの武術「システマ」のセミナーでご一緒するのですが、通訳のレベルの違いを目の当たりにして、毎回自分がいかに無力かを感じさせられます。
夢に見た翻訳の仕事ができるという喜びとともに、そんな先輩と一緒にプロジェクトに関わることができる……なんて光栄なことだろう、と胸が躍りました。


そのときの翻訳プロジェクトは、現在は廃刊となっているニュース系の雑誌の記事ための資料として、ソ連時代の公文書を大量に翻訳するというものでした。
ロシア語学習歴2年半のわたしにとっては、初めて出会う語彙も多く、はじめのうちはほんの少しずつしか翻訳を進めることができませんでした。
けれども、実際に仕事として翻訳をしていることが本当にうれしかったため、めげることなく根気強く取り組み、次第にテキパキと進められるようになり、多めに分担してもらえるようになりました。
この翻訳プロジェクトに参加できたことで、ロシア語で読む力が鍛えられた上に、早いうちに翻訳の実務経験を積むことができたことは、わたしにとってとても大きかったと思います。


翻訳の仕事をするにあたっては、特別な資格は必要とはなりませんが、翻訳会社に登録する際、ほとんどの場合、「実務経験3年以上」との条件が記載されており、さらに、自分が得意とする翻訳の専門分野を書いてアピールしなければなりません。「ロシア語を勉強していたから」「ロシア語検定の〇級を持っているから」だけでは、残念ながら仕事をもらうことは難しいと言えるでしょう。


その後、少し間が空き、大学院修了後にフリーランスとして社会に出たわたしを、大学の先生が出版社のデスクの方につないでくださり、雑誌記事のもとになる原稿を翻訳するようになりました。
先ほど触れた、翻訳の専門分野に関して言えば、わたしがよく依頼されていた分野は、カルチャー系、北方領土関連、科学技術、特殊部隊関連などです。北方領土関連の翻訳を多く依頼されていたのは、わたしが北方四島訪問交流事業で北方四島を 四度訪問した経験があるためです。また、通訳や翻訳などで、ロシアの武術「システマ」 と関わる機会も多くあることから、特殊部隊のテーマにも強いと思われていました。


わたしにとっては、翻訳の仕事は、中学・高校のころからの「趣味の延長」のような感覚です。
ですので、長いものを翻訳する場合でも、納期が短い場合でも、苦に感じることなく、楽しく作業することができていますし、今でも、「自分のフィルタ」を通して日本語に翻訳することは、自分にとっての喜びでもあります。


最後に、ロシア語の翻訳家になるための資格や方法をまとめてみます。
翻訳家を目指したい!という方は、ぜひ参考にしてみてください。


・資格:

特に必要なし

・能力:

確実なロシア語力、安定した日本語力、スケジュール管理能力、根気・継続力、コネクション、得意とする専門分野(法律、特許、化学など)

・一般的な方法:

翻訳会社のトライアルを受ける→合格したら翻訳会社に登録してもらえる→依頼を待つ




以上、今回はわたしの仕事のうち、翻訳の仕事について書いてみました。
次回もどうぞお楽しみに。






(文/福田知代/ロシア語講師、翻訳家、通訳、YouTuber)


福田知代さんの運営されているロシア語教室「セラピオンロシア語学習会」についての情報はこちら

HP: http://serapion2008.web.fc2.com/

福田知代さんのYouTubeチャンネル「YouTubeでロシア語」はこちら

https://www.youtube.com/channel/UC77TaAKL6jHRMpU_-AGtnPQ

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