2020.05.13

今年2月に開催されたロシア・ユーラシア文化祭「プラーズニク」の仕掛け人で、現役大学生の木村冬馬さんインタビュー
「『人のためになる+自分も楽しい』ことをするのが僕の人生哲学です」

Today's Guest

木村冬馬さん

東京大学医学部在学。言語学などに関心を持つ中で、ロシア語およびロシアそのものにも関心を持つようになる。関東地方の大学を中心としたインカレサークル「日本ロシア学生交流会」元代表。同会主催のイベント、「ロシア・ユーラシア文化祭 プラーズニク」や「ロシア関係分野就職促進シンポジウム ミチター」の仕掛け人。

(写真:木村冬馬さん。※インタビューは緊急事態宣言が発令されるより以前に行ったものです)

 

日本・ロシアに縁をもつ「人」にスポットを当て、その「人」を紹介、そして「人」を通じて、ロシアの魅力や日本とロシアの関わりなどを、車でドライブするような冒険心を持って発信していく「日ロドライブ」

第12回は東京大学医学部に通う現役大学生で、日本ロシア学生交流会の元代表、様々なイベントの仕掛け人でもある木村冬馬(きむらとうま)さんにお話を伺ってきました。

 

木村さんは、第8回でインタビューさせていただいた泉谷知輝さんや第10回でイ ンタビューさせていただいた松浦瑠希さんと同じ、日本ロシア学生交流会に所属されていて、会内では代表も務められた経験をお持ちの方です。

ロシア周辺地域の文化を一般の方に認知してもらうことを目的として、今年2月23、24日に開催されたイベント「ロシア・ユーラシア文化祭 プラーズニク」や、ロシア関係分野を対象とした就活イベント「ロシア関係分野就職促進シンポジウム ミチター」の企画を、いずれもゼロから企画し運営するなど、会内でも中心的なメンバーとして積極的に活躍されています。

今回は、そんな木村さんからロシアとの交流活動に興味を持ったきっかけや 「プラーズニク」、「ミチター」などについて、たくさんお聞きしてき ました。



--今日はよろしくお願いします!さっそくなんですが、まずは木村さんの プロフィールを教えてください!

こちらこそよろしくお願いします。
今は、東京大学の医学科に通っていて、今年で六年生になります。なので、最終学年ですね。
四年生までは座学の講義をずっと受けていたんですが、残り二年間は実習が中心になるので、目下実習に取り組んでいます。
今は基礎を学びつつ、就活も行いながら、これから医師国家試験の対策にも取り組んでいくところです。


--そんな医学科に通っている木村さんが、ロシアに関心を持ったのは何が きっかけだったんでしょうか?

医学科では、 将来的には国家試験に通りさえすればいいといった雰囲気が少しあるんですよね。 
四年制大学では、右も左もわからない一年生の時期や、 三・四年生の就職活動で忙しい時期を除くと、実質、自由に好きな活動ができるのは二年生のときの1年間だけなので、それと比較すると、医学科は非常に自由な時間が多いんです。
これが、僕が本格的に日ロ交流活動に取り組めた一番の理由だと思います (笑)

実は僕、元々、言語学的な観点も含めて「言語」というものが大好きで。
一年生のころは、大学で第二外国語としてスペイン語を学んでいたこともあって、メキシコとの交流活動に取り組んでいたりもしました。ほかにも色々な言語を勉強する中で、大学一年生の終わりごろにロシア語に出会ったんです。
元々、ロシア語はキリル文字が印象的だったこともあって、興味はあったんですが、本格的に勉強し始めたのは、本屋さんでたまたま目について、ロシ ア語の学習本を手に取ったことがきっかけでして(笑)
そうして3、4カ月くらい勉強したころに、話さないと上達はしませんし、「そろそろ実際に使ってみたいな」と思うようになって。
元々、ロシアとはなんの伝手もなくて、単に独学で勉強しているだけだったので、まずは何とか伝手を作らないといけないなと思い、色々調べていくうちに、日本ロシア学生交流会に出会ったんです。
調べた中で、日ロ交流に携わる学生団体はいくつかあったんですけど、特に日本ロシア学生交流会は人数も多くて、和気あいあいとしている雰囲気を感じたので、ちょうど新歓の時期と重なったこともあり、見学に行って、そのまま所属することになりました。

ただ、所属した当初は、メキシコとの交流活動をしていたこともあり、ロシアとの交流活動に本格的に取り組むことになるとは思っていなかったので、そんなに会の活動に参加していたわけでもありませんでした。
これが二年生の後半になって、スペイン語の授業がなくなったころから、意識が徐々にスペイン語圏の国々からロシアや日本ロシア学生交流会の方にシフトしていって、活動にも段々と積極的に参加するようになっていったんです。
参加するようになって、日本ロシア学生交流会が活動の場としてすごく充実していると感じたことも積極的に参加するようになった要因の一つですね。
そうするうちに、実習までに2年間の時間がありますし、交流会の代表をしてみたいなとも思うようになって、立候補して代表を務めさせてもらうことになりました。



--木村さんがロシアに関心を持ったのには、そういった経緯があったんで すね!代表になってからはどういった活動をされてきたんでしょうか?

日本ロシア学生交流会が元々行っていた交流活動を継続していくことはもちろんなんですが、僕が代表になってからは、これまで行ってこなかった、何か新しい交流活動にもチャレンジしたいなと思っていたんです。
元々、日本ロシア学生交流会は、ロシアがまだソ連だった時代から、日ソ学生交流会という名称で活動していて、大人同士の交流では取り払えない壁を、 学生同士なら取り払えるのではないかという意図で始まった団体です。
会では、昔から日本とロシアの学生たちがお互いの国を行き来してホームステイを行うなどの活動がメインで行われているほか、4、5年前から始まった活動として、大学祭で毎年ロシア料理の屋台を出店するなどの活動もしています。

僕が代表を始めたころは、この二つが継続的に行われている活動だったんですが、当時、交流会に所属している学生が110人くらいいるにも関わらず、ホームステイの規模が、ロシア人を10人くらい受け入れて、こちらも学生を10人くらい送るというものだったので、メインの活動がこれだけっていうのは、全体の人数を勘案するともったいないんじゃないかと感じて。
せっかくロシア語を真剣に学習している学生やポテンシャルの高い優秀な学生たちが大勢集まっているのに、と (笑)
会が始まったころはまだ構成員が多くなかったようなので、それでよかったかもしれませんが、100人以上の規模になった現在は、 別のこともできるんじゃないかと思って、いくつかイベントを打ち出すことにしたんです。


--なるほど、そうして打ち出したイベントが「ミチター」や先日開催された「プラーズニク」だったんですね!ぜひ、それぞれのイベントの趣旨などを、あらためて仕掛け人の木村さんからお聞きしたいんですが、まずは「ロ シア関係分野就職促進シンポジウム    ミチター」の方から教えてください!

わかりました。
まず前提として、東京外国語大学や上智大学などでロシア語を勉強している学生の中には、在学中に通訳ができるほどまで上達する人もたくさんいるんですが、就職時に、そのスキルをあまり役立てることができない場合も多いんですよ。
もちろん、要因はたくさんあるんですが、その一つとして、ロシアに関わる仕事は意外と世の中に多いのに、世間ではほとんど知られていなくて、脚光を浴びていないというものがあるんです。
通訳や商社などの代表的な職業を除いて、それ以外にもロシアに関わる仕事はたくさんあるはずなのに、ほとんど知られていなくて、故に学生たちも端から就職の選択肢に入れていないんですよね。
大手の就活サイトに登録していたり、合同説明会にくる企業っていうのは、世の中の企業のうち一握りでしかないわけで、「自分が好きでやっているロシア語」を使った仕事という選択肢を知る機会がないまま就活をするような状況が生まれやすい環境になってしまっているんです。
僕の周りでもそうした学生が何人かいたので、この「もったいない」現状を何とかしたいなと思ったことがきっかけで開催することにしたのが「ミチター」です。

正式名称は「ロシア関係分野就職促進シンポジウム ミチター」で、主にソ連崩壊後からロシアに関係する分野で働いている比較的年齢の若い方に登壇してもらって、現在の道に進むことになったきっかけなどを話してもらうということがコンセプトです。
登壇者の方々は、誰かに用意してもらった道ではなく、自分で切り拓いた道を歩かれています。そうした意味で、登壇者の方々は、ある種、それぞれの道の先駆者とも言えるのではないでしょうか。
それならば、現在ロシア語を学んでいたり、ロシアに関係した分野を専攻している学生にとって、見本になり得ると思いましたし、考えの変わる学生も一定数いるんじゃないかと思ったんです。
学生たちと登壇者の方々の接点ができて、良い影響を及ぼし合っていただければ、それは素晴らしいことですし、こちらとしても両者を繋げる手助けができればとても嬉しく思います。
第三回まで開催して、ある程度軌道に乗り、今は後輩たちが第四回の企画を練ってくれているところだと思います。



--もう少し「ミチター」についてお聞きしたいんですが、木村さんは医学科ということで、直接的にご自身の進路とロシアとはあまり関わっていないのかなと思ったのと、どちらかと言えば、周囲の人のために「ミチター」を 開催したといった印象を受けたんですが、そのあたりの想いみたいなものっ てありますか?

ちょっと人生哲学みたいなものの説明になってしまいそうなんですが (苦笑)
僕にとっての行動原理がいくつかあって、そのうちの一つがさっき話に出ていた「もったいない」精神で、もう一つが「人助けをしたい」という願望なんです。
これは必ずしも苦しんでいる人を助けたいっていうものだけではなくて、何かしら、人の役に立つことがしたいというものも含まれていて、これが僕の根底にあります。
なので、大学生の間、せっかくモラトリアムがあるなら、人のためになることで、なおかつ自分も楽しいことをしたいと思って。

そういう意味で「ミチター」は自分自身、ロシア関係の分野で働く方々と出会い、直接お話を聞けて楽しかったですし、参加した学生たちからは 、
「『ミチター』に参加したことがきっかけで、ロシアに関連する業種に興味が湧きました」
という感想を聞けたり、実際にそうした分野に就職したという人も出てきていて、烏滸がましいことを言えば進路決定の手助けにも多少なったと自負していることもあって、まさにクリティカルでした。


--意味合いは少し違いますが、なんとなく木村さんが医学の道を志している理由もわかる気がします!次に「プラーズニク」についてもお伺いしたいんですが、このイベントを仕掛けるきっかけはなんだったんでしょうか?

これまでやってきた相互ホームステイなどの活動に加え、「ミチター」を開催するようになって、相互ホームステイも「ミチタ ー」も全て「内」で完結した活動だなと感じたことが、「プラーズニク」を開催したきっかけです。
相互ホームステイに関して言えば、日本人学生とロシア人学生が相互に行き来することがメインの活動で、それ以外の人が関わる要素があまりないので、外から見ると「内」で固まっている活動に見えてしまいますし、「ミチター」は相互ホームステイよりは関わる人の幅が広がっているものの、 参加者のほとんどはロシア語やロシア文化・経済を学んでいる学生です。
社会人になってから、ロシアと関わらなくなる学生を減らして、ロシアとの繋がりを残してもらうというきっかけにはなっても、ロシアを知らない人にロシアを知ってもらったり、新たに裾野を広げることにはならないなと思ったんです。

僕自身はロシアを含めて、ジョージアなどカフカース地域の文化にも興味があるんですが、そういった地域の文化や伝統にまったく興味のない人たちに、入り口として、まずは食文化や音楽に触れてほしいなと思ったのが「プラーズニク」を開催した理由です。

都内では、ベトナムフェスティバルや台湾フェスティバルなどをはじめとして、国際的なフェスがたくさんあるんですが、ロシアに関連するそうしたフェスは大々的に行われているものがあまりなくて、そこから「プラーズニク」=フェスの開催の発想につながっていったんです。
フェスに来る大多数の人は、その場限りの文化との出会いで終わってしまうとは思うんですが、中にはこれを機に、今後継続して関心を持ち続けるようになる人もいるんじゃないかと。

ただ、ロシアのみにフォーカスしたイベントだと、「コンテンツが限定されてしまうこと」、「会の中にはロシアだけでなくて、カフカース地域や中央アジア地域が好きな学生も多いこと」を理由に、旧ソ連地域全体を包括して、ユーラシア地域にフォーカスしたイベントにしました。
その方が、興味を持つ会内の学生も増えそうで、実務の面でも充実したものになると思いましたし、何より、より楽しめるものになると思ったんです。

(「プラーズニク」当日の様子①。「日ロドライブ」編集部も参加させていただきました。編集部スタッフ撮影)
(「プラーズニク」当日の様子②)



--「プラーズニク」を開催するにあたっての苦労話などもお聞きしていい でしょうか?

それはもうたくさんありましたね(笑)
「ミチター」に関しては、ある程度、内向きのイベントだったこともあって、やりやすい一面もありましたし、成功させる自信もあって、結果的にそれなりの成果も残せたりしたんですが、「プラーズニク」に関しては、いざ開催しようと準備し始めたときに、準備の段階で、明らかに僕たちの能力を超えてるなと感じましたし、その旨をみんなにも正直に伝えました(笑)

例えば、中国や台湾の文化などであれば、漢字や小籠包などなど、すでに文化が日本に根付いてますよね?
けど、ロシアやユーラシア地域の文化に関しては、日本にロシアの文化が特段根付いているわけではなく、取り立ててポピュラーというわけでもないですし、加えて学生団体の主催となると、協力していただける企業やレストランの方も少ないんじゃないかなと。
また、イベント開催のための出演者へのアポ取りや交渉に関するノウハウのようなものもありませんでしたし、ホームページなどを利用した広告等に関してもわからないことだらけだったので、ほぼ全ての運営が手探りから始まったんです。

加えて、想定外だったのは新型コロナウイルスの流行です。
これは本当に大変でした。 「プラーズニク」を開催した2月23、24日は、ちょうど日本でも流行が本格的に問題視され始めたくらいの時期で、大規模イベントなどへの自粛要請が政府から出るかもと言われてた時期だったんです。
結果的に自粛要請が出たのは2月26日だったんですが、この影響もあってか、当初、数万人程度を見込んでいた当日の来場者数は5000人程度に留まってしまいました。
イレギュラーな事態なので仕方ないことではあるんですが、運営面で、とても苦労させられましたね。


--イレギュラーなものも含め、色々と大変なイベント開催だったんですね。けど、学生が有志で集まって、これだけの規模のイベントを自主的に開催するっていうのは本当にすごいと思います。ぜひ開催後の感想などを聞かせ てください!

色々と大変なことはありましたし、当初の想定は下回りましたが、まがりなりにも約5000人の来場者を集めることができたのは、会として誇っていいことなのかなと思っています。
イベントの登壇者の方々も、ロシアに関心のある人であれば、すぐにピンと来るような、一般的にもある程度知名度のある方々を集めることができましたし、内容に関しては、表に出てしまうような大きな失敗はなかったので、 無事に開催できたという意味においても「プラーズニク」は成功だったと思います。
今後のイベント開催への自信にも繋がったと思っていますね。



--「プラーズニク」や「ミチター」の開催など、ロシアとの交流活動を通じて木村さんがアピールしたいロシアの魅力はなんでしょうか?

そうですね、僕がよく大学の同級生などをはじめとした、あまりロシアに関心のない人に対して、伝えているロシアの魅力は「食べ物」と「人」です。
「プラーズニク」でも、この二点をPRすることにこだわったんですが、特に食べ物については、ハバロフスクから採算度外視で、現地の料理人の方に来ていただいたりもできたので、とても満足のいくものが提供できたと思っています。
当日の料理を食べた人に、「またロシア料理を食べたいな」と思っていただいて、これをきっかけに、都内のロシア料理店などを調べて、足を運んでいただけたりすれば、ロシアに関心を持つ人の人口を増やすという意味での突破口にも繋がったかなと思います。


--たしかに「プラーズニク」の食べ物本当においしくて、僕たちも感激しました!ごちそうさまでした(笑) ロシアとの交流について今後、木村さんの中の展望などはありますか?

日本ロシア学生交流会に関して言えば、「ミチター」の開催については、すでにノウハウを後輩たちに引き継いでいるので、これからは「プラーズニク」に関する開催運営のノウハウを引き継いでいくことができればと思っていたんです。
ただ、新型コロナウイルスの感染拡大で、今年「プラーズニク」の第二回目を開催するかどうかわからない状況になってしまったので、目下のところは、これからどうしていくか、自分の中で具体的には固まっていないというのが現状ですね。

一方で、長期的なプランについては考えていて、研修医や専門の課程が終わって、医学博士号を取得するための大学院に進学すると、もしかすると少し余裕が生まれるかもしれないので、そのときに後輩学生の活動の支援を行うことができればなと思っています。
そのときの立場であれば、大学生のときとは別の目線での支援ができるかもしれません。
例えば、学生団体とはいえ、大人の助けを借りなければ、活動することができないので、学生たちが、協力してくれる方々を探す必要がある際に、僕が今まで出会った人を繋げたりすることはできると考えています。
そうしたことを通じて、将来的には学生を助ける側にまわっていければというのが長期的なプランですね。


--最後にこの記事を見て下さっている方々にメッセージなどがあれば、ぜひいただきたいです!

今後、ロシアに関心を持ってもらえるような人がいたら、ロシア語を勉強することやロシアに関心を持つということは個人の枠だけでなく、似た興味をもつ人が集まっているプラットフォームが既にいくつもあるので、そこに参加することで良い影響を及ぼしあえること、また、そうした活動が趣味の範囲にとどまらず、将来的な仕事につながったり、人生を変える転機にもなり得ることをぜひ知ってもらいたいです。



--今日は本当にありがとうございました!学生時代からそのビジョンを持てるのは本当にすごいと思います。「人」にフォーカスするのが「日ロドライブ」のメインテーマでもあるので、とても考えさせられることが多いインタビューでした!ぜひ今後ともお付き合いさせていただけると嬉しいです!






木村冬馬さんが所属している「日本ロシア学生交流会」「ミチター」、「プラーズニク」の情報については、こちらから

名称:日本ロシア学生交流会
HP:http://nichiro.jpn.org/
Facebook: https://www.facebook.com/nichirogakuseikouryuukai/

名称:「ロシア関係分野就職促進シンポジウム ミチター」 
公式HP:https://analokmaus.github.io/mechta2018/
Facebook:https://m.facebook.com/2018mechta/?locale2=ja_JP

名称:ロシア・ユーラシア文化祭「プラーズニク」
公式HP:https://prazdnikjp.com






(インタビュアー/大森達郎)

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