2023.02.17

ロシア・ウクライナ・中国合作ドラマ「スパイを愛した女たち リヒャルト・ゾルゲ」が2月25日に劇場公開
同ドラマの日本放映権を取得した「平成プロジェクト」の代表・益田祐美子さんインタビュー

Today’s Guest

益田祐美子

映画プロデューサー。岐阜県高山市生まれ。金城学院大学卒業。NHK岐阜・名古屋でニュース、子ども向け番組に出演。月刊Home Economist Wise誌記者を経て、株式会社平成プロジェクトを設立、代表取締役社長就任、現在に至る。日本・ロシア合作映画としては、2019年公開の「ソローキンの見た桜」、2021年5月公開の「ハチとパルマの物語」を制作。2023年2月25日には自身が日本放映権を取得したドラマ「スパイを愛した女たち リヒャルト・ゾルゲ」が劇場公開予定

日本・ロシアに縁をもつ「人」にスポットを当て、その「人」を紹介、そして「人」を通じて、 ロシアの魅力や日本とロシアの関わりなどを、車でドライブするような冒険心を持って発信していく「日ロドライブ」

 

今年2月25日に都内のK’s cinemaで、ロシア・ウクライナ・中国合作ドラマ「スパイを愛した女たち リヒャルト・ゾルゲ」が順次公開されます。

そこで第37回となる今回は、その劇場公開に先駆けて、日本での同ドラマの放映権を取得した「(株)平成プロジェクト」の代表・益田祐美子さんにインタビューさせていただきました。

 

20世紀最大のスパイとも評されるリヒャルト・ゾルゲ。その半生や活躍を描いた今作の魅力、日本公開に至るまでの裏話など、たっぷりお聞きしてきました。

目次

「スパイを愛した女たち リヒャルト・ゾルゲ」のあらすじ

--今日はよろしくお願いします!2月に劇場公開を控える「スパイを愛した女たち リヒャルト・ゾルゲ」ですが、まずはドラマのあらすじなどについてお伺いしてもいいですか?

「スパイを愛した女たち リヒャルト・ゾルゲ」(原題「ゾルゲ」)は、ロシア、ウクライナ、中国の合作のドラマです。
戦前、日本で諜報活動を行なったソビエト連邦のスパイ、リヒャルト・ゾルゲについて描かれたドラマで、全12話の構成となっています。それを 2話分1回分×6回分として劇場公開します。

ゾルゲはヒトラーによるソ連侵攻の情報を事前に入手するなど活躍し、近年、ロシアで再評価されるようになった20世紀最大のスパイです。

ドラマでは、そんなゾルゲの日本での巧みな諜報活動から逮捕・処刑に至るまでの半生と、知られざる多彩な女性関係が描かれています。

ゾルゲ役はロシアの名優アレクサンドル・ドモガロフさんで、監督はウクライナ・オデッサ出身のセルゲイ・ギンズブルグさんが務めました。
日本人キャストとして、山本修夢さん、木下順介さん、瀬戸元さんなどが名前を連ねるほか、ゾルゲの恋人・花子役を2022年7月に惜しくも38歳の若さでこの世を去った中丸シオンさんが熱演しています。

 

日本公開に至るまで

--壮大なプロットのドラマですよね。どのようなきっかけで、このドラマを日本の劇場で公開することになったんでしょうか?

最初に「ゾルゲ(原題)」がロシア、ウクライナで公開された時に、日本でも同時公開しようと思って、私は交渉を始めていたんですよ。

ドラマに俳優の山本修夢さん、女優の中丸シオンさんが出演されていて、お二人の事務所からも、「うちの俳優が出ているから、ぜひ日本でも公開してほしい」と言われたことがきっかけです。

当初はTVでの放映を検討していて、そのためにNHKにもアポイントを取りました。
しかし、ここで問題が生じてしまって。

このドラマはロシア、ウクライナ、中国の出資で制作されていて、制作費は全て、キエフ銀行の口座に入っていたわけです。
しかし、制作にあたって、なぜかキエフ銀行で説明が難しいトラブルが多発しました。
これに対して、ロシアと中国のサイドが怒ったのは当然なんですが、結局、資金不足のまま、残った制作費でドラマは完成することになりました。

ゾルゲといえば日本です。制作サイドは日本でのロケも考えていたそうなんですが、日本はロケにかかる費用がとても高かったそうなんです。
日本企業はドラマに出資しなかったんですよ。

そこで、多額の費用がかかる日本でのロケの代わりに、中国に当時の日本の街を再現して、ドラマを撮影することになりました。

しかし、中国で日本の街を再現して撮影したので、看板が全て中国語になってしまったほか、車道も日本と違い、右側通行で撮影されましたし、衣装は日本の着物でしたが、カツラは中国のものだったりしたんです。
その他にも、日本というより中国を感じさせる部分が各所にあって、
日本人からすると違和感を感じさせるところがたくさんありました。

そのため、ドラマを観たNHKの関係者からは、「ドラマの内容はとても良いんだけれど、日本の街にも関わらず、看板が中国語だったり、日本とは違う着物の着方をしていたりと、美術面に問題がある。これでは放送できない」と言われてしまったんです。

同様の理由で、他の民放からも断られてしまいました。

(写真:益田祐美子さん)

 

--確かにそれだと日本での放映は難しそうですね。

なので、一旦日本での公開を諦めて、日本で公開するためにも、まずは看板の中国語を全部CGで日本語に直してもらうことを、制作側にお願いしたんです。
これと同時に、冒頭のゾルゲの絞首刑のシーンで登場する中国のお坊さんを全部CGで消してもらうことなどもお願いしました。

そうすると、ロシアの制作会社もすごいもので、見事に看板の文字を全部CGで日本語に直してくれたほか、中国のお坊さんもキレイに消してくれましたんですよ。
ただ、カツラだけは「日本のカツラがわからない」とのことで、そのままになっていましたが(笑)

修正後、ドラマを日本で公開するためにもう一度動き出そうとしたんですが、ここでも問題が発覚してしまって。
台詞を翻訳した後の日本語字幕の作成や日本のTVで放映できるように画角を変更する作業などに予想以上の費用がかかることがわかり、これでは、とてもペイできないことが判明したんです。

配給会社からの言い値でドラマの版権を購入したのでは、大赤字になるのは間違いありません。そのため、そこからしばらくは配給会社のプロデューサーとの価格交渉が続きました。

 

--その後、何がきっかけで状況が変わったんでしょうか?

状況が変わったのは、2022年2月に起きたロシアとウクライナの戦争がきっかけです。

ウクライナ・キエフにある「スターメディア」という制作会社が「ゾルゲ」の版権を持っていたんですが、キエフが今後戦火に巻き込まれることになれば、ドラマのテープ自体が消失する可能性がありました。

そのため、テープを早急に国外に避難させる必要もあってか、比較的安価でドラマの版権を入手することができたんです。

2月末には、版権とともにテープやその他必要な素材を全て入手し、9月には12話全ての翻訳・日本語字幕作成作業にとりかかりました。

 

--なんとも凄い経緯ですね…!

翻訳・日本語字幕の作成作業の後は、完成披露試写会です。
とても良い内容なので、劇場で完成披露試写会をやろうと思ったんですが、「ロシア」というキーワードが入っているため、上場企業が運営している劇場が全て放映NGで。

そうしたところ、昨年、ミハイル・ガルージン前駐日ロシア大使らとゾルゲのお墓参りをする機会があり、その場でガルージン氏に、「劇場がなかなか見つからない」旨伝えたところ、ガルージン氏は「それならば、在日ロシア大使館を完成披露試写会の場所に使ってください」と言ってくださったんです。

このガルージン氏の心遣いがきっかけで、昨年11月7日、ゾルゲの命日に在日ロシア大使館で完成披露試写会を行うことができました。

 

--完成披露試写会を迎えるまでに苦労したことはありますか?

「ゾルゲ」の版権を持っていた「スターメディア」から、どのようにしてテープ等を送ってもらうか、また、こちらからどのようにして、「スターメディア」に送金するかは悩みましたね。苦労しました。

また、一部修正してもらっていたんですが、ドラマ内に、どうしても日本人の感覚からすると違和感を感じさせるような日本の描写が複数あり、版権を入手後、これを細かいところまで、カット・修正等していく作業も大変でしたね。

 

ドラマの見どころ

--ぜひ、「スパイを愛した女たち」の見どころについても教えてください!

第一次世界大戦、第二次世界大戦へと続いていく中で、ゾルゲが日本の記者などを通じて、どのような形で日本政府等の情報を入手し、ソ連に送っていたか、その情報がどのように扱われたかが見どころです。

情報一つで歴史は変わります。
ドラマを通じて、情報を入手することの難しさや大切さが伝えたいです。

日本の現状は「スパイ天国」と揶揄されることもあります。
そのような状況ですから、普段、日本人はスパイに対して、警戒感も薄いですよね。
けれども、情報を入手して、その入手した情報を活用して、戦略を立てるということが、いかに脅威に繋がりうるのか、恐ろしいことなのかが、このドラマを通じて少しでも伝わればいいと思っています。

ゾルゲという一個人が入手した情報が、いかに歴史を変えたかということをドラマで知ってもらいたいですね。

ゾルゲの映画といえば、かつて篠田正浩監督が「スパイ・ゾルゲ」という映画を制作し、劇場公開されましたよね。
そのため、日本人は日本人の作った、日本からの視点の「ゾルゲの映画」を観ていると思いますが、「スパイを愛した女たち リヒャルト・ゾルゲ」では、世界、外国人の目から見たゾルゲがしっかりと描写されています。
ここも見どころですね。

それと、結局ゾルゲが日本で捕まった要因の一つが「女性」ですよね。
女性というものを裏切るといかに怖いことになるかも、この映画を観れば伝わると思います(笑)

以前、イランで映画を作った際、「人の嫉妬心が世界を変える」と言われたことがありますが、まさにゾルゲは女性の嫉妬心にやられたわけです。
この辺も面白いですよ。

 

--現代日本に通ずる問題から人の内面に迫る内容まで、盛りだくさんの内容ですね!劇場公開が楽しみです!

予定では2月25日に劇場公開と同時にビデオ販売も行います。
ビデオは12話セットで解説付きなので 超お得ですよ。

 

日ロドライブ読者へ一言

--最後に、これから劇場に足を運ぶ「日ロドライブ」の読者に向けて一言お願いしてもいいですか?

主演のアレクサンドル・ドモガロフさんは、映画「ソローキンの見た桜」でも「ハチとパルマの物語」でも日本に来て演技をしてもらいました。
日本人に馴染みやすい人柄で、プーチン大統領も認めた名優です。
ぜひ、ドモガロフさんの演じるゾルゲをドラマで観てほしいですね。
出演する日本人キャストの演技も素晴らしいです。

先ほども言いましたが、「情報」がいかに世界を変えるか、歴史の1ページを記したと言えるドラマだと思うので、ぜひご覧になってください。
非常に勉強にもなりますよ。

 

--今日はありがとうございました!「スパイを愛した女たち リヒャルト・ゾルゲ」の公開が待ち遠しいです!

 

 

「スパイを愛した女たち リヒャルト・ゾルゲ」に関する情報はこちらから

HP:https://spyzorge.com

 

 

 

 

(インタビュアー/山地英明)

一覧に戻る