2021.06.09

日本・ロシア合作映画「ハチとパルマの物語」のプロデューサー・益田祐美子さんインタビュー
「『ハチとパルマの物語』の3つの見どころ-映画の感想をもらえることが制作の原動力です」

Today's Guest

益田祐美子さん

映画プロデューサー。岐阜県高山市生まれ。金城学院大学卒業。同大学での研究「高齢者用商品開発への提言と実際」が、商品研究大賞受賞。NHK岐阜・名古屋でニュース、子ども向け番組に出演。月刊Home Economist Wise誌記者を経て、株式会社平成プロジェクトを設立、代表取締役社長就任、現在に至る。内閣府「生活者の観点からの地域活性化調査」委員、第2・3・4回経済産業省ものづくり大賞審査員、瀬戸内国際こども映画2011総合プロデューサー、防衛省航空幕僚幹部援護推進委員と「ヒロシマ平和賞」選定委員 等歴任。日本・ロシア合作映画としては、2019年公開の「ソローキンの見た桜」、2021年5月公開の「ハチとパルマの物語」を制作。

日本・ロシアに縁をもつ「人」にスポットを当て、その「人」を紹介、そして「人」を通じて、ロシアの魅力や 日本とロシアの関わりなどを、車でドライブするような冒険心を持って発信していく 「日ロドライブ」

 

第25回のゲストは、日本・ロシア合作映画をはじめ、様々な映画を精力的に制作されている映画プロデューサー・益田祐美子さんです。

 

戦前の愛媛県松山市の捕虜収容所を舞台に、ロシア兵俘虜と日本人女性の悲恋を描いた映画「ソローキンの見た桜」のほか、今年3月にロシアで公開され、週間興行成績1位を獲得、日本でも5月に公開された「ハチとパルマの物語」など、日本・ロシア合作映画二作品のプロデューサーを務めていらっしゃる益田さん。

「ソローキンの見た桜」は「オレンブルク国際映画祭」観客賞「愛媛国際映画祭」では社会貢献賞を受賞するなど、日ロ両国で様々な賞を受賞。
「ハチとパルマの物語」も第43回「モスクワ国際映画祭」に正式出品、「ビバロシア国際映画祭」グランプリを受賞しています。
劇中には、あの世界的フィギュアスケーター、アリーナ・ザギトワ選手も本人役で出演されているほか、主題歌「愛の待ちぼうけ」は、人気男性ボーカルユニット・CHEMISTRY堂珍嘉邦さんが映画のために書き下ろした楽曲となっています。

 

魅力たっぷりの映画を数多く制作されている益田さんに、映画制作のお話やロシアへの思い、公開中の「ハチとパルマの物語」の見どころなどについて、お聞きしてきました。

映画制作、日本・ロシア合作映画制作のきっかけ

--今日はよろしくお願いします!いきなりの質問なんですが、益田さんの初めての制作作品である「風の絨毯」は日本・イラン合作で、その後も日本・ロシア合作映画はもちろん、日本・韓国合作映画など、様々な合作映画のプロデューサーを務めていらっしゃいますよね。映画制作を始めた当初から、国際的な作品を制作したいという思いがあったんでしょうか?

こちらこそよろしくお願いします。
元々、映画作りに関心があったわけではないんですよ。
映画を観ることは好きだったんですが、自分で作りたい、という思いはありませんでした。
色んなインタビューでもお答えしていますが、そんな私が映画を作ることになったのは、当時8歳の娘と「娘が主演の映画を作る」約束をしたことがきっかけです。

ところが、日本の映画業界というと、経験や実績がものをいう、徒弟制度を軸にしたような世界です。
全くの素人が映画を作りたいと言っても相手にされないわけですよ。
特に大手制作会社には歯牙にも掛けられませんでしたね。
これは日本では相手にされないな、と思いました。

そこで、娘との約束を守るためにも、どうすれば映画を作ることができるか考えて、海外に目を向けたんです。
ただ、ハリウッドにも、欧米の制作会社にも相手にされませんでした。

ちょうど、その時期、イランで「運動靴と赤い金魚」という作品がアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたんです。
これを聞いて、「もしかするとイランでなら映画を作ることができるかもしれない」と思って。
これが「風の絨毯」という作品が誕生したきっかけです。

国を跨いだ合作映画というのは作品数が少なく、私にも活路があるかな、とも思いました。
そんなイランとの合作を皮切りに、カタール、韓国、ロシアと、様々な国との合作映画を制作するようになっていったんです。

ちなみに、娘との約束のために制作した「風の絨毯」は、娘が「母がプロデューサーなので、自分がオーディションに受かってしまうと変だ(えこ贔屓に思われる)」と言って、最終オーディションを棄権してしまったんですけどね(笑)

 

--広い視野で映画制作に携わった結果、数多くの合作映画を制作されるようになったんですね!ちなみに、2019年に公開された「ソローキンの見た桜」、日本では今年5月28日に公開された「ハチとパルマの物語」と、近年は「日本・ロシア合作映画」が続いていますよね。

「ソローキンの見た桜」は、元々、愛媛県の南海放送さんが「松山捕虜収容所外伝〜ソローキンの見た桜」というラジオドラマを制作したんですが、その映画化の構想が持ち上がったことからスタートした話です。
映画化の話は、各所に持ち込まれましたが、結局どの会社も制作できず、私のところに持ち込まれたことで、映画化されることになりました。
これが「日本・ロシア合作映画」に携わるようになった最初のきっかけです。

「ハチとパルマの物語」に関しては、2019年の大阪におけるG20の際、プーチン大統領も来日して、日露交流年閉会式が行われたんですが、その際のロシア大統領補佐官の方々のお話がきっかけで制作されたんですよ。

閉会式では、「ソローキンの見た桜」の主演の阿部純子さんが司会を務め、式内で作品の紹介もされました。
その際、大統領補佐官の方々が「日本とロシアは経済的にも政治的にも難しい事情があるけれど、隣国であり、大切な国なので、ぜひ、もう一本映画を作って、『文化』で国を繋いでほしい。『ソローキンの見た桜』は戦争がテーマだったけれど、ぜひ次の作品は家族で楽しめるような映画を作ってほしい」旨を囁かれたんですよ。

その時に、私の頭にふっと浮かんだのが「犬」でした。
プーチン大統領は「ユメ」という秋田犬を日本からもらってますよね。
フィギュアスケーターのザキトワさんも「マサル」という秋田犬を日本からもらっています。
これだ、と思いましたね。

日本には渋谷駅で10年間、飼い主を待ち続けた忠犬「ハチ公」がいますが、ロシアには飛行場で2年間、飼い主を待ち続けた忠犬「パルマ」がいます。
ここから、ハチとパルマの物語を一緒にして、現在と過去を舞台にした構成の映画を作ることになったんです。

 

キャスティングに力を入れた「ソローキンの桜」

--これまで、映画制作を通じてロシアとの関わりを深めてらっしゃる益田さんだと思うんですが、日本・ロシア合作映画の制作に関して裏話などがあれば、ぜひ教えてください!

「ソローキンの見た桜」については、特にキャスティングに力を入れましたね。監督選びも含めて。

この映画は、前提として、ロシア人が来日して撮影しなければいけません。
なので、言語の問題が持ち上がるのですが、通訳を呼ぶとなると膨大な経費がかかります。

そこで、「ソローキンが見た桜」は、映画学校を卒業しているロシア人の奥さまを持つ、井上雅貴監督に監督をお願いしたんですよ。
井上監督は日本とロシア、双方の事情に通じていますし、奥様に通訳をお願いすれば、通訳料も無料ですから(笑)

そして、この映画の最大の成功ポイントは女優の阿部純子さんを主演としてキャスティングできたことだと思っています。
劇中、主人公が英語を話すシーンがあるんですが、阿部さんは英語が堪能ですし、ロシア人俳優とのコミュニケーションもお上手でした。
一人二役なんですが、非常に演技派で、とてもよかったです。

ボイスマン大佐役で、ロシアの国民的俳優、アレクサンドル・ドモガロフさんをキャスティングできたことも、とてもよかったですね。
ロシアの名優であるドモガロフさんをキャスティングできたことで、イッセー尾形さんをキャスティングすることもできたんですよ。

 

コロナ禍で制作が難航した「ハチとパルマの物語」

--「ソローキンの見た桜」は、監督も含めたキャスティングの妙があってこそ、成功した作品だったんですね!「ハチとパルマの物語」に関してはいかがですか?

「ハチとパルマの物語」は、撮影がコロナ禍と重なったこともあり、とても大変だったんです。
コロナ禍のせいで、撮影が長丁場になりましたし、秋田犬(ハチ)とシェパード(パルマ)が出会うシーンをしっかり撮影することができなくて残念でした。

また、ロシアでの撮影も、1回目は大丈夫だったんですが、2回目は、日本人の役者がロシアに渡航できず、やむなく現地で代役を立てて、アフレコするなどしました。
まさに苦肉の策でしたね。

 

映画を通じ、益田さんの目から見た「ロシア」という国

--「ハチとパルマの物語」の撮影はタイミングがとても悪かったんですね。ただ、そんな状況の中でも作品を完成させたのは本当にすごいと思います。少し映画から離れた質問になるんですが、ぜひ、益田さんから見た「ロシア」という国についてもお聞かせしていただけませんか?

ロシアという国は、伝統芸術に対する造詣が非常に深い国だと思っています。

ビジネスの相手としてのロシアについては、ロシアは「交渉相手を殺さない国」であるため、時間はかかるけれども、交渉の余地があり、各種、締め切りは守りませんが、最後にはまとめてきます。
また、女性に対して優しいのがロシアの国民性でもありますよね。

そのほか、「『約束を守る』という約束をしない」ということも特徴で、大の「日本人好き」だとも思いました。
複数の仕事をいっきに振ると、やりませんので、一つ一つ、仕事を振る必要もあります。
共有事項を、事前にメールで送っていても、メールは見ません。なので、実際に現場に行かないと物事は進みません(笑)

時間も守りませんが、とても明るい人ばかりで、怒ってもすぐに忘れてくれます(笑)

あと、ロシア人は、ビジネスの場に決定権を持つ者が同席しないことも嫌いますね。
私の訪ロに関しても、私に制作の決定権があるからこそ、話がまとまったといえると思います。

日本と違って、ロシアの撮影現場では、撮影スタッフみんなの意見をよく聞きますね。その上で、監督が最終的な判断をします。

 

「ハチとパルマの物語」の3つのみどころ

--質問も終盤になるんですが、ぜひ、5月公開の映画「ハチとパルマの物語」の見どころについて教えてください!

「ハチとパルマの物語」の見どころは3つです!

一つは、この映画は単なる「犬の映画」ではないということです。
犬を通じて、それに関わる「人間」が成長する物語です。そのあたりを「人間ドラマ」として見てほしいですね。

二つ目は、1977年当時のソ連の再現度です。特に、当時の飛行機は忠実に再現しました。
ぜひ、この再現度の高さを観てほしいです。

日本の「秋田犬の里」のシーンにも注目してほしいですね。
ソ連時代の飛行機の再現と、この「秋田犬の里」の美術には、ものすごくお金がかかりましたよ(笑)

ちなみに、「ハチ公」が日本の秋田犬という品種であることを、ロシアでは知らない人も多いんですよ。
劇中では、ハチについて、日本のジャーナリスト役の山本修夢さんがロシア語で説明しています。ここも注目ポイントです。

三つ目は、「犬」の演技ですね。
劇中、犬は最後に「何か」を選ぶんですが、ぜひ実際に映画を観て、その「何か」を感じとっていただければと思います。

 

映画制作への想い。映画を作ってよかった瞬間

--見どころたっぷりの映画ですよね!ありがとうございます。益田さんは、今後も日本・ロシアの合作映画を作られるんでしょうか?

どうなるかわかりませんが、実はもう一本、日本・ロシア合作の映画を作りたいと思っているんです。
ただ、映画作りには体力や資金も含め、エネルギーがいるので、一呼吸置いてからにしようとは思っていて。

私の実家は、岐阜県の飛騨高山なんですが、そこを舞台にした作品を一本作りたいという思いもありますね。

 

--それは次回作も楽しみです!ぜひ最後に、「娘さんとの約束」から始まった、益田さんの映画作りに対する、現在の思いなどを聞かせてもらえると嬉しいです!

映画制作をすることで満たされるのは、一種の「達成欲求」なんですよ。
「映画を作り上げた」という事実によって、「達成欲求」が満たされて、快感が得られるんです。

また、映画を観てくださった人からの感想をもらったときが、「映画を作ってよかったな」と思う瞬間の一つですね。

なので、みなさんには「ハチとパルマの物語」を観ていただいて、SNSやネットなどで、ぜひ感想を書いてもらいたいと思っています。いい感想も悪い感想も含めてです。
それが制作者の言動力になりますから!

 

--ありがとうございます!今日は貴重なお話を、本当にありがとうございました。パルマのぬいぐるみもとっても可愛いです!

(写真:パルマのぬいぐるみ)

 

 

現在公開中の「ハチとパルマの物語」、また益田さんが代表を務めていらっしゃる「(株)平成プロジェクト」の情報については、こちらから

映画「ハチとパルマの物語」
HP:https://akita-movie.com/

名称:(株)平成プロジェクト
HP:https://heisei.pro/
本社住所:〒102-0092 東京都千代田区隼町3-19 清水ビル2階
飛騨高山夢工房住所:〒506-0818岐阜県高山市江名子町4377
TEL:03-3261-3970
FAX:03-3261-3971

 

 

 

(インタビュアー/山地ひであき)

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