2021.02.17

東京吉祥寺の本場ロシア料理店「カフェロシア」さんインタビュー
「こだわり抜いた“ロシア・ジョージア”な料理と空間」

Today's Guest

カフェロシア

東京都吉祥寺所在のロシア・ジョージア料理店。 提供される料理は日本風にアレンジせず、リアルな現地(ロシア、ジョージア)の味を追求しているほか、店内の雰囲気にもこだわっており、入店と同時にロシア、ジョージアの雰囲気を肌で感じられる。どの料理も絶品。ちなみに「日ロドライブ」編集長・山地のお気に入りメニューは「ガルショーチク」(※キノコのクリーム煮にパイを被せて焼いた、ロシアらしい料理)。

(写真:「カフェロシア」の店舗)

 

日本・ロシアに縁をもつ「人」にスポットを当て、その「人」を紹介、そして「人」を通じて、ロシアの魅力や 日本とロシアの関わりなどを、車でドライブするような冒険心を持って発信していく「日ロドライブ」

 

第22回のゲストは、東京吉祥寺の本場ロシア料理店「カフェロシア」さんです。

「カフェロシア」は東京都の吉祥寺にあるロシア・ジョージア料理店
提供される料理は日本風にアレンジせず、リアルな現地(ロシア、ジョージア)の味を追求しているほか、店内の雰囲気にもこだわっており、入店と同時にロシア、ジョージアの雰囲気を肌で感じられるお店になっています。

今回は、そんな「カフェロシア」さんに、ロシア料理の特徴やおすすめメニュー、日本のロシア料理店事情についてなど、様々なことをお聞きしてきました。

 

目次

オープンのきっかけ

--今日はよろしくお願いいたします。まず最初に「カフェロシア」を始めたきっかけ等についてお聞きしてもよろしいでしょうか?

「カフェロシア」を開店する前、ソ連時代になりますが、当時のソ連は、日本や西洋諸国内で、あまり良い印象がありませんでした。
映画などでも、悪役として描かれることが多かったですし、どこか非人間的な存在として認識されていたんです。

これに疑問を持っていたので、「自分の目で見てやろう」と思って。
2、3日の旅行では何もわからないので、ソ連人の実際の生活や考え方を知るために、現地で1年間生活したのが、ロシアとの出会いです。

当時は物不足の時代で、なかなか美味しい物は手に入らなかったんですが、仲良くなったソ連人に家に呼ばれるようになったおかげで、運良く、美味しいロシア料理を食べさせてもらう機会も多くて。
食べさせてもらったロシア料理は、日本ではほとんど知られてないもので、「こんなに美味しい料理が日本で知られていないのはもったいない」と思ったことが、ロシア料理を日本に広めたいと思ったきっかけです。

これが「カフェロシア」をオープンしたきっかけでもあります。

 

--ありがとうございます。「カフェロシア」では、ロシア料理だけでなく、ジョージア料理なども提供されてらっしゃるんですよね!理由などはあるんでしょうか?

ソ連料理やロシア料理というのは、定義が曖昧な部分があるんですよ。

旧ソ連の人々は、ソ連が崩壊してから、自身の民族性などを意識し始めたところがあって、ソ連時代はロシア人、ジョージア(グルジア)人といった民族の違いは曖昧な傾向にありました。

料理に関しても同様で、ソ連時代には、ロシア料理の定義は曖昧で、中央アジアやジョージアの料理なども広義の「ロシア料理」として、認識されていたんです。
これが、ソ連崩壊後、徐々に「これはジョージア料理」、「これはアルメニア料理」と厳密に区分されていくようになりました。

なので、ソ連時代の料理をきっかけにオープンした「カフェロシア」では、現状に即して、ロシア料理、ジョージア料理といったように表記して、料理を提供しています。

 

お客さんに気軽に「ロシア」を体感してもらう

--ジョージア料理の提供を掲げていらっしゃるのには、そういった理由があったんですね!「カフェロシア」のお店のこだわりについてもお聞きしてよろしいでしょうか?

「カフェロシア」のコンセプトは、「ロシアとジョージアへのプチ旅行」です。
ノービザで行ける国などと比べると、今でもロシアは行きにくい国だと思うので、お客さんに気軽に「ロシア」を体験していただきたいんです。

それこそディズニーランドに行くような感じで、当店に来てもらって、ロシアを堪能してもらい、楽しんでもらう。いわゆるテーマレストランのようなイメージです。

店内では、ロシアの雰囲気、ジョージアの雰囲気どちらも楽しめるようにしています。
そのため、店内には日本語の表記は一切ありませんし、スタッフもロシアや旧ソ連地域の出身者がほとんどです。
スタッフの普段のやりとりもロシア語で行うようにしていて、中には、カザフスタンやリトアニア出身者もいますが、幸いロシア語は共通言語ですし、会話はロシア語で統一しています。
できる限り、店内でロシアの雰囲気を再現したいんですよ。

また、店内の雰囲気のために壁の色にもこだわっています。
あんまり作り込みすぎると、ジョージア色が全面に出てしまうので、ギリギリのところを攻めています。あまり作り込みすぎず、お客さんの想像で補える程度です。
「あ、そういえばロシアに行った時、こんな雰囲気のお店あったな」といったくらいに思ってもらえることを意識していて。

他には、「お客さんの側から、スタッフが働いている姿が見えてほしい」、「料理の匂いを店内で感じやすくしたい」という思いから、キッチンをオープンにしていますね。

(写真:「カフェロシア」の店内)

(写真:メニューもロシア語表記)

(写真:店内からはキッチンの様子が見える)

 

「カフェロシア」イチオシのメニューについて

--五感全てでロシアを感じられるような空間作りをされているんですね!「カフェロシア」には、たくさんのメニューがあると思うんですが、人気のメニューやイチオシのメニューを教えてください!

初めてお店に来られる方には、ロシア料理の中でも比較的有名なボルシチピロシキが人気ですね。
当店で提供するボルシチやピロシキは、「ロシア現地の味そのまま」をモットーにしていますし、他のロシア料理店と比べても美味しいと感じられると思います。
注文していただいて、間違いないメニューですよ。

ロシア国内にもジョージア料理店はたくさんあるんですが、そういったお店に行ったことがある方やジョージアに旅行したことがある方には、ぜひジョージア料理をおすすめしたいですね。
ハチャプリ(※1)ヒンカリ(※2)などです。
(※1)チーズ入りパン
(※2)小麦粉で作った皮に豚や牛のひき肉に玉ねぎ、スパイスなどを包んだもの

これまでジョージア料理は、あまり日本で紹介されていなかったんですが、最近、少しジョージアブームがあって、牛丼チェーン店で「シュクメルリ」が出たり、コンビニでは「チキンキエフ」が発売されたりしましたよね。
とはいえ、まだまだマイナーな料理ですが。

当店では、そうしたジョージア料理を日本風にアレンジしておらず、現地の、一般的で人気のある味をそのまま楽しんでいただけることもあって、人気のメニューとなっています。

また、当店の人気メニューの一つに「毛皮のコートを着たニシン」という料理があります。
これは「カフェロシア」が開店当時、東京都内のロシア料理店20店舗の中でも、当店を含めて3店舗しか提供していなかったメニューです。
これには理由があったんですが、それを説明する前に、いわゆる「日本国内のロシア料理店事情」をお話ししますね。

(写真:「カフェロシア」のボルシチ)

 

日本国内のロシア料理店事情

--「日本国内のロシア料理店事情」気になります!

日本国内のロシア料理店には、世代のようなものがあるんですよ。
最初の世代はロシア革命の時代まで遡ります。

ロシア革命の時代には、多くの貴族やお金持ちが国外に逃亡しましたが、中には、中国・ハルビンに渡り、そこから日本に来る人々もいました。
初めは、そうした人々からロシア料理は日本に伝えられたんです。
ロシア革命以前、ロシアは「帝国」だったこともあり、ロシア料理といえば高級料理で、それらは、例えば、ロールキャベツやハッシュドビーフといった料理として、日本風にアレンジされて、日本国内に広まりました。
これが日本における第一世代のロシア料理店です。

第二世代は、第二次世界大戦後、満州にいた日本人たちが、日本に引き揚げて始めたロシア料理店です。
当時の満州・ハルビンは、料理を含めロシアの文化と中国の文化が混ざりあったようなところがあって、第二世代のロシア料理店を始められた方々は、そこで慣れ親しんだロシア料理を日本に伝えました。

当時、日本にビーツはなかったので、トマトを代用してボルシチの赤色を出していて、第二世代のロシア料理店は、今でもトマトベースのボルシチを提供しています。ビーフストロガノフに関しても、マッシュルームを椎茸、パプリカをピーマンで代用していた歴史があり、それが今でも続いています。
また、ピロシキに関しては、ロシアではペチカ(※3)で焼いて調理するのが一般的ですが、第二世代のロシア料理店で提供されるものは、中国の「中華鍋で揚げる文化」と交ざって、揚げパンのようになっていて、中には春雨も入っています。
ピロシキの「揚げパンのイメージ」に関しては、日本でも一般的かもしれませんね。
(※3)ロシアの暖炉兼オーブン

このように、当時手に入る材料で、ロシア料理を再現しようとしたのが第二世代で、そうした料理店から独立したお店には、その作り方や味が脈々と引き継がれています。

そして、その後ロシアで料理修行をしたり、何らかの事情で、ロシアから日本に渡ってきた人が自力で始めたのが、当店のようなロシア料理店です。これが第三世代といったところでしょうか。

この世代間の違いが、「毛皮のコートを着たニシン」を提供するロシア料理店が少なかったことに繋がっているんですよ。

というのも、戦前のロシア料理を中心とした第一世代、第ニ世代のロシア料理店には、「今」のロシア料理がなかったんです。
なので、「毛皮のコートを着たニシン」のような、比較的新しいロシア料理は、当時の日本国内のロシア料理店の中でも、希少だったんですよ。

(写真:向かって一番奥の料理が「毛皮のコートのニシン」)

 

店内の雰囲気を重視する

--日本国内のロシア料理店事情、とても興味深いです。お店や提供するメニューへのこだわりがスタッフの方々にロシア人の方が多いことに繋がっていそうですね!

海外で日本料理店に行ったりすると、「おいしいんだけど、何か違和感あるな」と感じることはないですか?
お客さんが食べてみて、「なんか違う」と思えば、それは違和感があるということですよね。
その違和感を「カフェロシア」では、再現したくなかったんです。

当店のスタッフは必ずしも全員が「料理のプロ」というわけではありません。
現地(ロシアや旧ソ連地域)の方をスタッフとして採用して、料理については、採用してから指導しているので、むしろ料理のプロはほとんどいません。

けど、仮に料理のプロであっても、海外の人が「日本人が海外の日本料理店に感じる違和感」をわからないのと同じように、日本人にはその違和感は分からないんですよ。味はおいしいかもしれませんが。

なので、そうした違和感を払拭するために、極端なことを言ってしまえば、お客さんの口に合わない料理もあるかもしれないんですが、現地の雰囲気や味をそのまま提供したいと思っているんです。

その一環として、オーナーは毎年訪露して、現地の「最新の味」を学んでくることで、時代の変化に応じた料理を提供できるようにすることも心がけています。

(写真:スタッフのアルチョムさん)

(写真:店内には多数のロシア・ジョージア雑貨も並ぶ)

 

バラエティに富んだ“ロシア料理”

--ありがとうございます!日本人に合う味よりも現地の味や雰囲気を重視していらっしゃるんですね!ぜひロシア料理の特色などについてもお聞きしたいです!

わかりました。
まず前提として、基本的に料理というのは貿易や戦争といった「人の流れが生じる出来事」をきっかけに、国から国へ、人から人へと伝わっていきますよね。

ロシアは歴史的にフランスやナチス・ドイツ、ポーランド、北欧諸国、モンゴルなど様々な国と戦争した経験があります。
なので、ロシア料理は、そういった過去に戦争した国の料理とたくさん共通点があったりするんですよ。

あまり知られていないところで言えば、ギリシャ料理との共通点もあります。
ギリシャからロシアには、黒海から北に流れる河川を利用した貿易がきっかけで、ギリシャ正教が伝わっているほか、多くのロシア語の語彙やロシア料理の名前がギリシャ語を起源としているんです。

共通点に関しては、わかりやすいものもあれば、わかりにくいものもあるんですが、様々な国の料理の特徴が混ざり合っているのが、ロシア料理の特徴と言えます。
他の国々の料理や文化と連動しているイメージですね。

また、「ロシア料理とは何か」を考えるにあたっては、実際のところ、「ロシア」という「国」単位ではなく、ロシア国内の「地域」を単位として考える方が適切かもしれません。

ロシアを南北の地域で分けて考えると、南のソチなどは気候が温暖なので、葡萄をはじめとする果物なども育ち、普段から現地のワインも飲めます。
一方で、北方の地域に行くと、作物のメインが穀物になるので、ビールやウォッカなどが地酒になり、普段からよく飲まれています。
このように、北と南では採れる食材が違いますし、普段飲んでいる酒も違うので、それに合わせて料理も変わってくるんですよ。
同じロシア国内でも地域によって料理の特色が大きく異なるんです。

このように、ロシアの料理は地域によって様々な違いがあるので、「ロシア料理」全体を見るとバラエティに富んでいるところも特徴と言えますね。

 

PRや地元へのアプロ―チを行いながら、自宅でもロシア料理を楽しんでもらえるようにしていく

--ありがとうございます!最後の質問になってしまうんですが、ぜひ「カフェロシア」の今後の目標などについて教えてください!

今後は、これまで以上に宣伝に力を入れつつ、地元(吉祥寺)に住む人々へもっとアプローチして、もっと「カフェロシア」を知ってもらうための努力をしていくことが目標です。

というのも、「カフェロシア」はこれまで、特にこれといった宣伝はしてきませんでしたし、一般的なポータルサイトなどへの登録もしていなくて。お客さまの口コミがほとんど唯一の宣伝でした。
もちろんオープン初日もPRなどはゼロです。
当初から、看板なども全部ロシア語で書いていて、「なんだろう、このお店」と気になった方に足を運んでもらって、楽しんでもらえればいいと思っていたんです。

このように、今まで宣伝に力を入れてこなかったんですが、コロナ禍ということもあり、2020年から新たにテイクアウトと宣伝活動を始めました。
そうしたところ、今までは、吉祥寺以外の地域から来られる「ロシアに関心のあるお客さん」が多かったのが、吉祥寺界隈の方にも知ってもらえるようになって、あまりロシアに関心のない方にも、「カフェロシア」の料理が喜んでもらえることがわかって。

元々、「カフェロシア」は「店内の雰囲気の中でロシア料理を食べてもらい、ロシアを体感してもらう」ことがコンセプトなので、テイクアウトには否定的だったんです。
しかし、このような状況なので、「お店には行けないけど、ロシア料理を食べてみたい」、「(持ち帰りなので)ロシアの雰囲気を完全に味わうことはできないけど、それでもロシア料理を食べたい」といったお客さんの要望に応えたいという思いから、現在はテイクアウトに挑戦しています。

基本的には、店内で、お店の雰囲気とともにロシア料理を味わってもらいたいと思っているんですが、今後は、宣伝や地元へのアプローチをしつつ、いかに自宅でロシア料理を楽しんでもらえるようにしていくかも課題ですね。

 

--ありがとうございます!最近「カフェロシア」さんが開設されたYouTubeチャンネルもめちゃくちゃカッコいいですよね!今回インタビューさせていただいて、「カフェロシア」さんのメニューやお店へのこだわりがとても伝わりましたし、ロシア料理についてもとても勉強になりました。こうした知識を持って、「カフェロシア」さんに行くと、より楽しめそうです!今日は本当にありがとうございました。

 

「カフェロシア」さんの情報についてはこちらから

店名:カフェロシア
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-4-10ナインビルB1F
TEL:0422-23-3200
HP:http://caferussia.web.fc2.com/
YouTube:https://youtu.be/I4E-V4wFKJQ

(カフェロシアのYouTubeチャンネル)

 

 

 

(インタビュアー/山地ひであき)

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