2021.02.05

ロシア国営放送「ロシアの声」の元アナウンサーで、「一般社団法人 欧亜創生会議」代表・安本浩祥さんインタビュー(後編)
「『好き』でやっていることが、お金になってたまるか!ってことですね」

Today's Guest

安本浩祥さん

ロシアを始めとするユーラシア地域との交流を目的とした団体「一般社団法人 欧亜創生会議」代表。「一般社団法人 日本JC日ロ友好の会」理事。ロシア国営放送国際ラジオ局「ロシアの声」アナウンサーやモスクワ国立大学ジャーナリズム学部講師なども経験。東京外国語大学ロシア語専攻出身。タシケント国立東洋学大学、モスクワ国立人文大学への派遣留学の経験も持つ。

(写真:G20大阪サミットのレセプションにて。「ロシアの声」アナウンサー・いちのへ友里さんと)

 

日本・ロシアに縁をもつ「人」にスポットを当て、その「人」を紹介、そして「人」を通じて、ロシアの魅力や 日本とロシアの関わりなどを、車でドライブするような冒険心を持って発信していく「日ロドライブ」

 

今回は先月に引き続き、ロシアを始めとするユーラシア地域との交流を目的とした団体「一般社団法人 欧亜創生会議」の代表・安本浩祥(やすもとひろよし)さんへのインタビューの後編です。

(※インタビューの前編はこちらから)

ロシア国営放送「ロシアの声」の元アナウンサーで、「一般社団法人 欧亜創生会議」代表・安本浩祥さんインタビュー(前編)「ロシアで働くことは魅力しかないですよ!」


前編では、ロシアへの想いやロシアで働く魅力などをたっぷり語ってくださった安本さん。
後編では、安本さんが代表を務める「一般社団法人 欧亜創生会議」及びその活動について、その他ロシアのおすすめレジャーや安本さんの人生観などについてもお届けします。

 

目次

「一般社団法人 欧亜創生会議」とは

--ロシアから帰国してからになりますが、安本さんは、今年設立された「一般社団法人 欧亜創生会議」(以下、欧亜創生会議)の代表を務めてらっしゃいますよね!ぜひ、その法人のお話もお聞きしたいです!

ものものしい名称ですよね(笑)
欧亜創生会議の大前提にあるのは、「一般社団法人 日本JC日ロ友好の会」(以下、日ロ友好の会)です。
まずは、こちらからお話しますね。

毎年行われている「ロシアミッション」という日ロの学生交流事業を主催しているのが、日ロ友好の会です。
昔は「日本JCロシア友好の会」という名称で、会が社団法人化した際に、私も理事に就任した次第です。

もっと前は「日本JC日ソ友好の会」という名称で、その初代会長が更家悠介さん。この方は就任の前年に日本青年会議所(JC)の会頭を務めてらっしゃいました。
今、僕が勤めている「サラヤ(株)」の社長でもあります。
そう考えると全部繋がってるんですよね。

僕はモスクワ時代から、日ロ友好の会のお手伝いをしていて、訪ロする日ロ友好の会の代表団や国会議員交流団などの現地での通訳や調整業務などを行っていました。

第二次安倍内閣発足当時、その議員交流に参加した経験を持つ方が多く入閣していて、「これは対ロシア内閣だ!日ロ友好の会での活動が一助になった」と感じたことを覚えています。
これがちょうど、生意気盛りだった時期とも重なっていて、「やりきった感」を感じた要因の一つにもなっています(笑)

「ロシアミッション」は20年以上続いている事業で、一番最初に交流した学生は、今40代くらいになってます。
欧亜創生会議は、その「ロシアミッション」に参加した学生を中心に、若い世代で社会的な活動に参加したいという人たちの「場」を作ることを目的に、日ロ友好の会の方々の支援を受けながら作った法人なんですよ。

欧亜創生会議は「若手社会人」の団体です。
学生のインカレサークルなどは、巷によくあると思うんですが、若手社会人と学生の橋渡しができる団体って、そんなにないですよね。

そうした団体が少ないことが、日本人が「嘘つき」だらけになる原因だとも思っています。
20代を嘘つきだらけの環境にどっぷりハマって過ごすので、自分も嘘つきになっていくんですよ(笑)

なので、若手社会人が会社以外で繋がれるような団体が欲しかったんですよね。
これは日本全体としても必要なことだと思いますし、本当のレジャーとは、これだと思います。
「会社の仲間と福利厚生施設でテニスしました。ヨットに乗りました。ゴルフをしました」
これは仕事じゃないですか。ちょっと前でいうところの社用族みたいなものですよね。
そうじゃなくて、自分個人としての価値を問えるような、お互いを高めていけるような場所っていうのが、世の中に必要だと思うんです。
そのための欧亜創生会議の設立です。

 

(写真:日ロ友好の会の訪露団の方々と。モスクワ大学ジャーナリズム学部にて)

(写真:サラヤ株式会社にて。「ロシアミッション」招聘事業学生へのセミナー)

 

--たしかに、社会人が参加できる社会活動の場というのは、日本では選択肢が少ないですよね。

社会活動って、なんだかハードルが高いように思われていて、社会と言われると、尻込みする人も多いかと思います。
ですが、本質的なところで言うと、社会と言っても、所詮は「人」の集まりなので、やろうと思えば何でもできるんですよ。

法律だって、人間が紙の上にインクで書いて決めただけのものです。今はデジタルですが。
そんなもの、明日も存在するかどうかなんてわからないですよ。

最近、すごく不思議に思うんですけど、「バーチャルな存在はリアルじゃない」ってよく言われるじゃないですか。
でも、今、リアルに存在するとされている「国家」や「組織」だって、バーチャルだった時代があるんですよ。
ルソーやホッブスの「リヴァイアサン」で言うところの「自然法」に関する思想だって、今でこそ当たり前にリアルですけど、「王権神授説」や「神話」などの方がリアルだった時代もあるんです。
そういう風に考えると、今の近代国家の仕組み自体、バーチャルだと言っても過言ではないと思います。

文字という、触れない、実体のない、いわばバーチャルな手段を使って、総理大臣が政府を作って、その中で、みんなが合意して生きているから「国家」という存在もたまたまリアルになってるだけなんですよ。
今はバーチャルと言われている物事も、みんなが合意してコンセンサスが取れれば、すぐにリアルになるんじゃないかと思います。
なので、よく考えたら、社会だって一瞬で変わり得る存在です。
ただ、既得権益を持つ人からすると、変わってほしくないので、変わらないようにしますよね(笑)

やっぱり、時代ごとに主義・主張というのはあるんですよね。どんどん変わっていくものですから。
なので、今あるものは、実はリアルじゃなくて、次のリアルが何なのかを考え、主体的に考えて行動していくことが大事だと思っています。

 

日本にない視点を提供してくれる雑誌「国際生活」

--若者が活動できる社会活動の「場」としての欧亜創生会議なんですね!設立背景にある理念も素晴らしいです。ちなみに欧亜創生会議さんは活動の中で、ロシアで発行されている「国際生活」という雑誌の翻訳・発行もされていますよね!

「国際生活」はロシアの独特の分析の仕方で書かれた論文が読めて、とても面白い雑誌なんですよね。

ロシアの分析や見方というのは、もちろん感性で判断することもありますが、どちらかというと理屈っぽいものが多いんです。ロシア人は正論が好きで、結構理屈だけで考えるところがあるんですよ。

例えば、僕がロシアにいた時の話ですが、ロシアがウクライナへの天然ガスのパイプラインを止めたことがあったんです。
これに対して、西側諸国は「ロシアは天然ガスのパイプラインを政治利用している。ウクライナを虐めるな」といった形で非難したんですが、ロシア側は「西側諸国が資本主義になることを求めたから、ロシアは資本主義になった。これまでウクライナは社会主義の価格で、ロシアから天然ガスを購入していた。資本主義に照らせば、需要と供給のバランスを取る故に、値段を上げるのは当然である。責任は支払いをしないウクライナ側にある」と主張しました。
これは正論ですよね(笑)
ロシアは国際政治に関して、「それを言ったらお終いでしょ」みたいなことを言ってしまうところがあるんです(笑)

僕自身はロシアの立場とは、また違った考え方ですが、このようなロシアの視点は、今の日本における一般的な視点や考え方でないことは間違いないと思うので、あえてそれをぶつけてみる面白さがあると思って。

欧亜創生会議が国際生活を翻訳・発行していることを、何も知らない人は「ロシアの片棒を担いでる」と言うかもしれません。
けれど、これは違うんです。
日本の今の考え方に欠けている部分を、あえて紹介することで、視点や考え方が拡がる一歩になると思ったからこそ行っている活動なんですよ。

 

「人」が「人」であることを気づかせてくれるロシアの魅力

--僕も「国際生活」を購読させてもらっているんですが、随所に色々な気づきがあって、とても勉強になっています。ありがとうございます。ここから少し質問を変えて、安本さんが感じるロシアの魅力などについて、お聞きしたいんですが、よろしいでしょうか?「(顕在的には)ロシアに関心もないし、好きでもない」と言われた手前大変恐縮なんですが…(笑)

ロシアの魅力、これはやっぱり「人間」ですね。
ロシアは「人」が正直者で、日本人みたいにせせこましくないんですよ。
ロシア人はみんなそれぞれ、「その人」として生きていて、日本人みたいに肩書きや職能、勤務先といったことを基準として生きてないんです。

また、ロシア人は人と人との付き合いをものすごく大事にします。
モスクワにはモスクワの人の良さ、地方には地方の人の良さがあるのも魅力ですね。

僕がロシアのサラトフという街に行った時のことです。
サラトフは、「何をなすべきか」という小説で知られるチェルヌイシェフスキーの出身地で、街には同人の名を冠したチェルヌイシェフスキー博物館があります。
昼間に、そのチェルヌイシェフスキー博物館に行ったんですが、一階のスペースで、地元の人が集まって、お茶を飲んでたんですよ。仕事そっちのけで。
地元の音楽の先生や数学の先生、自称作家、詩人など色んな人が集まっていました。
ちょうど東北大震災の時期だったんですが、僕がその場に行くと、「おー、日本人が来たか。東北大震災で被災された人たちに向けた詩を作ったから聞いてくれ」などと言われ、気軽にその輪に入れてもらえました。

日本でそういう場ってほとんどないと思うんですよね。
夜に宴会をしているなら、また別だと思うんですが、ロシアでは昼間に人々が自発的に集まって、お茶を飲んでいるわけです。
このような「人と人の触れ合いや交流で人生が成り立っている」という、人間としての本来的な姿が常に身の回りにあったことも、僕が実感したロシアの魅力の一つでもあります。

「人間」が「人間」であることに気づかせてくれるロシアでは、「生きるって素晴らしいな」と素直に思えるんです。

 

ロシアのレジャーといえば「アイススケート」

--安本さんにとって、「人間」の本質的なな魅力を感じさせてくれる場所(国)がロシアなんですね。深いです。そんなロシアですが、安本さんのお勧めスポットやレジャーはありますか?

これはアイススケートですね!
日本ではドームのようなスケートリンク内でアイススケートをすると思うんですが、ロシアのアイススケートは、公園全体がスケートリンクなんですよ!

公園といっても、日本でイメージするような公園じゃないですよ。ロシアの公園は「森」なんです。
冬になると、この「森」そのものがスケートリンクとして整備されていて。

日本のスケートリンクのように、ぐるぐる同じところを周るような感じで、スケートをするんじゃなくて、ロシアでは森の中を散歩する感覚でスケートをします。
夜間はライトアップもされているので、特に人気です。寒いので、ホットワインを飲みながらスケートをしたりもしてね。

 

変わりゆく社会の中でも正直に生きていく

--ホットワインを飲みながらスケート、めちゃくちゃおしゃれですね〜!スケールも含めて、日本のアイススケートとはだいぶ違いますね(笑)ありがとうございます。最後の質問なんですが、個人的なものも含め、安本さんの今後のビジョンについてお聞きしてもよろしいでしょうか?

なんかね、僕は生きてて窮屈な世の中が本当に嫌なんですよ。これは欧亜創生会議の設立理由にも通ずるところがあります。

古代ローマ時代の詩人・ユウェナリスの表現に「パンと見せ物」というものがありますよね。この表現は、ある種、繁栄の象徴としての表現でありながら、これから始まる衰亡の序曲としての表現でもあります。
今は、まさにこの「パンと見せ物」の時代だと思っていて。
「パンと見せ物」の時代が続くと、人間は無気力になっていったりもするので、人間としての主体性を取り戻す必要があると思います。

ただ、現在の世の中の状況は、社会とか経済に踊らされているという部分もあると思いますし、ある意味、踊らされないと生きていけない人々もいると思います。

ロシア帝国の時代に農奴解放という政策がありましたよね。知識人が人道的な見地から、農奴の解放を唱えて行われた政策です。
しかし、実際は農奴たちは解放されたくなかったんですよ。
当時の農奴たちは奴隷とはいえ、地主にとっての商品=財産として扱われていたので、その大部分は大切にされていたんです。
病気になると財産としての価値が下がってしまう、逆に、健康に楽しく生活してもらえたら、どんどん増えていくし、財産の価値も上がるので、地主としてもありがたいわけです。

そんな中で、急に解放されて、「明日から自由にしてください」と言われても、今までぬくぬく生活していた分、嫌なわけですよ。
長い目で見れば、解放によって、成功した人もいたかもしれませんし、もしかすると借金まみれになって自殺した人もいたかもしれません。平等性の議論にも繋がると思いますが、考え始めるとすごく難しい問題です。

ただ、こういった歴史的なことから考えると、今の世の中でも、「社会や経済に踊らされていることが、必ずしも悪いわけではなく、踊らされていないと生きていけない人もいる」ということが事実として見えてくると思います。

肝心なのは、次の時代のことを考えたときです。
今の踊りだけで満足していたら、ある日突然踊れなくなると思うんですよ。
受動的な踊りを踊りながらも、自分なりの踊り方を忘れたらダメだと思うんです。
でないと、社会が変わったときに忘れ去られる個人になりかねません。

サッカーや野球は選抜された人しか試合に出られませんが、人生は生まれ落ちた瞬間から試合に出られるわけです。これ、すごく怖いことですよ。

究極的には、人間みんなアホになればいいと思います(笑)
今は、「周りからよく見られたい」などと思っている人が多くて、ある種、小賢しい世の中じゃないですか。
そういう虚栄心とか嘘を無くしたいんですよ。つまり、みんな素直に、正直に生きていきましょうよ、ってことです。
これが今後のビジョンと言えるのかどうか微妙ですけど(笑)

 

プロフェッショナルであることよりも“好き”なことが一番

--いえ、とても良いビジョンだと思います!ロシアで実感した「人間としての本質的なコミュニケーション」といったところも安本さんの考え方に繋がっているんでしょうね。質問は以上なんですが、最後の最後に「日ロドライブ」の読者にも一言いただいてもよろしいでしょうか?

僕は、ある本に「三度の飯より英語が好きだったら東京外国語大学に来たまえ」と書いてあったのを読んだことがきっかけで、東京外国語大学に入学しました。
つまり、英語が「好き」だから入学したんです。
人間、基本的に「好き」を基準にして、生きてるんですよ。

いつも言っていることなので、妻が聞くと笑うと思うんですが、僕はプロフェッショナルという言葉がすごく嫌いなんです。

プロフェッショナルとは何かを考えると、職業でしょ、つまりお金ですよ。
プロフェッショナリズムというのは、お金で動く人、金儲け主義ってことです。
好きだからやるのがアマチュアリズム、お金のためにやるのがプロフェッショナリズム。だから、「プロだからちゃんとしろよ」=「お金払ってんだからちゃんとしろよ」ってことで、「プロですから」=「お金もらってますから」ってことです。
僕はこれがすごく嫌いなんですが、現代はこのプロフェッショナリズムが崇め奉られる時代ですよね。

だけど、アマチュアリズムこそが人間の基本だと思うんですよ。
だって「好き」だから、人間、何かをするわけですよね?

ロシアとの交流に関しても、報われない、評価されないと挫けている方もいらっしゃるかもしれません。
けど、僕としては逆に評価なんかされてしまうと終わりだと思うんですよ。その時点で、「お金を渡すからお願いします」という話になる可能性もあるわけです。そうなると、お金が目的になりますよ。
評価されないことで、「そうならない」というのは、すごく幸せなことなんですよってことを伝えたいです。

福沢諭吉が「福翁自伝(ふくおうじでん)」で書いていることですが、江戸時代、大坂の蘭学者は江戸の蘭学者に比べて、とてもレベルが高くて、大坂の蘭学者たちは江戸に蘭学を教えに行くことはあっても、学びに行くことはなかったそうです。
蘭学は江戸では出世の手段として学ばれていましたが、大坂では出世の手段になり得ないため、アマチュアたちが「好き」で突き詰める学問になっていたことが、その理由です。
これこそ、プロフェッショナリズムとアマチュアリズムの違いを端的に表していると思っています。

ロシアに関しても、交流活動が報われるようになった時点でレベルは下がりますよ。報われない方がレベルはどんどん上がっていきます。
「『好き』でやっていることが、お金になってたまるか!」ってことですね(笑)

 

--ありがとうございます!安本さんの話を聞いて、とても勉強にもなりましたし、なんだか勇気づけられたように思います!今日は本当にありがとうございました。ぜひ今日聞けなかったお話もお聞きしたいので、今後とも末永いお付き合いを、何卒よろしくお願いします!!

 

 

安本さんが代表を務めていらっしゃる「一般社団法人 欧亜創生会議」、理事を務めていらっしゃる「日本JC日ロ友好の会」の情報についてはこちらから

名称:一般社団法人 欧亜創生会議
住所:神戸市中央区山本通2丁目14番22号
TEL:(078)-894-3318
E-mail:secretariat@europe-ace-asia.com
HP:https://europe-ace-asia.com

 

名称:一般社団法人 日本JC日ロ友好の会
HP:japan-russia.jp

 

 

 

(インタビュアー/山地ひであき)

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