日本・ロシアに縁をもつ「人」にスポットを当て、その「人」を紹介、そして「人」を通じて、 ロシアの魅力や日本とロシアの関わりなどを、車でドライブするような冒険心を持って発信していく「日ロドライブ」
第38回のゲストはロシア雑貨店「VOLGA」の代表・梅村良恵さんです。
梅村さんは大学でロシアについて学んだ後、ロシア関連の商材を手がける商社に入社、その後独立して「VOLGA」を開業されています。
今回は、そんな梅村さんから、ロシアに関心を持ったきっかけや会社員時代のエピソード、そして、「VOLGA」の開業に至るまでのお話などをお聞きしました。
−−まずは梅村さんの自己紹介をお聞きしてもよろしいですか?
出身は東京都です。ただ、育ったのはほとんど神奈川県の川崎ですね。
川崎市といっても、いわゆる有名な「川崎」の中心地からはすごく遠いんですよ。3、40キロは離れてます。
生まれと育ちが違うのは、幼い頃に両親が離婚して、叔父と一緒に住むことになったことがきっかけです。
元々、叔父は世田谷でで蕎麦屋を経営していたんですが、既に子どもが2人いたので、私も一緒に住むとなると、都内の小さなお店だと、3人養うのはちょっと難しいという話になって。
それで比較的物価や土地代が安い神奈川県に引越して、新たに店を始めました。
とはいえ、しばらくは世田谷区で生活していたこともあって、土地勘は結構あるんですよ。
ちなみに、今の「VOLGA」は、30年間続いたその蕎麦屋の店を改装して使わせてもらっています。
--元蕎麦屋の場所にあるロシア雑貨店いいですね〜!日ロの文化が混ざり合う風情を感じます。世田谷区といえば、日本ロシア語学院さんもありますよね?
そうですね。
世田谷区経堂には、東京ロシア語学院さんと日本ユーラシア協会さんがあります。
日本ユーラシア協会さんとは、仕事でお付き合いもあるんですが、初めてお伺いした際、経堂に土地勘がある話をさせてもらったら、「ずいぶん詳しいんですね」と言われました(笑)
東京ロシア語学院は、何十年も続いている歴史あるロシア語学校です。
コロナ以前は、同所で開催されるイベント等にも出展させてもらっていました。
イベントには、叔父や叔母も来てくれたんですが、ロシアと縁がなかった人たちなので、バラライカの入った三角形のリュックやロシア軍人のコスプレをする人たちを珍しそうに見てましたね(笑)
--そもそも梅村さんがロシアに関心を持った理由は何だったんでしょうか?
ソ連が崩壊したとき、私は7歳でした。保育園から帰って、テレビでモスクワにマクドナルド第1号店が出店し、大勢の人が並んでいた様子を今でもよく覚えてます。
ただ、子供だったので長い間「ソ連」の意味がわからず、なぜ、人々がマクドナルドに並んでいるのかもわからない状態でした。やっとその時、起きたことが理解できたのは、高校生になってからでした。
ロシアの文化と出会ったのは、高校生のときに美術に興味を持ち、最初は美術関係の学校に進学を考えて、アトリエに通っていたことがきっかけです。
アトリエでは、与えられた課題に沿って作品を描くのですが、その課題に合わせて私は美術書や画集などを参考にし課題の作品を完成させていきました。
その過程で世界中の美術作品を見る機会を得ました。世界には素晴らしい芸術がありますが、中でも関心を持ったのが、ロシアアヴァンギャルドや、イコン画です。
そういった芸術を入り口に、言葉や、文化に関心を持つようになり、徐々に、絵を描くことよりも、物を調べることに関心が移り始めたため、ロシア語やロシアの文化を学ぶことが高校卒業後の目的になりました。
--ロシアの魅力あふれる芸術に触れたことで、大学の進路も決めたんですね!
私もロシアの芸術に関する商品を仕入れてるからこそ思うんですが、本当にロシアの芸術は素晴らしいです。
会社員時代に知り合ったロシア関係の業界の方々には、元バレリーナや演奏家だった方もいらっしゃいました。
芸術が入り口になり、ロシアに関心を持った方がいかに多いかと思った次第です。
--ロシアについて学ぶことを目的に大学に入学したとのことですが、どのような大学だったんでしょうか?
私の通っていたのは東海大学という大学です。この大学在学中にロシア語を勉強しました。
東海大学は、ソ連時代からロシアと交流を続けている大学です。
それこそ、日ソ交流の先駆けとして、留学生交流なども盛んに行ってきました。
東海大学では、必ず「東京ロシア語学院のロシア語検定を受けましょう」みたいな案内が来るんですよ。
最初は3級が目標で、次は2級です。
2級を取っておくと就職に有利だから頑張ろう、みたいな感じですね。
東京ロシア語学院から大学に先生が来て、授業することもありました。
そういった事情もあって、私たち学生は、必然的に日本ユーラシア協会や東京ロシア語学院の存在を身近に感じていましたね。
--梅村さんは大学卒業後に、ロシアと貿易を行う商社に入社されていますよね。大学で学んだロシア語を生かして、バリバリ働いてらっしゃるところが目に浮かびます!
実は、会社に入ってからしばらくは、あまりロシア語で困ることはなかったんです。
入社した会社はロシアとの貿易では、比較的大手の商社で、ロシアに駐在事務所もあり、ロシア語能力に優れた日本人スタッフやロシア人スタッフが働いていました。
なので、ロシアとの仕事については、駐在事務所のスタッフを介してお願いしていて、自分がロシア語で話す機会はあまりなかったんです。
私が所属していた、新規事業部にはロシア人の主任がいて、駐在事務所のロシア人が間に合わないときは、主任が自ら先方とコンタクトを取っていたので、なおさらですね。
けど、その主任が突然会社を辞めちゃったんですよ。
そうなると、先方とのやりとりをこれからは残された社員てやるしかなくなったわけです。
そういった事情もあって、私自身、一般的なロシア人と電話だけで、やり取りするには能力不足かもしれないと思い、ロシア語をブラッシュアップするために、会社の後、東京ロシア語学院に通い始めました。
一般のロシア人(ロシア語教師など外国人慣れている人以外)が使うロシア語に慣れることを目的としてロシア語に磨きをかけました。
--その商社を就職先に選んだ理由は何だったんでしょうか?
そもそも私はロシアに関して、将来がどうというよりは、単純にロシアについて学びたいと思って入学したんですが、残念ながら、ロシア語で就職することは極めて難しく、さらに女性が就職するのはもっと難しいとされてきました。
大学でロシア語を勉強して、卒業して、たとえ流暢に話せるようになっても、就職できるかどうかわからない世界だったんですよ。
なので、私はロシア語を生かして仕事をしている先輩方を頼って、いろいろとお話を聞かせていただいて、どうやってその仕事をすることになったのかを調べることから始めました。
そうするうちに、何でもいいかなって思うようになったんですよね。
職種は選ばないから、とにかくできればロシアに行ける仕事に着きたいなと思って。
こんなに苦労して勉強してるんだから、なんでもいいので、ロシア語を忘れない環境にいたいと思ったんですよ。
それでもなかなか仕事先が見つからなかったのには困りましたね。
–−就職活動大変だったんですね…
就職難の中、目標だったロシア関係の仕事に就職させて頂き、就職に関して協力して下さった業界関係者の方々には今でも大変感謝をしております。
私が入社したのはロシア専門商社の新規事業部で、当初の私の仕事は、当時、部署で運営していたロシア物産販売のWEBサイトの更新や商品発送などのお客様の対応をしておりました。その他、ロシア製品の新規卸先の開拓という課題もありました。
同じ部署の先輩やモスクワの駐在員のロシア人社員を介してロシアとの仕事をさせて頂き新規取引先が増えて、商談を経て、街のお店にロシア製品を取り扱うお店が増えて行くことが嬉しかったです。
新規卸先の開拓では電話やメールでの営業、時々お店を直接訪問させて頂きお話を聞いて頂くこともありました。
その他にも、「新規事業部」なので常に様々な課題や案件があり、上司がよく「1000案件があって3つ決まれば良い」と言っていたように仕事には終わりがなく、時には大変困難なものでした。
その仕事を頑張れたのは、街に商品が展開されるのを自ら見にいく楽しみがあったからです。
--大好きなマトリョーシカを効果的に販売するために「VOLGA」を開業されたんですね!
はい、やっぱりそれを後押ししてくださったのが、お客様の声ですね。
私は自分の肌感覚だけでなく、お客様の思いもすごく気にしていて。
お客様から、いつも商談のときに言われるんですよ。
「もうちょっと、いろんな人が知っていれば、もっとこれ売れると思うんだけどね」
「デザインがちょっとロシア寄りすぎるから、もうちょっとアレンジをするといいんだけどな」
「ロシアの既製品をこういうふうにアレンジしたら売れるんじゃないか」
などです。
お客様はいろんな助言や気づきを毎回くれるわけですよ。
商社での仕事を通じて、自分が割と見ていないものや自分が見ていない方向性など、そういったものから仕事が生まれていくことに気がつきました。
そのため、「VOLGA」では、そういう意見をくださっていたお客様をデザイナーとして迎え入れたりもしています。
--ぜひ「VOLGA」についても教えてくたさい!
「VOLGA」は2016 年に開業しました。
開業当初は、小売店としてお店らしかったVOLGA ですが、現在では、ロシアから輸入業務、検品、出荷するというのが事業内容となっております。
残念ながら、 最近は作業や荷物保管のために小売店として常にお店を開けられない状態が続いています。
お客様も小売店、製造業、百貨店など様々な業種で、ロシアの既製品を求める方から、白木といった素材を求める方、自分の独自のデザインを追及されてロシアに発注される方まで様々です。
開業当初より扱う品目は増えましたね。
当初は、ほぼマトリョーシカだけだったんですが、取引年数が長くなるにつれて、海外の展示会等で、新しい出会いもあって、日本への販路を拡大したいロシアのメーカーさんから商品を売り込まれることも増えたんですよね。嬉しいことに。
現 在では、 花瓶などのガラス 製品が人気を集めています。
それと、取引年数が長くなって、次第に自分の手だけでは、どうしようもない量の商品を動かすようになりましたね。
開業当初は、貨物といっても、みかん箱4 つぐらいの物量でしたが、最近は10tトラックで運ばれる量だったりするので、倉庫を借りて作業することもしばしばあります。
「VOLGA」も少しずつ商社らしくなってきたかなと自分では思っています。
--これまでロシアとのビジネスをされてきて、一番苦労したことなどはありますか?
苦労といえば、やっぱり今じゃないですかね(笑)
今までは、有名になることや展示会での商品の見せ方、商品開発などがビジネスの拡大に繋がると思っていましたが、今は、宣伝することが逆効果になる可能性もある時期ですよね。
当初は、お客様からは商品のキャンセルや「ちょっとイメージが悪いから、当分取り扱いを見合わせたい」みたいなことも言われましたね。
例えば、Webで販売されてる商品だと、今もたまにありますが、情勢に関連して、色々と書き込みされる場合もありますよね。
そうなると、ブランドのイメージは崩れます。
こういったことで、商品のキャンセルが何件かありました。
--梅村さんの思うロシアの魅力についてお伺いしてもよろしいですか?
日本とロシアはやっぱり相性がいいと思いますね。
日本では、ロシアやCISの国について治安が悪い、危ないというイメージを持つ人が多いかもしれませんが、全くそんなことはなくて、むしろヨーロッパやアメリカの方が危ないくらいです。
ロシアについて、そういう印象を持つのは、まず「人との交流」が少ないこと、知識や情報がないことが原因だと思います。
ロシア人は、考え方が非常にシンプルで、親しみやすい人が多いです。
ロシア人に対して、特に好感が持てるのが、困ってる人がいると、積極的に助けようとしてくれることですね。
日本と同じように、お年寄りや妊婦さんといった人たちを大事にしようという気持ちが強いです。
以前、ロシアで、おばあちゃんが荷物を持って、険しい階段を上がろうとしているところに、カップルが通りがかって、男性の方が、女の子に「ちょっと待ってて」と言った後、おばあちゃんの重い荷物を階段の上まで持っていってあげるところなども目にしました。
ロシア人はとても暖かい人たちで、助け合いの精神や感謝の精神に溢れていて、それを実行に移す行動力が凄いです。
ちなみに、味覚に関しても、ロシア人と私たち日本人は近いところがあると思います。
おもてなしの心や利害に関係なく、助け合うロシア人の気質は日本人にとてもよく合うと思います。
ロシアに行って、そういうところを多くの人に体験してもらいたいと思います。
--ありがとうございます!ぜひ最後に梅村さんの今後のビジョンについて、一言いただけたらと思います!
やっぱり、私の願いはロシアのことをたくさんの人に知ってもらうことですね。
ロシアの雑貨はすごく作りが良くて、面白いです。
一方で、ロシアの雑貨を見たことがない人や知らない人はまだまだ多いと思っています。
そうした中で、日本の一般的なお店にロシア雑貨があれば、そこで見た雑貨をきっかけに、ロシアという国そのものを知りたいという人が増える可能性もあるんじゃないでしょうか。
私はそういう気持ちを持って、雑貨屋などに営業を行っているので、そうなったら本当に嬉しいなって思ってますね。
--今日はありがとうございました!梅村さんと「VOLGA」、そしてロシアの魅力がをたくさん聞けて嬉しかったです!
梅村良恵さんが経営する「VOLGA」の情報はこちらから
↓
名称:「VOLGA」
住所:神奈川県川崎市多摩区生田7丁目12-3
HP:http://volga-co.com/
(インタビュアー/山地ひであき)
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