2019.07.29

舞台俳優、ダンサー、演出家で、ロシア兵俘虜と松山市民の交流を描いた舞台「誓いのコイン」の主演俳優・四宮貴久さんインタビュー
「台本を読んで何度も涙したのは初めての経験でした」

Today's Guest

四宮貴久さん

岡山県出身。舞台俳優、ダンサー、演出家。数々の舞台で主演を務めた経験を持つほか、世界各国を舞台に活動しており、NYブロードウェイの舞台などでの出演経験も持つ。2011年から上演され、今なお愛され続ける、日ロ戦争時のロシア兵俘虜と愛媛県・松山市民の交流を描いた舞台「誓いのコイン」では主演を務める。

(写真:四宮貴久さん。四宮さんが6歳のころからお世話になってるという岡山シンフォニーホールにて)

日本・ロシアに縁をもつ「人」にスポットを当て、その「人」を紹介、そして「人」を通じて、ロシアの魅力や日本とロシアの関わりなどを、車でドライブするような冒険心を持って発信していく「日ロドライブ」

第3回は岡山県在住で、ミュージカルを中心に、俳優、ダンサー、演出家と、幅広く活躍されている四宮貴久さんです。

四宮さんは岡山県出身で、かつてはニューヨークに留学されていた経験もあるほか、NYブロードウェイで行われたミュージカル「The King and I ~王様と私」などにも出演しており、世界各国の舞台に立たれている方です。

そんな四宮さんですが、日ロ戦争期の愛媛県・松山市民とロシア兵俘虜の交流を描いた、愛媛県「坊っちゃん劇場」でのミュージカル「誓いのコイン」では、主演としてロシア兵俘虜・ニコライ役を務められています。

平成22年に愛媛県・松山城二之丸で、ロシア人男性の名前と日本人女性の名前が刻まれている10ルーブル金貨が見つかったことがきっかけで、創作されることとなったこの舞台。
金貨に刻まれていた二人は、ロシア人男性については、日ロ戦争時に戦場となっていた中国大陸から松山に送られていた俘虜、日本人女性については俘虜たちを手当てしていた日本赤十字社の看護婦であったそうです。

舞台「誓いのコイン」では、この二人が恋仲であったのではないかというところに着想を得て、二人の交流を軸に、ロシア人と日本人の心の交流が描かれています。

この「誓いのコイン」は、2011年から「坊っちゃん劇場」で上演されていましたが、ロシアにも招聘されるなどして、モスクワやオレンブルクなどの都市でも大絶賛されている作品です。

この作品をきっかけに、愛媛県とロシアの間では、文化交流や学術交流など、活発な交流が行われるようになったんだそう。

主演を務めている四宮さんは、この作品が縁で、これまでに2回、ロシアを訪れているとのことで、今回のインタビューでは、四宮さんの「誓いのコイン」への思い、ロシアへの思い、そしてその魅力について、お聞きしてきました。




--本日はよろしくお願いします!さっそくなんですが、最初に、四宮さんの簡単なプロフィール、そして「誓いのコイン」との出会いをお聞きしてもよろしいでしょうか?

こちらこそよろしくお願いします。

まずは経歴について話しますね。
僕は、今でこそミュージカルを中心に活動しているんですが、元々はオペラをやりたくて上京して、音楽大学に入ったんですよ。そうしたところ、在学中にミュージカルというものに出会って、その魅力にハマってしまったんです。

大学卒業後はアメリカに留学して、色んなミュージカルなどに出演しながら、かれこれ8年間くらいアメリカで生活していました。

そんなあるときに、日本の知人から「東宝の『ミス・サイゴン』というミュージカルのオーディションがあるよ」と案内をもらいまして。
その頃は、すでにアメリカの永住権も取れていたので、「これからは、ぜひ日本でも舞台に立ってみたい」と思って、オーディションを受けることにしたんです。
幸い受かったのですが、稽古を含めると1年以上行われる公演予定だったので、東京に拠点を移して、帝国劇場をはじめ、様々な舞台に立たせていただいていました。

そんな東京在住時代に「誓いのコイン」の脚本を書かれている高橋知伽江先生の舞台に出演していたことがきっかけで、高橋先生から「誓いのコイン」のオーディションを受けてみないかと案内をいただいて。

高橋先生自身、東京外語大学でロシア語を勉強されていた方でもあり、あのディズニー映画「アナと雪の女王」ほか、数々のディズニー映画やミュージカルの訳詞を手がけられている方です。
かれこれ8年ほど前のことなんですが、このオーディションが「誓いのコイン」との出会いですね。 


--四宮さんは色々な舞台に出演していらっしゃると思うんですが、「誓いのコイン」という舞台に対しては特別な思いがあったりはするんでしょうか?

そうですね、「誓いのコイン」は僕にとって、初めてのロングラン作品の主演で、その分思い入れが大きいです。

「誓いのコイン」に出演するまでは、どっちかというと歌って踊るといった役として出演させていただいていたんですが、「誓いのコイン」では芝居という観点から、作品を深く掘り下げて考えるきっかけにもなりましたね。

作品の内容もすごく衝撃的だったのでよく覚えています。自宅に届いた台本を読んだだけで涙がボロボロ出て来て。

これまでも他の作品で台本を読んで涙ぐむことなんかはあったんですけど、繰り返し読んでも、何度も涙したのは初めての経験でした。
普段から涙脆い方というわけではないんですけどね(笑)


--「誓いのコイン」は四宮さんにとって、初めてお芝居の比重の大きい作品だったとのことなんですが、だからこそ苦労されたことやよかったことなどはあったりしますか?

もう、とにかく最初はセリフを喋るという作業をしたことがなかったので、うまく感情を言葉に乗せることができなくて苦労しましたし、ソロの場面やダンスの場面も多かったので、その分プレッシャーも大きかったですね~。
その分、やり甲斐のあるシーンも多くさせてもらえたことには、すごく感謝しています。


--四宮さんが思う「誓いのコイン」の特徴や魅力をお伺いしてもいいですか?

「誓いのコイン」は日ロ戦争中のロシア人と日本人の「人」としての人間的な交流を描いていて、日本の作品でありながら、日本、ロシアのどちらの国にも肩入れしていないところが特徴だと思いますね。
作品自体、芝居、ダンス、歌、どれもが非常にバランス良く作られているのも魅力なんですが、内容がすごく中立的に描かれているところに感動しました。
ロシアで上演した時にも、現地の方から「この作品はロシアのことをとてもよく理解して作られてるね」と言われたくらいで。

僕の話になるんですが、この作品を通じて、日本人としてのアイデンティティのようなものに目覚めたようにも思います。

それまでは、ブロードウェイの作品をはじめ、アメリカの作品を中心に舞台に立っていたのですが、日本オリジナルの作品である「誓いのコイン」が海外=ロシアでスタンディングオベーションを受けたというのは、これまでの作品とは違った感動があって。
しかも、幕開けから日本で上演していたとき以上の拍手や声援を頂いたんです!
この感動の「熱」は日本で作った作品だからこそ生まれたものなんじゃないかと思ってますね〜。

(「誓いのコイン」上演の様子。画像:「坊っちゃん劇場」さん提供)


--ここから少しロシアの話に移りたいと思うんですが、四宮さんが感じるロシアの魅力について聞かせてください!

これは、多くの日本人の方が思っていることかもしれないんですが、ロシアって、なんだか少し恐い印象だったりしませんか(笑)?
ビザも必要だったりして、少し入国しにくいという事情もありますし。
僕もロシアに行くまでは、そんな印象を持ってたんですが、実際に行って、蓋を開けてみると、ロシアの方はみんなとても親切で、困ってる時なんかには、すごく親身になってくれるんですよ!

僕自身の体験談をお話しすると、モスクワにある地下鉄の駅で道に迷ってしまったことがあったんです。

その時に、地図をずーっと眺めながら悩んでいると、隣からロシアの方が話しかけてくれて。本人も地元の人じゃないのに、一緒になって考えてくれて、ほかの人に尋ねてくれたりもしたんです。
その暖かさがすごく嬉しかったですね~。

あと、ロシアの人たちの持つ、いい意味でのマイペースさというのも魅力だと思います
親切心から人に対してアドバイスをすることはあるけど、日本のように、「こうあるべきだ」といったようなステレオタイプ的な価値観から、人に指示したりすることはないんじゃないかと思いますね。
他人がしてることに対して、いい意味で干渉することなく、認めてくれることから、僕のような自由人にとっては、彼らとの空間というのはすごく居心地がいいんです。

ほかにも、若い世代の間では、アニメやコスプレなど、最近のカルチャーももちろん流行ってはいるんですが、ロシア全体として、昔のモノをすごく重んじる雰囲気があるのは素敵ですね。
昔ながらの建物も残していてたりして、そうした建物に今でも人が住んでいるんですよ。年配の方々だけでなく、若者たちにも、昔のモノを重んじようとする思いや姿勢が伝わっているところに、すごく感動しました。

初めて観たコサックダンスの生の舞台は、恐らく1500人は入る劇場だったんですが、オーバーブッキングで自分は床に座る羽目になったくらいで(笑)
これもロシアの洗礼かと思いましたが、パフォーマンスは素晴らしく、お客さんの反応も熱かったですね!

あ、それとロシアは芸術に対する力の入れ具合が日本とは全然違うところも魅力だと思います。
というのも、テレビ業界とかだと少し違うかもしれないんですが、国立なり、州立の劇場で公演されている役者さんたちは、みんな公務員で、国からお金をもらってるんですよ。

国立劇場、州立劇場で役者をするというのは、それだけハードルの高いことで、専門の養成所に入ったりしなければなりませんし、限られた人しかなれないものなんです。
だからこそ、エンターテイメントに関わる方が、よりリスペクトされているというのはあると思いますね。

(ロシア・ウラル川。ヨーロッパとアジアの境目。画像:四宮さん提供)


--四宮さんのおススメのロシアの観光地や場所ってありますか?

ロシアに行って、たくさん感動を受けたのですが、観光といえば白夜のサンクトペテルブルクです!
ネヴァ川っていう、サンクトペテルブルクの街を流れる川があるんですけど、そこが運河になっていて、深夜1時になると、かかっている橋の全てが開いて、タンカーとかが通れるようになるんですね。
その運河は、夏の間はライトアップされていて、川を覆い尽くすほどたくさんのボートが流れていくんですよ。
それが落ち着いた後、タンカーや帆船などが通り出すんですが、その様子を見ているだけで1、2時間はかかります。
老若男女問わず、たくさんのお客さんが川の周りや橋の周りに集まったボートの上から、そのライトアップを眺めるんです。
白夜なので、夜空には明るさが少し残っているんですが、その光景がすごく幻想的かつ神秘的で。
もちろんモスクワのクレムリンなどの中心街を始め、ロシアには、いい観光スポットがたくさんあるんですけど、白夜のネヴァ川やサンクトペテルブルクの街並みを見たときの感動は一味違いましたね~。

ほかには、マリンスキー劇場の斜め向かいにあるレストランが、個人的におすすめですね。
ちょっと格式高い感じのお店で、料理が美味しいのはもちろんのこと、バレエダンサーやオペラシンガーなど、たくさんのアーティストたちのサインが入った、伝統的なデザインのお皿が店内いっぱいに並べられていて圧巻ですよ!

(白夜のサンクトペテルブルク、ネヴァ川。橋が開く様子。画像:四宮さん提供)
(白夜のサンクトペテルブルク、ネヴァ川。画像:四宮さん提供)


--四宮さんが尊敬するロシアの方についてもお聞きしていいでしょうか?

そうですねー、僕が尊敬しているのは、今年6月の渡ロでお会いしたセルゲイ・ベズルコフさんという方ですね。
この方はロシアでも、超有名な俳優で、映画やテレビに出演されていたりするほか、モスクワ・グベルンスキー劇場の芸術監督も務めていらっしゃいます。
ベズルコフさんが作られた舞台は、8Kのスーパーハイビジョン映像で撮られたものが、すでに日本でも上映されていて、すごくグローバルに活動されているんですよ!
色々とお話も伺ったんですが、自身の舞台や映画などに真摯に取り組まれているのはもちろんのこと、劇場での若手の育成などにも力を入れていて、とても包容力のある方でした。
ほかにも自分の作品をいかにして世の中に広めていくかについてのビジョンを持たれてて、その先見性にはすごく感心させられましたね。

(写真向かって右側がセルゲイ・ベズルコフ氏。画像:四宮さん提供)


--最後の質問になってしまうんですが、今後行ってみたいロシアとの交流などがあれば教えてください!

オレンブルク州の方々との個人的な交流ですかね~。
今では、愛媛大学とも交流のあるオレンブルク国立大学に、日本情報センターという学術教育や文化、経済交流に力を注いでいる機関があるのですが、そのセンター長であるドカシェンコさんという方が、以前、「坊っちゃん劇場」に「誓いのコイン」を観劇しにいらっしゃったことがあったんです。
このドカシェンコさんが、観劇後に「『誓いのコイン』をぜひロシアでも上演したい」とおっしゃってくれて、オレンブルク州政府に援助もいただき、オレンブルク州で「誓いのコイン」が上演されるきっかけを作ってくださったんですよ。

現地の方々ともSNS等で繋がりがあるので、個人的に赴いて演奏や交流をぜひやってみたいなと思いますね~!

(オレンブルク少年少女合唱団との交流の様子。画像:四宮さん提供)


--すごく面白そうなので、ぜひ実現させて欲しいです!!四宮さん、今回はインタビューを快く受けてくださって、本当にありがとうございました。「誓いのコイン」のDVDが発売されたら絶対買いますね!!






四宮貴久さんの最新情報についてはこちらから

twitter: https://twitter.com/atsuhisa1204
instagram: https://www.instagram.com/atsuhisa1204/
ブログ:https://ameblo.jp/atsuhisa-shinomiya/






(インタビュアー/山地ひであき)

一覧に戻る