日本・ロシアに縁をもつ「人」にスポットを当て、その「人」を紹介、そして「人」を通じて、 ロシアの魅力や日本とロシアの関わりなどを、車でドライブするような冒険心を持って発信していく「日ロドライブ」
第38回のゲストは、モスクワからロシアの魅力を伝えるポッドキャスト「桜とベリョーザ」の理恵さんと真理愛さんです。
「桜とベリョーザ」という名称は日本のシンボルである「桜」と、ロシアのシンボルである「ベリョーザ(白樺)」を掛け合わせたことに由来するそうです。
ポッドキャストでは、日本人の理恵さんとロシア人の真理愛さんの2人が日本語で、リスナーが楽しくなるようなロシアの情報や魅力等を幅広く発信しています。
今回はそんな「桜とベリョーザ」のお二人に、ポッドキャストを始めたきっかけやロシアの今を発信する理由、今後のビジョンなどについてお聞きしました。
––今日はよろしくお願いします!ロシアと日本の共通点や相違点、今のロシアなどについて発信していらっしゃる「桜とベリョーザ」ですが、まずは、お二人がこのポッドキャストを始めたきっかけについてお聞きしていいですか?
真理愛:特別軍事作戦が開始された結果、モスクワに住んでいる日本人の多くが日本に帰国しました。
私はずっと日本語を勉強していて、日本語で人と話すことが大好きなんです。
しかし、日本人の多くが帰国したことで、日本語の先生と理恵さん以外、日本語で人と話す機会がなくなりました。
そんなときに、理恵さんと日ロ関係やロシアの良いところや悪いところについて話したところ、とても楽しくなって、日本語で、もっとこんな情報を見たい、聞きたいと思うようになりました。
私自身、日本語を忘れないように、犬の散歩をしながら、日本語のポッドキャストを聞いています。
私はポッドキャストが大好きです。
理恵さんとの話は、いつもとても楽しいので、日本人のためにポッドキャストの番組を作りたいと思うようになりました。
私は日本に行ったとき、テレビでCNNやBBCを観ましたが、日本では総じて、一つの側面からの報道・情報しか観れませんでした。
これは日本人のために、ちょっと良くないと思いました。
日本人は主に日本語だけを話しますよね。
そのため、日本語のサイトやチャンネルからしか情報を入手できない人も多いと思います。
そうした人たちに、ロシアの別の一面を見せたいと思ったことも「桜とベリョーザ」の配信を始めたきっかけです。
理恵:私も真理愛さんと全く同じ意見ですね。
例えば、ロシアに関して言えば、日本の報道では、ロシアで何か大きな事件があったときしか、報道されません。その大きな事件の多くが、悪い見方ができる事件なんですよね。
でも、実はロシアにはそういった面ばかりではなく、もっと素敵なところがたくさんあります。
私はロシアに住んで、それを自分の目で見たり、聞いたりしているので、長い間、それを日本の人にも伝えたいと思っていました。
そんなふうに考えていたら、真理愛さんと出会って。
真理愛さんは日本が好きなだけでなく、とても上手に日本語を喋れます。
そんな真理愛さんが直接日本の人に語りかけてくれたら、ロシアの本当の姿が伝わりやすくなるんじゃないかと思ったことも「桜とベリョーザ」を始めたきっかけの一つですね。
真理愛:ロシアで売られているジャガイモについて、本当は1キロあたりの値段なのに、ジャガイモ1個の値段として、日本で報道されていたことがありましたよね。
こんなとんでもない認知の間違いが起きるのは、まずいなと思いました。
理恵さんとの会話では、ロシアの良いところが次から次へと話題になるんです。
だから、これを日本人に向けて発信したいと思うようになりました。
ロシアでもポッドキャストはすごく人気があるので、私もやりたいと思っていましたし。
理恵:そうですね、先ほどもお伝えしたように、ロシアの本当の姿というか、ロシアの一面しか日本では報じられていないので、日本では伝えられていないロシアの今、ロシアの本当の姿を日本語が喋れる真理愛さんと一緒に、日本語で日本の皆さんに語りかけれたらいいな、と思って「桜とベリョーザ」を始めました。
真理愛:「桜とベリョーザ」は昨年の12月に始めましたよね。モスクワの冬は寒すぎて、あまり外に出れないので、部屋の中で出来ることをしようと考えたこともきっかけの一つです(笑)
––日本の報道などは、ロシアに関して否定的なものばかりですよね…。お二人の簡単な自己紹介についても聞かせてください!
理恵:私は20年前にロシアに来て、それから暮らし始めました。
あっという間の20年間で、今でもまだロシアに来たばかりのような気持ちです。
当時、私がロシアに来たのは声楽を勉強するためです。
日本にいた頃、声楽家の岸本力先生(※1)に師事していまして、その岸本先生の許可をいただいて、モスクワに留学しました。
私も真理愛さんもモスクワ大学の出身で、私は芸術学部を卒業しています。
卒業してからも、勉強不足を感じ、もっとモスクワで勉強を続けたいと思っていたところ、お仕事のお話をいただけて。モスクワで仕事をさせていただけることになったので、今までモスクワに残って、仕事を続けながら、音楽活動もしている状況です。
真理愛:理恵さんの歌はすごく素敵なんですよ。
私の祖父と祖母も理恵さんの歌う動画を観て、「なんて素敵な女の子!ロシア語の歌を歌えるのはすごい!」と言っていました。
理恵:ありがとうございます!
真理愛:私は子どもの頃から、日本に興味がありました。
私はロシアのロストフナドヌーいう町の出身です。
その町で8歳の頃に空手を始めました。
日本人の立場だと、空手を習い事に選ぶことを不思議に思うかもしれませんが、私の故郷では、空手はすごく人気があったんです。
始めたころからずっと黒帯がほしいなと思ってましたね。
16歳のときに黒帯の試験を受けて、初めて日本人の空手の先生を見ました(笑)
その空手の先生は、毎年春にロストフ市に来て、黒帯の試験監督をしていたんですが、毎年すごくたくさんの人たちが集まっていました。
私はモスクワ国立大学のジャーナリスト学部の出身です。
大学2年生のとき、空手の試合のために初めて日本に行きました。
ただ、その時はモスクワから東京への直行便だったんですが、隣りに座った人が風邪で、ずっと咳をしていて、私も風邪を引いてしまったんです(笑)
私はそのとき、すごく真剣に空手の試合のことを考えていて、いい試合がしたかったので、早く元気になりたいと思いました。
当時、私は英語とロシア語しか話せなかったので、ドラッグストアで苦労したんですが、店員さんが親切にしてくれて、良く効く薬を買うことができました。
ホテルでは、従業員の人たちが、大きなお茶を持ってきてくれたんですが、「日本人は本当に、なんて親切なんだ!」と思いましたね。涙が出るほど、日本人の優しさを感じました。
日本人の方々の親切のおかげもあって、試合の当日までには、まずまず元気になって、組手の試合では準優勝することができました。ちなみに、それから4年後の2019年には優勝できました!
東京からモスクワに帰る際、飛行機の中で「あー、日本語を勉強したいな」と思いましたね。
その1週間後、学校で「日本語科で学びたい人たちは、ここに言ってください」と書かれた小さなノートを見つけました。
すごく小さなノートで、先生方でさえ、日本のセンターについては、ほとんど何も知りませんでしたね。日本語科の先生は日本人でした。
大学2年生のときに30人が日本語科に入りましたが、卒業したとき残っていたのは3人だけでした(笑)
ロシア人が日本語を学ぶのはすごく難しいです。
私は、当時の先生のおかげもあって、頑張ることができて、今も日本語を勉強しています。日本語も日本も、本当に大好きです。
(※1)岸本力さん・・・平成24年、日本人歌手として初の「プーシキン・メダル」(ロシア文化勲章)を受賞。日本におけるロシア音楽の第一人者。
––お二人ともモスクワ大学出身という共通点もあったんですね!続いての質問なんですが、理恵さんからはロシアを好きになったきっかけ、真理愛さんからは日本を好きになったきっかけについて教えていただけますか?
理恵:私は岸本先生と出会う前から、日本ではバレエ楽曲やピアノ作品などで有名なチャイコフスキーやラフマニノフが、実は声楽曲も作っていたことを知って、なんて素敵なんだろうと思っていたんです。
ロシアの声楽はただ美しいだけではなく、大自然の魅力のほか、人間の内面の苦しみや悩みといった、綺麗な側面だけでない「人間らしさ」があるように感じました。そこに惹かれましたね。
そうして、ロシアの四季の移り変わりをこの目で見て、知りたいと思い、留学を決めました。
ロシアに来てみると、言葉が全然わからなくて、「私は理恵です」、「私は日本から来ました」くらいしか喋れなかったんですが、街に出ると、みんなが助けてくれました。
困っているときは、いつもロシアの人たちが助けてくれましたし、大学に入学したら、大学の先生も、本当に心を込めて指導してくれて。
ロシアの人たちって、なんて温かいんだ、なんて人間的なんだろうと思いました。
そんなロシアとロシア人の魅力に惹かれて、今もロシアに住み続けている感じです。
ロシアの文化や芸術、建築なども素晴らしいですが、私にとっての一番のロシアの魅力を挙げるとしたら、それは「人の魅力」ですね。
もちろん、たまには頭にくることもあって、街やお店で知らないロシア人と喧嘩みたいになることもあります(笑)
けれど、ロシア人は弱い人や弱い生き物に対して、すごく優しいんです。
普段はちょっとやる気がなかったとしても、いざというときは、ものすごい力を発揮します。困ってる人がいたら全力で助けるし、何かやらなければいけないことがあったら、心を込めて全力で頑張る人たちです。
そういうロシア人の人間らしさは、もしかすると、日本人が少し忘れてしまっているような部分かもしれないと思っています。
人間の本能みたいなものが残っているのがロシアの人たち、そしてロシアの社会だと思いますね。
例えば、時には規則を少し破ることもありますが、決して一線は超えません。
どこまでが良くて、どこからが悪いのかというのが、みんなわかっていて、お互いに何も言わなくても社会が成り立っています。
これはすごいことだと思うんです。
また、「寛容さ」もロシア人、ロシア社会の魅力だと思います。
例えば、少し不思議な人、おかしな人がいる場合、もしかすると、日本だと後ろ指さされて、いろいろ陰口を言われたりするかもしれません。
けれど、ロシアの人たちは「ちょっとおかしいかもしれないけど、こういう人もいるよね、こういうのもありだよね」という風に、その人を、しっかり認めてくれます。
そういった部分に素晴らしさを感じながら、ロシアの人たちの魅力に惹かれ、今も仕事をしながら、勉強しながら、生活させていただいているという感じですね。
––とっても素敵な話ですね!ありがとうございます。真理愛さんからも日本の魅力をお聞きかせしてもらえますか?
真理愛:先ほども言いましたが、私は子どもの頃に日本人の空手の先生に会いました。
おそらく、日本人の空手家は90年代頃から、ロシアに来始めていて、ロシア人たちにとって、そういった日本人の空手家の方々はスーパーマンのような存在でした。
空手をやっているロシア人はみんな、「私も日本人の空手家のように強くなりたい」、「完璧な空手をできるようになりたい」という思いを持ちながら、空手道を歩んでいました。
私が子どもの頃に会った日本人の空手の先生は強くて、優しい人で、出会うことができて本当にラッキーだったと思います。
今の私の空手の師匠は矢原美紀夫先生(※2)です。
来日するたびにお会いするのですが、先生のお話を聞くたびに、強くなりたい、一生懸命頑張りたいという思いが強くなり、モチベーションが上がっています。
また、私の日本語の先生も私にとって、すごく大切な人です。
今でも先生の家に行って、おいしい日本食をご馳走になって、日本語でお話しして、とても楽しい時間を過ごしています。
これまでに私は5回くらい来日していて、日本の様々な地域に行きました。
2017年には、日本の学生とロシアの学生がお互いに日本とロシアを行き来して交流を図るプログラム「ロシアミッション」(※3)にも参加しました。
そのときに出会った日本人は今でも大事な友だちです。
何かと私の現状などを気にかけてくれて、とても感謝しています。
私は日本の一般家庭で、ホームステイした経験もあります。
ホームステイ先の家庭には、小学一年生の女の子がいたのですが、彼女の宿題を手伝ってあげたのはいい思い出です(笑)
それまで、日本人とロシア人は全然違うと思っていましたが、その経験の中で、意外と似ているところが多いと思うようになりましたね。
日本で行きたいところがまだまだたくさんあります!
(※2)矢原美紀夫さん・・・松濤館スタイルの空手家。段位は十段位
(※3)ロシアミッション学生交流事業・・・「一般社団法人 日本JC日ロ友好の会」主催、日本外務省後援で毎年行われていた交流プログラム。
––ぜひ日本全国行ってみてほしいです!次の質問ですが、「桜とベリョーザ」のポッドキャストで、一番発信したいことや伝えたいことを教えていただけたらと思います!
理恵:あまり日本では伝えられていない「現実のロシアとロシア人」について情報を発信したいです。また、私たちの番組を聴いた人たちが、嬉しい気持ちや明るい気分になったらいいなと思っています。
皆さんの毎日の生活に、少しでも喜びを提供できれば嬉しいです。
真理愛:私たちが「桜とベリョーザ」を始めたとき、たくさんのリスナーから応援のメッセージをもらいました。
「面白かった!」というメッセージをもらったときは、すごく嬉しかったです。
日本におけるロシアに関する報道は軍事や政治に関するものが多いです。
しかし、私としては、普通のロシア人の生活や文化について、もっと多くの日本人に知ってもらうことが大切だと思っています。
こういった部分を伝えていけたらいいですね。
理恵:本当にそのとおりです。普通のロシアを伝えることで、ロシアに親近感を持ってくれる人も新たに生まれると思います。
ただ、逆にそういった部分を知って、「ロシアってやっぱりわからない国だな」、「苦手だな」と思う人がいても全然いいと思っています。それは皆さんの判断です。
日本人と同じようにロシア人にも日常があって、似た部分もあれば、違うところもあります。
日本人に、ロシアやロシア人に少しでも関心を持ってもらい、日本とロシアの相互理解が深まればいいと思いますね。
––日本の人にもっとロシアの魅力を知ってもらいたいですよね。最後の質問になってしまうのですが、ぜひ、「桜とベリョーザ」の今後のビジョンについて教えてください!
理恵:これはまだ真理愛さんとも話してないことなんですが(笑)
今のところ「桜とベリョーザ」はモスクワから配信していますが、今後はロシアの他の地域や旧ソ連圏の国などからも配信したいと思っています。
個人的には、他の地域に旅行して、現地からリポートなどもできたらいいですね。
真理愛:私は、理恵さんといつも2人で話していますが、いつか「桜とベリョーザ」で、日本人や日本語を話すロシア人に対するインタビューをしてみたいです。
ロシアの様々な地域から配信するという、理恵さんのアイディアもとても素晴らしいと思います。
私もロシアの色々なところをみなさんに見せたいです。
ただ、ロシアはとても広いので、なかなか大変そうですね(笑)
シーズン2は、ソ連時代をテーマにしていましたが、これは私にとってとても難しいテーマでした。
今のロシアを理解する上で、ソ連の時代はとても大事なので、テーマにしましたが、私はソ連時代を体験していないので。
次のシーズンは、より楽しいことを題材にできたら嬉しいですね(笑)
理恵:今はまだフォロワーも少ないですが、これから、どんどん増やしていって、日本のリスナーの皆さんとも、細かくやりとりしたいです。リスナーの皆さんの知りたいことや要望などにも答えていきたいですね。
––今日は本当にありがとうございました!お二人の今後の配信が楽しみです!「桜とベリョーザ」から目が離せません!
「桜とベリョーザ」の情報はこちらから
↓
Podcast:https://podcastranking.jp/1660053109
YouTube:https://www.youtube.com/@sakura-to-beryoza
X(旧Twitter):https://twitter.com/sakuratoberyoza
(インタビュアー/山地ひであき)
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