(写真:『ピロシキ』。レシピは記事下部にあります)日本とロシアを股にかけて、「食」をテーマにした文化交流活動を行っている日露文化オーガナイザー・中川亜紀さんの料理と文化に関するコラム「お皿の上のロシア」全12回シリーズの最終回です。
前回までの連載記事はこちらから
(以下、中川さんのコラムです)
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4月のロシアは、日本と同じく三寒四温で春らしくなります。
SNSで繋がっているロシアの友人達の投稿を見ていると、「これでも春?!また雪が降った!」と 雪景色がアップされていたかと思うと、オンラインでレッスンしようとzoomを繋いだら、半袖姿で公園に座って「今日は温かいです!」と言う生徒さんもいたり。
ちなみに今年は暦の関係でロシア正教会の復活祭は西方教会より1ヶ月も遅れて5月にずれ込んでしまったため、肌感覚では春でも、気分的にはまだ春という気になれない4月だったかもしれません。
5月になると《ダーチャ》(郊外の畑のある別荘)に行く頻度も増え、5月9日の対独戦勝記念日をメインに連休になるため、その頃になると人々の心も長い冬を終えた開放感に溢れます。
出かけた先でいろんな《ピロシキ巡礼》はいかが?
コロナ渦とは言え、春の気分に誘われて外に出たくなるのはみんな同じ。
重いコートや帽子やブーツから解放されたら外の空気を楽しみたくなるのは日本人以上にあるようです。
私も2019年以来ロシア出張に行けず、《ロシアロス》になってからすでに1年半。
ロシアの空気と一緒にかじるピロシキも恋しいものの一つ。
モスクワの地下鉄の売店、おばあさんが気だるそうに座る郊外の小さなお店、電車に乗る前のキオスクや停車駅で売りに来るおばさんたちからも買うことができます。
揚げピロシキ?焼きピロシキ?
日本でピロシキといえば、子供の頃から馴染みのある揚げピロシキを想像する人が多いのではない でしょうか。
私がモスクワに引っ越した時、まず思ったのが「どこにも揚げピロシキがない!」。
3年間で一度も見ませんでした。
中身がわかりやすいように形や包み方は変えてありますが、焼きピロシキばかり。
そこで「本場のピロシキは焼いたものだった!」と言っていたところ…
「いえいえ、揚げピロシキもありますよ」と。
そう、地方や郊外に出掛けた時、また駐在時にはあまり立ち寄らなかったような小さな売店などにはちゃんと揚げピロシキがあったのです。
では一体どちらが主流?地方による?歴史が違う?様々な疑問が湧いてきます。
ということで、SNSを使ってロシアのフォロワーさんたちにコメントいただきました。
そこで分かったのは、
・地方からモスクワの大学に出てくるまで焼きピロシキを見たことがなかった。
・モスクワ生まれモスクワ育ち、揚げピロシキを食べたことがない。
・おばあちゃんはどっちも作る。揚げピロシキはカロリー高いけどおいしい。
・時間がない時は揚げピロシキで、時間がある時やお祝いごとでは焼きピロシキ。
・モスクワじゃなくて極東出身だけど自家製ピロシキはいつも焼いたもの。揚げたものは売店などで買うイメージ。
・焼きピロシキは昔からロシアのペチカで焼いたから伝統と歴史がある。揚げピロシキはアジアや南方の他の文化の影響を受けたもの。
・焼きピロシキには、自宅に立派なペチカがあることと、それを燃やすための十分な薪があるということ、つまり豊かな生活の象徴。だからお祝いごとなどでは焼きピロシキを焼く。
などなど。
ネットに確実な情報を示すものはありませんでしたが、やはり伝統と歴史があるのは焼きピロシキのようです。
ピロシキには、どんな具材があるの?
現地で一般的な具は、キャベツ。ここに刻んだ茹で卵が入ることも。
他には、きのことじゃがい も、鶏肉、サーモン、ねぎと卵とご飯なども。
甘いものではりんご入りやベリー入りなどもあります。
日本で昔からある揚げピロシキには筍や春雨が入ったりという不思議なものもあり、ロシア人もびっくりですが、当時日本で入手しやすかったものをお肉に合わせたのかもしれません。
また日本にロシア料理が伝わった経路として、満洲でロシア人家族と交流があり、現地でロシア料理を覚えた日本人が帰国してロシア料理店を開店させたことも影響しているかもしれません。
ピロシキは家庭の味であり、レシピも家庭の数ほどあります。お料理上手のお母さんであり、吉祥寺「カフェロシア」のシェフでもあるナターシャから伝授してもらった一押しのレシピを皆さんにご紹介します。
ぜひ、ご自宅で本場の伝統的なピロシキの味を楽しんでいただき、コロナ渦が収束した際には、本場に味わいに行き、「お皿の上から見たロシア」を実際に体験いただければうれしく思います。
“基本のピロシキ生地”のレシピ
【材料(32個分)】
砂糖 40g(A)
塩 10g(A)
卵(全卵) 2個(A)
溶かしバター 72g(B)
牛乳 400cc(B)
準強力粉 700g(550gと150gに分けておく)
ドライイースト 5g
卵液 卵1個分
牛乳 大さじ2
【作り方】
1.溶かしバター(B)の鍋に牛乳(B)を加え、人肌に温めておく。
2.卵(A)をときほぐし、砂糖(A)と塩(A)を加えてよく混ぜる。
3.準強力粉をふるって、550gをボウルに入れ、ドライイーストを加える。
4.(残りは別にとっておく)
5.3のボウルに1と2をスケッパーを使いながら少しずつ混ぜよくこねる。まとまってきたら、残しておいた150gの準強力粉を少しずつ加えながら、表面がなめらかになるまでこねあげる。
6.容器に入れてラップをかけ、室温でだいたい2倍の大きさになるまで置く。冷蔵庫で一晩寝かせる。
7.生地を35~40gずつの大きさにちぎっていく。ひとつひとつをきれいなボール状にして、バットに並べておく(その後3~4日間保存可能)
8.3~12時間寝かして、具を包み、表面に卵液と牛乳を混ぜたものをはけで塗り、210度で20分焼く。
具その1 “ハーブ入りひき肉”
【材料】
合挽肉 500g
玉ねぎ 中1個
サラダ油 大さじ1
塩 小さじ1/3
生イタリアンパセリ 1/2パック
粗びきこしょう 少々
にんにく ひとかけら
クミン(あれば) 小さじ1
生ディル(あれば)1/2パック
【作り方】
1.たまねぎはみじん切りにする。クミンも包丁で細かく刻む。サラダ油を敷いたフライパンにまずクミンを加え、香りが出るまで炒める。さらに刻んだたまねぎを加え、色がつくまで炒める。
2.合挽肉をほぐして、1のフライパンに加え、あまり触らないように、焼き付けるように火を入れる。片面が焼けたらヘラなどでひっくり返す。全体にほぼ火が通ったら、塩コショウを加えてしっかり混ぜる。
3.生ハーブを刻んだもの、にんにくのすりおろしを加え、ざっと火を通したら火を止める。
具その2 “クローブ香るりんご煮”
【材料】
りんご 3個
レーズン お好みで
砂糖 50~100g
レモン 1/2個
クローブ 2~3個
シナモン お好みで
バター 15g
【作り方】
1.りんごは皮をむいて8つ割にし、さらに薄いいちょう切りにする。レモン汁を絞ってまぶしておく。
2.りんごに砂糖を加えてざっと混ぜておく。
3.鍋にバターを溶かして2のりんごを砂糖と一緒に入れ、炒める。
4.しんなりして水気が出てきたらクローブ、シナモン、レーズンを加えて蓋をして煮る。汁気がなくなって、とろみがついたらバットに移して冷ましておく。
(文/中川亜紀/日露文化オーガナイザーとして、ロシア料理の研究のほか、ロシア語通訳・ロシア語児童支援などの活動を行っている)
中川亜紀さんのHPはこちらから:http://www.aki-russia.jp/
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