2020.10.10

都内でロシア武術・システマの教室「システマ東京」を開講している北川貴英さんインタビュー
「僕のミッションは『世界の呼吸を深くする』ことです」

Today's Guest

北川貴英さん

2008年、モスクワにて創始者ミカエル・リャブコより公認システマインストラクターとして認可。首都圏を中心に年間約400コマを越すクラスを実施。著書、雑誌、ラジオ、テレビなどを通じ、幅広くシステマを紹介。2006年より年に数回の海外研修を継続し、2016年にはコンディショニング・インストラクターにも認可される。マンガ「アンダーニンジャ」NHKドラマ「ディア・ペイシェント」などで演技指導も行う。

(写真:システマのレッスンの様子)

 

日本・ロシアに縁をもつ「人」にスポットを当て、その「人」を紹介、そして「人」を通じて、ロシアの魅力や日本とロシアの関わりなどを、車でドライブするような冒険心を持って発信していく「日ロドライブ」

第16回は、都内でロシア武術・システマの教室「システマ東京」を開講している、北川貴英さんにお話を伺ってきました。システマとの出会いは15年前で、ロシア訪問回数はなんと20回以上。そんな北川さんに、システマのこと、ロシアのことについて沢山聞いてきました。

 

取材前に、実際の教室に潜入させてもらったのですが、イメージしていた、いわゆる激しい格闘技とは打って変わって、スタジオに響き渡るのは、「リラックス〜」「呼吸を深く、力を入れないで〜」という声。

日本では、メディアの影響もあって最近認知度をぐんと上げてきているシステマ。
武道の中でも独自の立場を持つシステマと、北川さんとロシアとの繋がり、そして北川さんの今後の展望に迫ります。

目次

ロシア武術・システマとの出会い

--今日は初めてシステマという武術を目の当たりにして、とても興奮しています!まず初めに、北川さんとシステマとの出会いを教えてください。

システマ見学はいかがでした?
イメージされていた格闘技とは違ったので、びっくりしたんじゃないですか?(笑)

僕がシステマに出会ったのは、2005年のことです。
当時、空手を中心に様々な武術を習っていたのですが、“相手をやっつけること”だけが重要視されがちな武術に、“体を整えること”は一緒に叶えられないのかな。と、そんなことを考えていて、世界のどこかにそんな武術がきっと存在するはず、とさえ思っていました。
そんなとき、たまたま読んでいた雑誌で、「システマ」に出会います。
呼吸でリラックスし、心身の健康にも役立つ”武術だということを知り、感銘を受けました。

システマの創始者、ミハイル・リャブコは現役のモスクワの軍人だったので、特殊部隊で使用されていた「システマ」の名前は公に出せず、現役を退いた2000年に、システマを教え始めました。

 

--意外にも、最近確立された武術なんですね!北川さんは様々な武術をご経験されていますが、システマと他の武術との違いはどんなところにあるんですか?

従来の武術は、体の大きい人が強い、とか、腕が長い人が有利、とか。強さや実力の物差しが明白ですよね。
でもシステマはいろんな可能性があるから、優劣つけようがない。そこが一番大きな違いかなって思います。

システマをやってみて、「マッサージが上手くなった!」とか、「職場で先輩からいじめられていたけど、少し自分の意見を返せるようになった」とか、必ずしも“強くなること”だけが、目的にならなくていいと思うんですよ。

人はどの方向に伸びるかどうかわからないから、創始者のミカエルさんはあえて、「段・級」などの分かりやすい指標は置いていない。何がうまいかどうかは、その人が決めることだし、上下関係も全くないです。

例えば、試合では勝てるけど、日常で暴力を振るったり…武術にありがちな、強者至高!みたいな考え方には否定的。人生をより充実するための手段になって欲しいな、という想いがありますし、豊かになってハッピーになることが、システマを学ぶ人の最終目標であって欲しいなと願っています。

 

--それ、とっても素敵な考え方ですね…!システマの考えに共鳴して、教室をオープンするまではどんな道のりだったんでしょう?

システマを習得したいと思ってからは練習時間を確保するため、会社勤めからフリーランスに転身、ライターとして、安い案件も受けながら練習に励んでいました。
当時は「システマジャパン」という、スコットとアンディという男性2人が創設した、日本で最初のシステマグループに通っていました。受講者は10人から多くて20人くらいでしたね。

日本で練習する中で、創設者のミハイルさんから習いたいという想いが募り、2006年にカナダで行われたイベントではじめてミハイルに会いました。その翌年からは毎年モスクワに通ってシステマを学んでます。

 

--北川さんの行動力が凄まじいです…!すぐ、「行こう!」と行動できたのはどうしてなんですか?

武術の創設者なんて、生きてることの方が珍しいじゃないですか。
あの世には行って帰ってこれないけれど、モスクワなら、すぐ行って帰ってこれますからね(笑)
そんなノリで、モスクワへ渡航してますよ。

初めて会った、ミハイルはとにかく!強かったです(笑)

自分も、長いこと武術に関わってきましたけどね。彼に「かかってこい」って言われて掴みかかったはずなのに次の瞬間、気付いたら真っ逆さまになってました。投げられて目の前に地面があったんです(笑)

彼の強さとおおらかな人柄に惹かれて師事し、のちに「日本でシステマのインストラクターをやりなさい」と持ちかけられて、2008年に公式インストラクターとして認定されました。

 

北川さんの目から見たロシア

--システマを語る上で、ロシアとの繋がりも無視できないと思いますが、ロシアのここが好き!というところを教えてください。

おおらかさですね〜。
適当に見えるけど、最終的に辻褄を合わせてくるところ。細かいことにはこだわらないけど、やるべきことはやる!というおおらかさと清々しいところが大好きです。

料理は、きゅうりが丸々そのまま出てきたり、遅延続きの空港建設も駆け込みセーフの突貫工事で間に合わせてしまうところとか(笑)

あと、ロシア人、無愛想で暗いってイメージがありますけど、実は感情にピュアで、すぐ泣きます。
飲み会もすごいですよ。ウォッカを片手に、フォークソングを唄う飲み会。夜通し延々と続きます(笑)
僕は毎回、テーブルの下にミネラルウォーターを隠しておいて、酔いが回ると水を入れて飲んでます。(透明なのでバレないです)

ちなみに、ロシアの料理はどれも本当に美味しいですが、ケフィア(ロシアのヨーグルトのような食べ物)はやめとけ!っていいたいです…笑
僕はこのケフィアのせいで毎回腹痛になってました。
でも、そんなときは正露丸が効きますよ。ロシア(露)を正す薬と書きますし(笑)

おおらかさは、システマのレクチャー方法にも現れていて、日本の武術だと、型や解釈を細部まで整えようとするように思えますが、ロシアンスタイルは「とりあえずやってみよう精神」が大事です。非常におおらかで自由。そんなところにも惹かれました。

 

--確かにシステマの教室でも、「とりあえずやってみましょう!」という北川さんの掛け声が印象的でした。北川さんにとって、ロシアってどんな存在ですか?

第二の故郷みたいな感じですかね〜。訪れるたびに安心します。
セミナーや合宿の名目でロシアに渡航した際、スケジュールを渡されますよね。
そこには「トレーニング」と書いてあるのに、観光バスがやってきて(笑)
その後、近所にある歴史的な施設を見て回ったんです。講師曰く、「これもシステマのトレーニングの一種だ!その土地の歴史をまずは知りなさい。」って。
ルールがほとんどないんですよね (笑)
いい意味で、素朴だし、シンプルな人柄な人が多いです。世間体なんてものは鑑みず、考えがわかりやすくて、とっても付き合いやすいです。

 

--ルールや規律を重んじる人が多い日本人とは、性格が大きく違いそうですね。逆にロシアに行って、大変だったことはありますか?

語学ですね。ロシア語はほとんど話せません。
でも、システマの「やってみろ精神」でなんとかなってます(笑)
まさに習うより、慣れろ。言葉がほとんどわからなったおかげで、かえって頭でっかちにならずに済んだから、ロシア語は勉強してなくてよかったのかもしれないと思っているほどです。

逆に、教室を開いて、日本人相手に指導を始めたときは大変でした。
日本人は説明を求めるじゃないですか。当たり前に疑問が出てきてしまうし、それを「正」としてきた文化だから。
説明を上手くすると、できた気になってしまう怖さもあるからこそ、ミカエルさんから習った“説明をしない加減”は、とても大事なことだなと思っています。

 

今後のビジョンについて

--システマは、お笑い芸人の方がネタに用いて一躍有名になりましたが(笑)、これからは、どんな人に体験して欲しいですか?

世の中の人全員です。
従来の武術が当たり前に良しとしてきた「相手が攻めてきて、倒す」って人生において何の価値もないと思うんです。かっこいいかもしれないけど、宴会芸みたいなものではないかと(笑)

システマを通して伝えたいのは、「とりあえず呼吸してればいいんじゃない?」ってこと。
この社会に生きる皆の呼吸が深くなれば、落ち着きを取り戻して、ストレスも軽減し、物事を俯瞰してみることもできるでしょう。そうしたら自ら命を断つ人も減るかもしれない。

世界の呼吸を深くする。

これが僕のミッションです。
「うっ」と呼吸が詰まったときに、「ふ〜っ」という深く長い呼吸に変えるだけの簡単なことです。
そこで腹式とか胸式呼吸とか、ややこしいことを言わないところがロシアの武術っぽいなと思います(笑)
システマによって救われる人がいると思うから、毎日、赤坂でシステマのクラスを開けています。書籍やウェブ上でも、システマについて発信しています。
ロシアのマニアックな軍隊武術の一つという立ち位置で終わるのはもったいなさすぎるので、もっと広めていきたいですね。

 

--世界の呼吸を深くする。本当に素敵なビジョンですね。よければ最後にPRコーナーがあるのですが、システマに興味がある人に一言お願いします!

とりあえずやってみなよ!(一同大ウケ)
細かい説明は、いらないですよ(笑)

 

--北川さん、貴重なお時間をありがとうございました!システマの思想やロシアの魅力など、沢山お話しくださり、とても楽しかったです。私も、ひとまず「ふ〜っ」と。呼吸から変えてみます!

 

(写真:「システマ東京」の皆さん)

 

 

北川貴英さんの著書『人生は楽しいかい?』の情報はこちらから(下記はAmazonウェブサイトへのリンクとなっています)

北川貴英『人生は楽しいかい?』夜間飛行、2019

 

北川さんの開講されている「システマ東京」の情報はこちら

名称:「システマ東京」
HP:https://www.systematokyo.com
YouTubeチャンネル:https://m.youtube.com/user/IKASHITERUSHOBO

 

 

 

(インタビュアー・文/石井彩)

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