2021.03.31

日露文化オーガナイザー中川亜紀の
『お皿の上のロシア』第11回『ブリヌィ』

Columnist

中川亜紀

日露フードオーガナイザー、a.k.i. kitchen project代表。日本人向けロシア料理教室、およびロシア語話者向け和食教室を主宰。東京都教育委員会委託ロシア語児童の日本語講師およびサポート員として都内の小中学校にて指導もしている。「食は異なる文化の人々をつなぐ」をテーマに、日本とロシア(および旧ソ連圏)を食でつなぐ活動を続けている。

(写真:ロシア風クレープ『ブリヌィ』。レシピは記事下部にあります)

 

日本とロシアを股にかけて、「食」をテーマにした文化交流活動を行っている日露文化オーガナイザー・中川亜紀さんの料理と文化に関するコラム「お皿の上のロシア」全12回シリーズの第11回です。

 

前回までの連載記事はこちらから
(以下、中川さんのコラムです)
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《太陽祭》ともいわれる「マースレニッツァ」

ついに日本も桜の季節。
今年は、ロシアにいる友人たちも、日本の桜開花宣言を切ないほどの想いで喜んでくれています。
かつて彼らも日本に旅行に来て、その時に眺めた桜を、次はいつ見ることができるのか…。
そんな彼らの想いが伝わってきます。

日本では春の訪れはこの桜の開花宣言で感じる人も多いかもしれませんが、この時期のロシアはまだまだ雪景色も多く、花といえば、雪原にたくましく顔を出すスノードロップくらい。
そんなロシアで春の訪れを感じるのは、「マースレニッツァ」という1週間続くお祭りがやってきた時でしょう。

このマースレニッツァは、もともとはロシア正教会とは関係なく、土着信仰としてありました。
春の訪れを祝い、藁で出来た人形を燃やし、ロシア風のクレープ《ブリヌィ》を食べます。
ブリヌィの丸い形と黄色っぽい色が太陽に似ていることから、長い冬が終わり、太陽の季節が始まるこの時期に食べてお祝いするものです。

それが、ロシア正教会と結びついて、マースレニッツァを祝うタイミングも正教会のカレンダーに対応しています。
正教会ではユリウス暦を使うため、カトリックなどの西方教会とはずれた時期に復活祭の日も算出されます。正教会ではさらに、その復活祭の前の40日間ほどが《ポスト》と呼ばれる大斎期、動物性の食べ物を絶つ時期になります。
その大斎の前の一週間がマースレニッツァとなり、ブリヌィをたくさん焼いて食べます。

 

ブリヌィの美味しそうな焼き目が腕の見せどころ

ブリヌィの生地はできれば前夜に作って、一晩冷蔵庫で寝かしておくと、翌日には、伸びの良い、破れにくい生地になります。
ロシアの小麦粉は、日本の薄力粉よりグルテンの強い、中力粉に近い物になります。日本で作る時も、もしあれば、中力粉や準強力粉を使うと、もっちりとした食感になりやすいです。薄力粉に何割か強力粉を混ぜても大丈夫です。
焼く時は、フライパンをしっかりと熱して温度管理をすることが、美しい月面のような焼き目をつけるコツです。

いつもは、じゃがいもにもパンにも、たっぷりとナイフでえぐったバターを乗せるのロシア人が、その後40日間もバターを我慢するわけですから、このマースレニッツァのブリヌィには、焼く時も、また焼いた後も、バターを惜しみなく使って、バターの幸せな香りで春を待つ気分を味わうのもわかる気がします。

 

キャビアなどと豪華な食べ方も

自宅では朝ごはんなどに、バターやグラニュー糖を振りかけてシンプルに味わったり、自家製のジャムを乗せたり。また、サワークリームにサーモンやイクラとディルなどを乗せるのも一般的な食べ方です。ホテルなどで豪華な朝食を楽しむ時は、なんとキャビアを乗せてシャンパンと楽しんだりも。
ちなみに「イクラ」という言葉はロシア語では魚卵一般を表し、日本人が「イクラ」と呼ぶものはロシア語では「赤いイクラ」「サーモンのイクラ」などと呼ばれ、「黒いイクラ」というとキャビアを意味します。

ソ連時代には、食べたくなくてもスプーンに山盛り口に入れられたというロシアの人たちも、今ではおいしいキャビアをロシア国内で口にするのは稀になりました。
良いものは、高値で海外向けに売られてしまうからです。
私も今のところ、そんな贅沢に恵まれたことはないですが、いつか一度で良いのでブリヌィにたっぷりのキャビアを乗せて口いっぱい頬張ってみたいものだと思います。

ブリヌィ自体、クレープよりもしっかりとした生地で味わい深いものですので、ぜひご自宅ではシンプルに味わったり、サラダやスモークサーモンなどを巻いて気軽にお楽しみください。

モスクワの幼稚園でよくおやつにこのブリヌィをもらっていたうちの息子たちは、今でもブリヌィが大好物。
作ってやるとその頃を懐かしがって、四つ折りにした角っこをかぷっとかじり、丸くまた広げて真ん中に開いた穴から向こうをのぞきます。
それを見たロシア人の友人が「僕らと同じことをやってる!」と、一緒に懐かしい味を思い出して笑ったりもしました。
皆さんもこのレシピで、ご自宅で甘い香りの漂うロシアの春を想像してみてください。

 

 

“ブリヌィ(ロシア風クレープ)”«Блины»のレシピ

 

【材料】

ブリヌィ生地 10-12枚
薄力粉 150g
砂糖 30g
卵 2個
塩 小さじ1
牛乳(卵と合わせて) 400cc
バター 25g
サラダ油 大さじ1

 

【作り方】

1. 薄力粉を計ってボウルにふるって入れる。

2. 砂糖と塩を薄力粉に混ぜる。

3. 計量カップに卵を割り入れて混ぜる。牛乳を追加してよく混ぜる。

4. 粉の入ったボウルに卵と牛乳の液の半量を加えて、泡立て器で、ダマにならないようによく混ぜる。

5. 残りの卵と牛乳の液を加えて滑らかな生地にする。

6. バターを電子レンジで溶かし、ボウルに加える。

7. サラダ油を加え、しっかりと混ぜる。

8. 30分冷蔵庫で休まる。

9. フライパンにサラダ油をぬって、ペーパーで拭き取り、フライパンが熱くなったら生地をお玉(小さい方)に一杯分すくって流し込む。この時「ジュッ」という大きい音がする温度にしておく。(さらにバターの香りが欲しい場合は、フライパンにぬるサラダ油にバターも加えて焼くと良い)

10. 月面のような焼き色がついて、ふちの脂がプチプチして来たらひっくり返し、裏面もしっかり焼く。

11. もう一度ひっくり返して、4等分になるように折って、お皿に重ねる。

 

 

 

文/中川亜紀/日露文化オーガナイザーとして、ロシア料理の研究のほか、ロシア語通訳・ロシア語児童支援などの活動を行っている)

中川亜紀さんのHPはこちらから:http://www.aki-russia.jp/

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