日本・ロシアに縁をもつ「人」にスポットを当て、その「人」を紹介、そして「人」を通じて、ロシアの魅力や日本とロシアの関わりなどを、車でドライブするような冒険心を持って発信していく「日ロドライブ」。
第31回は、八王子にキャンパスがある「創価大学ロシアセンター」にお伺いしてきました。
創価大学ロシアセンターは、創価大学とロシアのルースキー・ミール基金(※1)の支援で2016年に設立された施設です。
ロシアセンターはロシア語の普及やロシア文化を広めることなどを目的としており、創価大学は日本の大学として唯一、同センターの所在する大学となります。
そんな創価大学ロシアセンターについて、センター長である浅山龍一・文学部長と江口満教授に概要や設立経緯、創価大学とロシアの交流の歴史などをお聞きしてきました。
(※1)ルースキー・ミール基金・・・ロシア語の普及と国内外のロシア語教育支援を目的として、ロシア大統領令によって2007年6月21日に設立された非営利団体。発起人はロシア外務省、教育科学省
創価大学ロシアセンターの歴史と活動
--今日はよろしくお願いします。まず初めに創価大学ロシアセンターの概要や設立の経緯についてお聞きできればと思います。
浅山龍一さん(以下、浅山):創価大学は、2015年にロシアのルースキー・ミール基金と協定を結びまして、ロシアセンターを設立することで合意しました。
ロシアセンターの設立は、日本では初めてのことです。
極東連邦大学函館分校にもロシアセンターはありますが、日本の大学としては創価大学だけです。
創価大学ロシアセンターは2016年にオープンしまして、今年で5年目になります。
創価大学ロシアセンターでは、ルースキー・ミール基金からの経済的な支援をいただきつつ、ロシア語の発展、ロシア文化の紹介など、ロシアとの交流に関わる様々な事業を行っています。
ロシアとの交流の背景としては、そもそも多くの日本人がロシアのことを理解していないという現状がありますし、また、当大学の創立者である池田大作先生がロシアとの交流をとても大事にしているという事情もあります。
1974年頃から、創立者が様々な面でロシアとの関係を築き上げてきたわけですが、ロシア側がその努力を評価してくれたことが、創価大学ロシアセンターの設立に繋がっています。
--創価大学のロシアとの交流の歴史は1970年代まで遡るんですね!
浅山:1975年に創立者がソ連を訪問していて、その際にモスクワ大学との学術的な交流協定を結んでいて、それが今日まで続いています。
先日、日露学長会議(※2)が開催されましたが、モスクワ大学のヴィクトル・サドーヴニチィ総長が講演のあいさつで、創価大学について東海大学と共に最も古いパートナーとして言及されました。
江口満さん(以下、江口):ソ連時代に日本の大学からソ連に留学できたのは、創価大学と東海大学だけだったので、それほど創価大学とロシアの交流の歴史は古いです。
そういった交流の歴史の長さもロシアからの評価に繋がっていると思います。
ロシア人の方は人間関係や友情をとても大事にしますよね。
ヴィクトル・サドーヴニチィ総長も、「創立者の池田先生とは長い間会ってないけれど、自分は古い友情を大事にしたいと思っている」とおっしゃっていて、1年半ごとに開催される日露学長会議でも、毎回その旨を話されます。
(※2)日露学長会議・・・2009年から日露の大学間の教育・研究交流の推進を目的に行われている。
--深い友情で結ばれていらっしゃるんですね!次に、創価大学ロシアセンターの活動について教えていただければと思います!
浅山:創価大学にはロシア研究会という研究会があって、毎年のようにスピーチコンテストを開催しています。
創立者杯などを用意して、長く続けてきているコンテストです。
2018年にはそれを応援する形で、当センターはロシア語フェスティバルを開催しました。
また毎年、ロシア関係の展示会などを行って、ロシアの紹介を行っています。
江口:ロシア語フェスティバルは一般開放されていたので、創価大学のOBやOG、保護者の方、ロシア人の方も見に来てくださいました。
ロシアのメディアが取材にもいらっしゃいました。
スピーチコンテストはロシア研究会の学生が主催して、運営してますが、2018年の開催の際は、ロシア側からユーリィ・ガガーリン像が贈呈されたので、大学として除幕式を行いました。
ガガーリン像は、今は大学の本部棟に置かれています。
除幕式には在日ロシア大使館のミハイル・ガルージン大使も出席されました。大使は創価大学に留学経験のある方なので、創価大学をご自身の第二の母校みたいに思ってくださっていて、よく来学してくださっています。
--創価大学ロシアセンターでは、ロシア関係の図書に関してもたくさん貯蔵されてらっしゃいますよね!
浅山:ロシアセンター設立の際に、ルースキー・ミール基金からロシア語図書を1000冊寄贈していただきました。
また、ソ連時代にモスクワ大学から寄贈された図書が創価大学の図書館には約3000冊あります。
江口:どちらの蔵書も少しずつ増えています。辞書をはじめとする勉強用の書籍はもちろん増えていますが、ロシア語を学んだ卒業生で、ロシアや旧ソ連地域で活躍しているような人たちが、ロシア語の本をたくさん持っているので、「本を寄贈したい」と言われることがあります。
そうして寄贈された本もセンターには置かれていますが、寄贈の希望者がとても多いので、現在は受け入れをストップしている状況です(笑)
創価大学ロシアセンターは創価大学とロシアの交流の象徴
--創価大学には合計で4000冊以上のロシア語書籍があるわけですね!ちなみに、世界各国のロシアセンターと比較して、創価大学ロシアセンターの特徴などはありますか?
浅山:創価大学の創立者である池田先生がロシアとの交流の道を切り拓いたこと、そして、その信頼関係をきっかけとして、創価大学とロシアとの交流が深まり、その交流の一端として実現したのが創価大学ロシアセンター。これが設立の流れです。
創価大学からではなく、ルースキー・ミール基金側からの働きかけで創価大学ロシアセンターは設立されました。
創立者がソ連を初めて訪問する際、日本国内でも様々な方面からの反対の声がありました。
そうしたソ連への反発も強かった時代に、創立者はソ連との未来的な関係の重要性を強調し、訪問を実現しました。
創立者のソ連訪問の影には、当時の東海大学の松前重義学長等から、創立者に対して、民間外交の必要性を訴える強い働きかけがあったといいます。
創立者はこれまでに計6回ロシアに訪問しています。
中ソ間が険悪な関係だった時期に、創立者は当時のロシアの首相・コスイギン氏と面談し、「ソ連は中国を攻めますか」と尋ねました。そして、コスイギン氏の「私たち(ソ連)は中国を攻撃するつもりも孤立させるつもりもありません」との返答を受け、コスイギン氏の了承のもと、それを中国に伝えて、二国の関係回復の土壌を作ったというエピソードもあります。
江口:通常、ロシアセンターの設立は大学側から働き掛けが行われるところ、創価大学ロシアセンターはその逆、という点をはじめ、他のロシアセンターとは設立までのストーリーがかなり異なっていると思っています。
また、実はそうしたロシアとの交流の歴史や創価大学ロシアセンター設立のストーリーが学生の間でも、先輩から後輩に代々引き継がれていて、
創価大学には、単に「ロシア語を勉強する」というだけでなく、「日ロ交流を自分が受け継いでいく」という思いがある学生が多いので、卒業後もロシアや旧ソ連地域との関わりのある仕事をしているOB、OGが意外と多いんです。
通訳や大学教員はもちろん、ロシアで起業している卒業生もいますよ。
これらのことから、創価大学ロシアセンターというのは、創価大学とロシアの様々な交流の歴史における一つの象徴と言えると思っています。
コロナ禍によってオンラインを活用した活動が増加
--創価大学とロシアの様々な交流における一つの結果が創価大学ロシアセンターなんですね!昨今、国際交流はコロナ禍で大変な状況ですが、創価大学ロシアセンターの活動にも変化はありましたか?
浅山:コロナ禍で人を集めてイベントを開催することができなくなったので、オンライン上でのイベント開催をはじめ、オンラインを活用した活動は増えましたね。
オンラインを活用した事業の一環で、動画作成なども行っているのですが、これはオンデマンドで観れるようにもしているので、逆に言えば、コロナ禍によって、世界中の人が観れるようなコンテンツが作れたことは不幸中の幸いかな、と思っています。
江口:動画は当センターのHPにもいくつか掲載しています。
コロナ禍になって、ロシアセンターへ来ることもままならなくなって、さてどのようにして活動しようかと思案した結果、やはりインターネットを使って活動していこう、ということになりましたね。
講演会などもオンラインで行うようになりましたし、動画ならどこでも誰でも観れますし。
ちなみに、コロナ禍に限らず、ロシア語を学ぶ学生を呼び込むのはとても大変なんですよ。
そのため、宣伝の意味もあって、まずは当センター及び卒業生を紹介する動画を作ろう、ということになりました。8分くらいの動画を作りましたね。
あとは2、3分の動画を、学生アルバイトが作ってくれました。創価大学ロシアセンターでは、学生アルバイトを採用してるんですよ。
そういう意味で、コロナ禍によって、かえって新しい活動分野が広がったな、という思いもあります。
コロナがなかったら、あまり活動も変わってなくて、イベントの開催ばかり考えていたと思います(笑)
浅山:イベントを開催しても、八王子まで来てもらうのは、なかなか遠いですからね、大変です(笑)
それが、オンラインになって、一挙に世界中の人に知ってもらえる状況になりましたからね。
江口:今年はオンラインで、ミハイル・ロモノーソフ(※3)の展示会(※4)を開催しようと思っています。
今後もオンラインのイベントは充実させていきたいですね。
(※3)ミハイル・ロモノーソフ・・・18世紀のロシアの博学者、科学者、作家。金星の大気の発見をはじめ、様々な分野で数々の業績を残している人物
(※4)「創価大学とモスクワ大学がロモノーソフ生誕310周年展示記念オンライン講演会を開催
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https://russkiymir.ru/news/295930/
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(記事内容)
12月3日、偉大な学者ロモノーソフ生誕310周年展示記念オンライン講演会が創価大学(東京)とモスクワ大学の共催で開催された。モスクワ大学のマゼイ副総長と創価大学小山内副学長が挨拶、モスクワ大学歴史学部のカリーニン研究員が講演を行い、ロモノーソフの人生と学術、教育、芸術における功績を語った。
これは、ロモノーソフ生誕310周年記念展示のオープニング企画として行われたものである。
さらに12月7-21日には宇宙飛行60周年記念ガガーリン展が創価大学で行われた。これは駐日ロシア大使館とロシア連邦文化科学協力庁との共催。
展示会には次のような感想が寄せられた。
「ガガーリンの、困難から遠ざかるより思い切ってその困難に立ち向かった方が良いだろうとの言葉を胸に刻み、困難を楽しみながら成長していける自分なりたいと思うことができました!」
「ガガーリンの笑顔がたくさん展示されており、とても心が温たまりました。これからもガガーリン展2を期待しています」
創価大学ロシアセンターが発信していく「ロシアの魅力」
--今後の話も出ましたので、ぜひお聞きしたいのですが、創価大学ロシアセンターとして、今後発信していきたいロシアの魅力などはありますか?
浅山:私は文学部の所属ですから、ロシア文学を含めロシア文化の良さなどを、ロシアの記念日などの節目に合わせて発信していくことができればと思いますね。
私自身、プーシキン、ドストエフスキー、トルストイも大好きです。
そういったロシアの文豪たちを紹介することはもちろん、彼らが育ってきたロシアの文化も併せて紹介していければと思います。
ロシア文学とロシア文化を結びつけながら紹介していくとともに、ロシア語の普及にも力を入れたいですね。
江口:ロシアは隣国にも関わらず、日本では本当に情報量が少ないですよね。
ロシアには芸術も含め、優れたものがたくさんあるにも関わらずです。
そういったロシアの宝を少しでも多く日本に紹介していきたいと思っています。
例えば、今度、展示会の開催を企画しているロモノーソフなども、「ロシアのレオナルド・ダ・ヴィンチ」と呼ばれて多くの分野で業績を残した人物ですが、日本ではほとんど知られてないですよね。
日本語で「ロモノーソフ」とネット検索すると、同人とは無関係の陶器についての検索結果がほとんどですから。
そうした「あまり知られていないロシアを紹介すること」に加えて、ロシア人そのものの魅力を日本人にもっと紹介していきたいとも思っています。
ロシア人には、なんとも言えない魅力がありますよね。とても人間臭いところがあるというか。
なので、そういう「生」のロシア人に間接的でもいいので、少しでも触れることができるような機会を作っていきたいと思いますね。
創価大学ロシアセンターの今後の活動及び展望
--ありがとうございます!最後に創価大学ロシアセンターの今後の活動や展望について、PRも含めお聞かせいただければと思います!
浅山:創価大学には3つの指針があります。「人間教育の最高学府たれ」、「新しき大文化建設の揺籃たれ」、「人類の平和を守るフォートレス(要塞)たれ」です。
この指針に沿う意味でも、ロシアとの交流は重要ですし、創価大学には約45年以上のロシアとの交流実績があります。
創価大学ロシアセンターは日本の大学で唯一のロシアセンターでもありますし、今後とも、「ロシアの良さ」というものを発信していきたいですね。
創価大学が、日本とロシアの関係性の中で重要な役割を果たしているということを日本全体にアピールしていければと思います。
江口:創価大学ロシアセンターはオープンしてからまだ5年で、試行錯誤しながら取り組みを重ねてきました。
そのため、活動にはまだまだ未知の可能性がたくさんあると思っていて、これからそれらを模索していければと考えています。
創立者が初めてソ連を訪問する際、当時のソ連=怖い国という認識から、周囲から反対の声が多かった旨は先ほど話に出ましたが、創立者はこれに対して、「ソ連が怖いのではない。ソ連を知らないことが怖いのだ」とおっしゃいました。
知らない人に対しては信頼感ではなく、恐怖感や嫌悪感を抱きがちですよね。
電車で座っている際に、隣の人に寄りかかられるにしても、それが親しい友人の場合全くの他人の場合とでは、抱く感情も大違いだと思います。
これは国同士の付き合い方にも言えることだと思います。
ましてやロシアは隣国ですし、この位置関係は動かせないわけですから、仲良くする以外に道はないですよね。
先ほど、浅山センター長もおっしゃった創価大学の指針の一つに「人類の平和を守るフォートレス(要塞)たれ」というものがありますが、創価大学の学生たちの中にも「平和に寄与できる人間になりたい」、「人の役に立てる人間になりたい」と思う学生は多いです。
そして、その思いを叶えるために具体的に何をするべきか、という問いに対して、私たちはいつも「相手を知ることが平和への一歩だ」と伝えるようにしています。
相手を知ることから信頼関係は生まれるので、そういう意味でも、創価大学ロシアセンターでは、さらに情報発信をして、日本とロシアを繋げる存在になることができればと思っています。
創価大学ロシアセンターは非常勤職員と学生アルバイトが交互に常駐していて、イベントのお知らせなどもHP、FacebookやTwitterで発信しています。
開館時間内は自由に訪問していただいて、勉強することもできますし、職員らはみんなロシア語ができるので、ロシア語を教えてもらうこともできますよ。
夏休みのモチベーション維持のために、毎日来てロシア語の勉強をした学生もいるくらいです。
そういう意味でも、現在、創価大学ロシアセンターは学内におけるロシア語コミュニティの拠点のような存在になっています。
開館当初は、開館時間を設けることができず、イベントや授業の際の利用のみだったので、その頃に比べると大きく進歩しましたね。
--これからの創価大学ロシアセンターの活動も楽しみです!今日は本当にありがとうございました!創価大学とロシアの交流も含め、貴重なお話をたくさんお聞きできて、とても嬉しかったです!
創価大学ロシアセンターに関する情報はこちらから
↓
HP:https://www.soka.ac.jp/research/russia/
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCpHF6fMbiE-rppSA1UPNXHQ
Twitter:https://twitter.com/Russkiymirjap
(インタビュアー/山地ひであき)
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