日本・ロシアに縁をもつ「人」にスポットを当て、その「人」を紹介、そして「人」を通じて、ロシアの魅力や日本とロシアの関わりなどを、車でドライブするような冒険心を持って発信していく「日ロドライブ」。
第30回のゲストは、日本が世界に誇るアニメ産業を題材に、日本・ロシア相互の文化理解を主眼とするイベント「J-Anime Meeting in Russia」に携わるインターン・岡本碧さんです。
現在、岡本さんは神戸市立外国語大学ロシア語学科に通いながら、日露地域・姉妹都市交流年認定事業であるJ-Anime Meeting in Russiaに携わる形でインターンをされています。
そんな岡本さんからJ-Anime Meeting in Russiaの概要や魅力、そして他の日ロ交流イベントと一味違うところまで、たっぷりお聞きしてきました。
産官学協働プロジェクト・J-Anime Meeting in Russiaとは
--今日はよろしくお願いします。まずは日本のアニメをロシアに届けるというコンセプトのイベント・J-Anime Meeting in Russiaの概要などについてお聞きできればと思います!
よろしくお願いします。
J-Anime Meeting in Russiaは、日本映像翻訳アカデミー(JVTA)が主催、東京外国語大学が共催の今年で2回目のイベントです。
主催、共催のほか、協力校として神戸市立外国語大学やモスクワ市立大学などのほか、東京外国語大学の協定校など数多くの大学が名を連ねています。
J-Anime Meeting in Russiaは、そうした数多くの協力校から参加する学生インターンで構成・開催されます。
昨年は80人弱、今年もそれに相当する程度のインターンが集まりました。
一般的なインターンと比べて期間が長くて、半年間くらいあるんですよ。
元々は、訪露を想定したオフラインでの開催を予定していたんですが、コロナ禍の影響で昨年の第1回開催同様、今年もオンラインで行うことになりました。
--インターンにはロシア好きが高じて参加した人もいれば、アニメが好きで参加した人もいそうですよね。
そうですね。
翻訳に携わるインターンは、日本語のできるロシア人であったり、ロシア語が堪能な日本人など、語学を活かしたい人が多いんですが、PRやセールスに携わるインターンはロシアとは関係なく、セールスを学びたい、グローバルなインターンを体験したい、といった人も多いです。
J-Anime Meeting in Russiaのインターンに参加するきっかけは人それぞれですね。
--多様な人材が携わっていることはイベントとしての魅力の一つに繋がりますね!
イベント自体、各所からご支持を頂いていて、元々は、産学協働(JVTAと東京外国語大学)のプロジェクトだったのが、外務省の日露地域・姉妹都市交流年事業として認定を受けたり、在ロシア日本大使館から支持を頂いたりして、産官学協働プロジェクトになっていきました。
--産学で始まったプロジェクトが官を巻き込む形で大きくなっていったんですね。すごいです!イベント自体は学生(インターン)が主体なんですか?
そうですね、イベントは学生が主体です。
運営、制作、セールス、PR、翻訳を含め、全部学生がやります。
ただ、活動していく中で隘路にはまってしまうこともあるので、その場合はJVTAの方にサポートしていただいています。
J-Anime Meeting in Russiaを開催する意義
--学生たちのスキルがかなり向上しそうですね…!イベント内容も単にロシアに向けて日本のアニメを上映するだけではないんですよね?
J-Anime Meeting in Russiaの内容は、日本のアニメをロシア語字幕を付けて、ロシアに向けて上映すること、また、監督や専門家をはじめとするゲストの方をお招きして、トークショーを開催したり、オンライン上ではありますが、来場者の方同士が交流できる場を設けるなどもしています。
期間は2日間で、今年の開催日は11月27日(土)、28日(日)です。
ちなみに、そんなJ-Anime Meeting in Russiaの第一義的な目的ですが、それは「ロシアにおける日本のアニメファンを増やして、そこから日ロの市民レベルでの交流を促進すること」です。
また、これに付随する目的が3つあって、
一つは「日本のアニメの文化的価値の訴求」。
二つ目は、「市民レベルの文化交流」。
最後が、学生インターンやプロジェクト全体の目的でもあるんですが、「高度な日ロビジネス人材の育成」となっています。
--学生インターンが主体ということもあって、人材育成も目的の一つなんですね!趣旨も含めて、素晴らしいプロジェクトだと思うんですが、元々はどういうきっかけで始まったんですか?
このJ-Anime Meeting in Russiaの構想が立ち上がったのは2019年で、JVTAが学生インターンの採用を検討し始めたことが最初のきっかけです。
JVTAは、高度なグローバル人材の育成を掲げて、学生インターンを探していたんですが、ちょうど同時期に東京外国語大学ロシア学科の教授陣も日ロのビジネス人材育成に適したインターンの受け入れ先企業を探していて、両者がマッチングしたんです。
JVTAは2017年にモスクワオフィスを立ち上げ、元々、日ロ間での事業拡大に可能性を感じていたという事情もありました。
インターンの採用が始まった当初は、J-Anime Meeting in Russiaというイベントの企画はなく、JVTAの翻訳受発注部門(MTC)の通常業務の手伝いがインターンの主な仕事でした。
そうしたところ、少しずつ受け入れが進む中でインターンの人数が増えてきたことから、2019年6月ころに、JVTA側からJ-Anime Meeting in Russiaの企画が提案されることになりました。
なぜ、J-Anime Meeting in Russiaかというと、JVTAの目指すインターン事業には、「主に文系の学生を対象にグローバルなビジネス体験をさせたい」、「プロジェクト型の事業創造を伴う中長期的な就業体験の場を提供したい」という趣旨があったことがその理由です。
--実際に企業や団体のスポンサーが付いて、リアルなビジネス体験を学生主体ですることができるプロジェクトとして、J-Anime Meeting in Russiaはピッタリですね。
そうなんです。
私自身、インターンに参加した際、JVTAの担当の方から「期間が1日や1週間で、企業説明して終わり、何を得たかわからないようなインターンもあると思うけど、JVTAはそんなインターンはしたくない。やるならゼロから学生たちが作り上げていく中で、きちんと業務というものを体験してもらいたい。そのためのJ-Anime Meeting in Russiaだ」と言われました。
J-Anime Meeting in Russiaでは、日ロの学生が一緒に作業するということで異文化理解に繋がりますし、メディアリテラシーやマーケティング力、交渉力、柔軟性なども求められるので、インターン先として非常にいいんじゃないか、と思ったことを覚えています。
--プロジェクトを通して本当にたくさんのスキルが身に付きそうです!2019年にプロジェクトが始動したということは、1年以上準備期間があったんですね!
そうですね。
2019年6月にJVTAから東京外国語大学に企画書が提出されて、同年8月に学生インターン募集開始、第1回開催に向けてインターンが動き始めたのが11月です
当初は、各種映画祭なども開催されているモスクワのドム・キノという場所で、2020年5月に上映会を行う予定で、ロシアへの留学予定者などを集めていたんですが、コロナ禍により11月に延期することになりました。
その頃は、まだオンラインという選択肢は考えていなかったんですが、5〜7月の状況を見る限り、状況の改善が一筋縄ではいかないだろうということが予想できたので、8月に急遽オンラインを視野に入れて、上映プラットフォームの準備を始めたんです。
--昨年は11月14、15日に開催してらっしゃるので、オンラインへの切り替えはあまり時間がない中での決断でもあったんですね。
インターンの事業は、2020年8月までは、主にモスクワ市立大学と東京外国語大学、JVTAの3者で行われていましたが、J-Anime Meeting in Russiaのプロジェクトが大きくなってきて、人材が不足してきたことから、協力校として神戸市外国語大学や大阪大学、筑波大学、近畿大学、上智大学などが参画することになり、それぞれの大学からインターンが集まるようになりました。
そうして、11月の第1回開催に至った次第です。
上映作品の選定基準
--ありがとうございます。ここからJ-Anime Meeting in Russiaの具体的なコンテンツのお話をお聞きしたいと思うんですが、J-Anime Meeting in Russiaの核とも言える上映する日本のアニメはどのような基準で選ばれていますか?
今年の第2回開催での上映作品に関しては、まずは、今年5月ころに学生たちでアイディアを出し合いました。
作品選びのアイディアを出し合う上では、いくつか選定の基準があって、一つ目は、J-Anime Meeting in Russiaの目的にも関連して、日本の文化が伝わる、日本のアニメ文化をより発展させることができる作品を選ぶ、ということです。
簡単に言えば、「自分たちが観せたい」と思うような作品を選ぶということですね(笑)
新作旧作問わず選定します。
提案する作品に関しては、「自分がなぜその作品を選んだか」、「どういう点でこのアニメがいいと思うか」などをスプレッドシート上にまとめて管理します。
アイディアを出したり、話し合いを行うのは、主にインターンですが、ミーティングにはJVTAの方も参加されるため、時折アドバイスをいただけます。
二つ目の選定基準は、ロシアで公式に上映されていない作品を選ぶ、ということです。
正直、ロシアには日本のアニメのほとんどの作品の海賊版がありますよね。
海賊版には吹替もあれば字幕のある作品もありますが、ほとんどがファンサブなので、大体のあらすじが分かるだけで、セリフなどの細かい点に関して、きちんとしたニュアンスが伝わってないことがよくあります。
そのため、あえて公式に上映されておらず、海賊版しか流通していないような作品を選定しました。
プロの指導の下、セリフだけでなく、作品の文化背景やコンテクストをしっかり理解し、日本人とロシア人が協力して、より作品の魅力を伝える翻訳をしていきます。
これによって正しいニュアンスを伝えることができますし、質のいい翻訳が作品の価値も向上させていくわけです。
--日本のアニメと一口に言っても、かなりの数がありますもんね。選定が大変そうです。選定にあたっては、テーマなども決めてらっしゃるんですよね?
はい、昨年は、「スポーツ」や「歴史」といったように、アカデミックな感じでテーマを決めて、それに沿った作品選びがされたんですが、今年は「若者の成長と希望と葛藤と何かを乗り越えるための力(レジリエンス)」というテーマをもとに作品選びを行いました。
昨今、コロナ禍によってあらゆる場所で分断や孤立が進み、将来に希望を持てない、自分の未来を描けない、という若者が増えています。
そうした中、私たちが選んだアニメ作品で、不安を感じている若者たちを元気づけることができればいいね、そうした人たちにとっての何かの原動力になればいいね、というように話し合いながら、このテーマを決めました。
今年は、長編アニメ『君の膵臓をたべたい』と『AKIRA』の2作品の上映を予定していて、どちらも「何かを乗り越えること」や「若者の成長」が全体を通して、ストーリーに盛り込まれている作品です。
作品を観た人に、ただ日本文化を伝えるだけでなく、元気をあげられることを意識しながら、作品を選びました。
国際交流イベントとしてのJ-Anime Meeting in Russiaの特徴
--ありがとうございます!少し質問の角度が変わるんですが、他の交流イベントと比べて、J-Anime Meeting in Russiaは「ここが一味違う」といった特徴などはありますか?
学生が主体となって、日本の文化を発信するので、「ザ・文化交流」的な文化交流と違い、もう少しカジュアルな、「今の日本の生の情報」を届けることがJ-Anime Meeting in Russiaの特徴だと思っています。
また、当日の来場者には、ある程度日本に関する知識を持った人も多いんです。
ワークショップやトークショーの質疑応答など参加者が交流し、できるインタラクティブなイベントとして楽しんでもらえたらと考えています。
コミュニケーションの中で、新たな発見もあったりするので、そんなところも他の文化交流とは一味違うところだと思いますね。
アニメ作品を観ることは、ロシアからじゃないとできないんですが、トークショーやワークショップには日本はもとより世界中からも参加することができます。
昨年のトークショーには、『この世界の片隅に」の片渕須直監督や声優の上坂すみれさん、手塚るみ子さんが登壇されたほか、映像翻訳の現場を体験できるワークショップなども開催されました。
岡本さんがJ-Anime Meeting in Russiaに携わるようになったきっかけ
--いいですね〜!ゲストも豪華ですし、改めてコンテンツ盛りだくさんのイベントですね!ちなみに、岡本さんがこのJ-Anime Meeting in Russiaのインターンとして活動しようと思ったのは、何がきっかけだったんですか?
私に関して言えば、インターンというと「短期間で終わる職業体験」みたいなイメージが強くて、元々はあまり興味がなかったんです。
ただ、それこそJ-Anime Meeting in Russiaのインターンの増員が始まった2020年8月ころに、大学を通じて、案内のメールが送られてきたんですが、「長期間」で「映像翻訳もできる」という旨が書いてあって。
私の大学では映像翻訳の授業が少なく、あまり深く学べなかったことに加え、昨今の映像コンテンツの充実を見て、需要がありそうだな、と考えていたことから、業界について知っといた方がいいと思ったんです。
最初は興味本位ですね(笑)
コロナ禍でロシア留学から帰ってきて、休学しながら受けていたロシアの大学のオンライン授業がちょうど終わった時期と重なったこともタイミングがよかったですね。
当時が自分史上、一番ロシア語能力が高い時期だという自負もあって、映像翻訳でその能力を試したいという思いもありました(笑)
活動を通じて感じた「ロシアの魅力」
--色んな要素が噛み合って、タイミングがよかったわけですね!次に、岡本さんがJ-Anime Meeting in Russiaの活動を通じて感じた「ロシアの魅力」についてもお聞きしてもいいですか?
前々から感じていた魅力を再確認できた形なんですが、インターンやイベントに参加してくださる方を含めてロシア人の方々が、みなさん日本という国の文化に対して、真剣に興味を持ってくれる姿勢、もっと言えば、その姿勢から感じられるロシア人の心の暖かさ、優しさに魅力を感じています。
日本の文化に対して、「ここが好き」や「こういうところに興味がある」などといった単純な感想に止まらず、とても具体的に好きな理由や関心のある理由を説明してくれるんです。
良いところも悪いところも含めて、腹を割って、率直な意見をもらえるんですよね。
他国の文化に対してとても真剣に向き合ってくれる、そんな姿勢にロシア人の心の暖かさを感じます。
そうしたロシア人の心の暖かさは、ロシア留学時代からも感じていて、当時、街頭で全く知らない年配の女性に「そんな薄着だと風邪をひくから、もっと厚着したほうがいいよ」と声をかけてもらったりもしました(笑)
知らない人や知らない文化でも、ちゃんと向き合って、受け入れてくれる。
そんな優しさや暖かさがロシア人にはあると思います。
--ですよね〜!日ロドライブの活動を通じても、そうしたロシアの暖かさを感じることは多いです。先ほどプロジェクトとしての目標はお聞きしたんですが、J-Anime Meeting in Russiaを通じて、岡本さんが個人的に達成したい目標などはありますか?
私個人としては、自分の視野を広げたいという、ほんとにざっくりしたことを目的に、プロジェクトに関わり始めたので、まさか今年も携わっているとは思ってなかったというのが正直なところです(笑)
最初は、少しだけ翻訳をさせてもらっていたんですが、その後ご縁があって他の業務も任せていただけることになっていって。
実際、軽い気持ちでインターンに参加したのが、自分の今に繋がっているというか。
映像翻訳の話もJ-Anime Meeting in Russiaでインターンをしなければ知らなかったでしょうし、ロシア人とこんなに交流する機会もなく、それこそ異文化理解などをする機会ももっと少なかったと思うので、このインターンを通して、自分の視野や将来の可能性が広がっていくなど、自分の経験としてプラスになっています。
なので、今後もJ-Anime Meeting in Russiaを通じて、もっともっとそうした視野や可能性を広げていけたらと思っています。
日本人とロシア人が本当の意味で交流ができるイベント
--視野や可能性を広げることができるインターン!最高ですね!最後の質問ですが、読者の方にJ-Anime Meeting in Russiaを自由にPRしていただけると嬉しいです!
先ほど、言った部分と重複するところもあると思うんですが、J-Anime Meeting in Russiaは数ある交流イベントの中でも、日本人とロシア人が本当の意味で交流ができるようになっているイベントになっていると思います。
もちろん、メインの目的は「ロシアの方に日本のアニメ文化をもっと知ってもらうこと」ですが、それだけでなく、市民レベルの交流ができるイベントでもあるので。
また、日本とロシアの学生が一緒になって作り上げているイベントなので、きっとどちらの国の人にも満足してもらえる内容になっていると思います。
日ロの関係をもっとよくしたいといった思いをはじめ、色々な思いを持った若者のパワー溢れるイベントなので、ある種、元気が貰えるお祭りと言ってもいいかと(笑)
開催日は11月27日、28日ですが、開催に向けて、SNSでの情報発信なども行っているので、今からロシアのことも日本のことも深く知っていける形になっていて、開催日までにテンションを上げていけるお祭りです。絶対楽しいイベントになると思います(笑)!
--開催日が待ち遠しいですね!絶対いいイベントになると思います!今日はありがとうございました!
J-Anime Meeting in Russiaに関する情報はこちらから
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J-Anime Meeting in Russiaのクラウドファンディングサイト
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日露地域・姉妹都市交流年認定事業について
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HP:https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/jrea/page6_000353.html#section2
(インタビュアー/山地ひであき)
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