2019.11.30

岡山県内で大学院生をしながら、ロシアの通信社・「スプートニク日本」で働く、Jenia Petrusevaさんインタビュー
「日本のみなさんにもっとロシアのことを知ってもらって、興味を持って欲しい」

Today's Guest

Jenia Petrusevaさん

モスクワの大学を卒業後、岡山大学に留学。現在は同大大学院でロシアと日本の歴史について研究しながら、ロシア国営通信社・「スプートニク日本」で勤務する。「スプートニク日本」では主に記事の編集作業に携わっている。

(写真中央:Jenia Ptrusevaさん)

日本・ロシアに縁をもつ「人」にスポットを当て、その「人」を紹介、そして「人」を通じて、ロシアの魅力や日本とロシアの関わりなどを、車でドライブするような冒険心を持って発信していく「日ロドライブ」

第7回は岡山大学の大学院生でありながら、ロシアの通信社・「スプートニク日本」で働いているJenia Petrusevaさんにお話を伺ってきました。

Jeniaさんは、岡山大学の大学院で日本とロシアの歴史について研究されているほか、ロシアの国営通信社である「スプートニク日本」で、記事の編集作業などにも携われています。
そんな多方面で活躍されているJeniaさんに現在の大学生活の話やスプートニクについてなど、研究者ならではのお話やロシアの魅力に繋がるようなお話をたくさんお伺いしてきました。

今回のインタビューはJeniaさんが普段通っている岡山大学のキャンパスでインタビューを行わせていただき、Jeniaさんが日ロドライブ編集部のメンバーと年齢が近いことやその明るい人柄もあって、終始笑いの絶えない、楽しいインタビューになりました。

(写真手前:「日ロドライブ」インタビュアー・大森達郎。岡山大学にて)



--今日はよろしくお願いします!大学院に通いながら、通信社で働くってすごいですよね!日本にはじめて来たのはいつだったんですか?

私が初めて日本に来たのは17歳の時です。その頃は東京に住んでいて、日本語学校に通って、日本語の勉強をしてたんですよ。
1年間東京で日本語を学んだ後は、ロシアに戻って、モスクワの大学で日本史を勉強しました。
実は、日本に興味を持つきっかけになったのは、LUNA SEAのような、日本のビジュアル系バンドの音楽が好きだったことなんです。
面白いことに、日本に来てから、すっかり興味がなくなったんですけどね(笑)


--Jeniaさんがビジュアル系バンドが好きだったのは意外ですね(笑)18歳でモスクワの大学に戻られてから日本に来るまでの生活などについてお伺してもいいですか?

モスクワの大学に通っているときに、色々なことに挑戦してみたいなーと思うようになって、1年間のギャップイヤーを取って、2ヶ月の間、インドに住みながらボランティアで英語の講師をしたり、旅行をしたりもしてました。
大学を卒業してからは、通っていたモスクワの大学と同じ系列の大学院に通うことになって。
その大学院が岡山大学と友好的な関係で、交流プログラムがあり、そのプログラムに誘われたことが、岡山大学に留学することになったきっかけになったんですよ。
岡山大学で交換留学生として1年間、研究生として1年間、計2年間勉強した後は、そのまま岡山大学の大学院に進学して、今に至ってます。
元々、通っていたロシアの大学院は岡山大学の大学院に入学することをきっかけに辞めちゃったんですけどね(笑)
ロシアの大学院の方は、後は卒業するだけっていうくらい単位は足りてたんですけど、日本とロシアでは学期が違うこともあって、バタバタしてしまい、卒業のためにロシアに帰ることができなくて。
けど、後悔はしてません、今の岡山大学での研究は、恩師にも恵まれて、とっても充実してますしね!


--充実した大学生活なんですね!岡山大学での今の研究についても、ぜひお聞きしたいです!

ロシアの大学院のときには日本史を中心に勉強していたのは言ったと思うんですが、岡山大学に来てからはロシア史やヨーロッパ史についても本格的に学び始めたんですよ。
日本とロシアの歴史を学んでいくと、色々と共通する点もあることがわかってきたんですよね。
そこで、色々と考えて、先生とも相談した結果、モスクワの大学時代に明治時代の日本について重点的に学んでいたこともあって、明治時代の日本と、その当時のロシアの社会・政治制度の比較を研究のテーマにすることに決めました。
これは岡山大学の大学院に進学してからも変わっていない研究テーマで、目下研究中です。
まだまだ研究の途中なんですけどね(笑)


--Jeniaさんは、17歳から日本に関わってきてると思うんですけど、日本の魅力とかって感じることありますか?

他の外国人のみなさんも言うと思うんですけど、安全であること、便利であること、住みやすいことですかね〜(笑)
日本での生活にすごく慣れてしまったこともあって、改めて魅力を聞かれるれると回答に困るところもありますね(笑)
岡山に住んでいて思うんですけど、日本って、すごく住み心地がいいですよね。私は自然が好きなんですが、日本には自然豊かな場所がたくさんありますし、その点は以前住んでいたロシアの町よりも好きかもしれません(笑)


--日本に住まれていて、日本とロシアここが違うなーっていうような文化的な違いを感じることとかありますか??

メンテタリティや考え方が、日本人とロシア人は違うかなと私は思いますね。
例えば、最近聞いた話だと、会社員をしている人の中でも、会社の方針で、労働時間が異常に長くて、残業などをたくさんしている人を日本では「社畜」と呼んだりしているそうですね。
ロシアではそもそも、そこまで会社の方針に縛られて労働を行うことがないように感じますし、もっと自由に仕事をしているように思います。
ロシア人は良い意味でも悪い意味でも「自由」を謳歌していて、賑やかな人が多い気がしますね!


--ほかにも日本の大学とロシアの大学について、Jeniaさんが個人的に感じる違いのようなものってありますか?

ロシアの大学の方が日本の大学よりも厳しいルールが多い印象です(笑)
大学によって多少の違いはありますけど、ロシアの大学では基本的に学部ごとにカリキュラムがはじめから決まっていて、自分で履修する科目を選んだりはできませんし、毎日学校に行かないといけませんしね。
論文の添削も日本の大学より厳しいように感じます(笑)
その点、日本の大学は好きなことを勉強できて、好きな時に学校にいけばいいので、まさに自由だと感じますね。
サークルや部活動なんかは日本の大学の方が活発だと思います。


--Jeniaさんは大学院に通いながら、ロシアのメディアである「スプートニク日本」でも働かれていますが、ここからは「スプートニク日本」についても教えてください!

間違ったことを言わないように気をつけますね(笑)
スプートニクは、ロシアの国営かつ最大のメディアホールディング「ロシア・セヴォードニャ」の一員です。
「ロシア・セヴォードニャ」の中には、ロシア語でニュースを配信している通信社「リア・ノーボスチ」があって、日本では「ロシア通信」と呼ばれています。これは日本でいうところの共同通信に近いですかね。
「ロシア・セヴォードニャ」の株は大部分を国が所有していて、トップ人事は大統領が任命する形になっています。


--スプートニクは国営の通信社なんですね!?スケールがすごい(笑)!

そうなんです。国営の通信社なので、よく報道の中立性が確保されてるのか聞かれたりするんですよ(笑)
これに関しては、ロシア憲法で「国家はマスメディア政策に干渉する権利をもたない」とされていて、個々のメディアの編集方針は、普通にそれぞれのメディアの編集長が決定してますし、
例えば、国営の通信社ということで、ロシア大統領の公的なスピーチや5月9日の対独勝利記念パレードなどは、報道する義務があるものの、さっき言ったように編集部は、これらのテーマを中立的に報道する権利があるので、プロパガンダとは言えないですよね(笑)
そもそも報道の義務があるトピックしについては、現代のロシアを理解するために必要な、重要なプロセスや現象を反映しているものです。
そして、スプートニクには、ロシアの肯定的な姿だけを報道しなければならないという義務はなく、ロシアで起こっている様々な問題を無視することはありませんし、時にはロシアで起こっていることに批判的な意見を持つ専門家の意見を掲載することもできます。
スプートニクの使命は、読者の方が、ある事象やニュースに関して、自分の意見を形成する手助けになるよう、できるだけ多くの、多様な視点を提供することだと思ってます。


--なるほど〜、とても興味深いです。そんな多様な視点を提供しているスプートニクでは主にどういったニュースが報道されているんですか?

スプートニクには世界に約30の支局があって、私が勤めているのは日本支局になります。
支局によって、報道する内容は異なるんですが、一貫しているのはロシアの立場から、政治的なものや経済的なものも含め、様々なニュースを発信するということですね。
私の勤務する「スプートニク日本」では、日本人の方を読者として想定していることもあって、ロシアのニュースや日ロ関係に関するニュースを報道することが多いです。
日本人の方からするとロシアは怖い国といったイメージがあると思うんですが、私はこの仕事を通じて、そうしたイメージを少しでも払拭できたらいいなと思ってます。


--ロシアの目線から全世界のニュースを伝えるメディアなんですね!目線が違う立場からニュースを伝えることってすごく大事ですよね。スプートニク日本では他のメディアとは違うユニークなニュースが多いように感じているんですが、これには理由があるんでしょうか?

スプートニクは、ロシア最大ののメディアホールディングである「ロシア・セヴォードニャ」に属しているので、このホールディングを通じて、スプートニクは様々な情報源を持っているんですよ。
世界中にプレスセンターと支局を持っていて、世界のほとんど全ての主要な都市において、24時間体制で情報を収集していますし、「ロシア・セヴォードニャ」は国内外の主要なメディアと、ニュースの交換や使用などに関して、様々な協定や契約を結んでいます。
これらのおかげで、「ロシア・セヴォードニャ」は他の大手メディアと同様、まだニュースや記事という一次情報を得ることができていて、スプートニクでも常に、現在どこで何が起きているのか、モニタリングを行なっていますよ。


--世界中にネットワークがあるんですね〜。Jeniaさんは「スプートニク日本」で、どういった仕事をされてるんですか?

私は主にニュース記事の編集を担当しています。
編集について、もう少し具体的に言うと、例え話にはなるんですが、どこかで事件が起きたという情報が「スプートニク日本」に入ったとします。
こうした情報をロシア語から日本語に翻訳して、記事のテンプレートを作成するというのが、 私の仕事です。
最初の方は、私自身編集業務については初心者だったこともあって、どのような情報が記事にできるか分からず、編集部からダメ出しされることもあったんですが、最近では、どの情報が記事にできそうか、判断できるようになりました。


--なるほど〜。難しそうですね。ちなみにJeniaさんが「スプートニク日本」で働こうと思ったきっかけはなんだったんでしょうか?

「スプートニク日本」で働き始めてから、今年で2年半くらいになるんですが、働くきっかけになったのは友人から紹介です。
モスクワの大学時代の友人なんですが、卒業後、スプートニクに就職したんです。
その友人に、日本語を使ってできる、いい仕事がないかどうか聞いたところ、「スプートニク日本」の仕事を紹介してもらい、こうして働くことになって。
私の場合はすごくあっさりした経緯かもしれませんね(笑)



--スプートニクで働いている方たちは、どんな方たちなんですか?どうすれば就職できるんでしょうか?

「ロシア・セヴォードニャ」全体では約2400人が働いていますが、「スプートニク日本」に限れば、正社員と非正規社員を合わせて、今のところは20人くらいですかね〜。
25歳から35歳までの若い人が多いんですが、もちろん60歳を超えるようなベテランの方もいますよ。
ロシア人と日本人の比率はほぼバランスが取れているんですが、ロシア人の方が若干多いですかね。
社員はみんな、日本語とロシア語を話すことができます。
日本人の方のほとんどはニュース記事の翻訳者として働いていますが、中にはライターとして、記事を書いている日本人の方もいます。
スプートニクで働くにあたっては、大学を卒業していることは必須なんですが、特段、海外での教育や学位といったものは必須条件ではありません。
けれど、有利にはなるかもしれませんね。
「スプートニク日本」にとって大事なのは、自由にロシア語と日本語を使いこなせることで、完全にネイティブ並みとはいかなくても、最低でも、しっかりと両方の言語を使うことができなければなりません。
ニュースや記事がどうやって作られているのかという知識、そして国際事情や地政学などの状況について理解し、問題を見極める能力を持つことが必須ですね。


--「スプートニク日本」で働く上での今後の目標や日本の読者に向けて記事を書く上でJeniaさんが気をつけていることとかはありますか?

そうですね、「スプートニク日本」で働くというのは、全世界の情報がたくさん入ってくることでもあるので、はじめのうちは整理がすごく大変でしたが、最近はそれにも慣れてきたので、もっと日本語の能力を上達させて、たくさんの人に良いニュースを届けていきたいと考えています。
記事を書く上で1番気をつけていることは、中立性の確保ですね。
誰かを批判したり持ち上げたりする記事を書くことが目的ではなく、事実を伝えることが目的なので、事実をありのまま伝えることを心がけながら、記事の内容が主観的にならないように注意してますね。
あとは情報を入手してから、記事にするまでの迅速性や信頼のおける情報かどうかといった部分にも気をつけてます。


--「スプートニク日本」で働いていて、どんなところにやりがいを感じますか?

うまく言えなくて、申し訳ないんですが、やっぱり、ロシアの立場から見た情報を伝えるメディアというのが、日本では他にないこともあって、なくてはならない存在であるというところにやりがいを感じていますね。
日本のニュースはアメリカやヨーロッパのメディアのニュースを翻訳して発信しているものも多いですし、違った視点を持つという意味でも、これは誰かがやらないといけないことだと思っています。
私自身日本に住んでいることもあって、日本のみなさんにもっとロシアのことを知ってもらって、興味を持って欲しいなと思いますね。


--ぜひ最後に、Jeniaさんの今後の目標について教えてください!

そうですね〜。
今のところ、大学院の修士課程が終わって、卒業後のことになるんですが、2通りの将来を考えています。
1つは卒業した後も、今の「スプートニク日本」のようなメディア業界に残て、スプートニクの特派員として働くことができたらな〜と考えていること、2つ目は修士課程で研究がうまくいったら、そのまま博士課程に進んで、日ロ関係について研究する研究者になることを考えています。
まだまだ学ぶことは山ほどありますし、今後どうなるかは全然わかりませんけどね(笑)


--ぼくたちとしてもJeniaさんの将来がすごく楽しみです!今日はありがとうございました!貴重なお話がたくさん聞けて、とても楽しかったです!ぜひ、これから日ロ交流どんどん盛り上げていきましょう!






Jeniaさんが働いている「スプートニク日本」のウェブサイトやTwitterはこちらから

名称:スプートニク日本
Web:https://jp.sputniknews.com
Twitter: https://twitter.com/sputnik_jp






(インタビュアー/山地ひであき、大森達郎)

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