ロシアの伝統的弦楽器・バラライカ奏者のヴァレンティン・アントーノフさんインタビュー
「バラライカは単なる伝統楽器ではなく、演奏できる曲のバリエーションがとても豊かなんです」

(写真:ヴァレンティン・アントーノフさん)


日本・ロシアに縁をもつ「人」にスポットを当て、その「人」を紹介、そして「人」を通じて、ロシアの魅力や日本とロシアの関わりなどを、車でドラ イブするような冒険心を持って発信していく「日ロドライブ」

第13回は、プロのバラライカ奏者で、ロシアや日本だけでなく、世界中を股にかけて活躍されているヴァレンティン・アントーノフさんにお話を伺ってきました。

ヴァレンティンさんは、幼少期からバラライカを始められ、13歳の時には、全ロシアを対象にしたコンクールで1位を獲得された経験もお持ちの方です。
日本でも何度かコンサートで演奏されていて、「日ロドライブ」編集部のスタッフも演奏を聴かせていただいたことがあるのですが、生の演奏ということもあって、その演奏の美しい音色や響き、空気感に終始圧倒されるほど感動しました。


今回は、そんなヴァレンティンさんから、バラライカの魅力や演奏への思い、今後の活動などについて、様々なことをお伺いしてきました。

今回のインタビューでは、「日ロドライブ」にコラムも寄稿していただいているロシア料理研究家の中川亜紀さんに通訳をしていただきました。
中川さん、本当にありがとうございました。


(写真:ヴァレンティンさんと中川亜紀さん)


--今日はよろしくお願いします!さっそくなんですが、まずはヴァレンティンさんのプロフィールなどを教えてください!

こちらこそよろしくお願いします。
私の出身はロシアのアストラハンという町です。
アストラハンは、周辺にカスピ海やヴォルガ川があるなど、水源が多い地域にあって、自然豊かな町でもあります。
大人になってからは、現在も住んでいるモスクワに移り住みました。



--ヴァレンティンさんがバラライカを始めたきっかけはなんだったんでしょうか?

元々は五歳からヴァイオリンを習っていたんですが、教えてくれていた先生が突然、海外に亡命したことがきっかけで、ヴァイオリンを習うことが出来なくなったんです。
当時はソ連の時代で、何かと社会が混乱している時代でもありましたからね。
幼心にそのことがショックだったんですが、そんなときに母から習うこと勧められたのがバラライカで、これがバラライカとの出会いでした。



--元々はヴァイオリンをされていたんですね!ヴァレンティンさんの感じるバラライカの魅力などをお聞きしてもよろしいですか?

バラライカと出会って感じたのは、楽器自体が非常にユニークで、音の鳴り方が自分にとって、非常に個性的だということでした。
バラライカはヴァイオリンと同じように弦楽器です。
ヴァイオリンは弓を使って弾くのに比べ、バラライカは指で爪弾くという点で違いはありますが、左の手で弦を押さえるという動作は、ヴァイオリンと共通しているので、元々ヴァイオリンを習っていた私からすると、とても適応しやすかったですね。

初めてバラライカの音色を聴いたときに、その音の響きが気に入ったというのはもちろんなんですが、バラライカにはトレモロなどをはじめとした、非常にたくさんの奏法があって、音楽的に多様な曲を演奏することができることも魅力に感じました。
バラライカは、ロシアのクラシック音楽のほか、海外のクラシック、民族音楽など、演奏できる曲のバリエーションがとても広いことに加えて、曲のレパートリーがヴァイオリンのそれと重なる部分も多いんですよ。


--これまで、バラライカを演奏されてきて、一番心に残っているシーンな どはありますか?

一番印象に残っているのは、私が13歳のときにサマラという街で行われた、全ロシアを対象にしたバラライカ・コンクールでの演奏ですね。
そこでの演奏で、一位を受賞することができたんですが、ロシアにおけるバラライカに関する思い出の中でも、それが一番華やかなものです。

他には、ラトビアの首都・リガで行ったコンサートも印象深いですね。
リガの街にある建物の中でも、歴史的な背景を多分に持つ古い商業施設で、コンサートをさせてもらったんですが、その建物の構造や独特の空気感の中で、音がとても綺麗に響いたことが印象に残っていて、思い出深いんです。

日本での演奏については、昨年岡山県でコンサートを開催した際に、ロシア音楽の中でも非常に有名な一曲である「トロイカ」を、同じくロシア発祥の楽器であるテルミンの奏者の方とコラボレーションして、一緒に演奏させていただいたことが強く印象に残っていますね。



--13歳でロシア一位になったんですか!?凄いですね…!!岡山での演奏 は僕も聴かせてもらいましたけど、本当に最高でした!!ヴァレンティンさんは様々な国や地域を股にかけて、バラライカを演奏されていると思うんですが、日本で演奏するようになったきっかけはなんだったでしょうか?

私の友人で、同郷のバラライカ奏者の友人からの誘いがきっかけです。
彼の奥さんは、日本人女性なんですが、モスクワの音大を卒業した後、プロピアニストをしていることもあって、夫妻は、公私共にペアを組んで活動されているお二人なんです。
奥さんは札幌に実家があり、いつも家族で夏を札幌で過ごしていると聞いたんです。
そこで、お互いにロードバイクが趣味だったこともあり、「広い北海道で一緒に走ろう」ということで、それはいいなということになって。

なので、当初はバラライカは関係なく、思いっきりロードバイクを漕ぐこと、日本に行くのも初めてだったので、日本という国をこの目で見てみたいという思いで日本に行こうと思ったんです。

ところが、日本行きを決めてから、1週間くらい後に、彼から電話がかかってきて、「ところで、今回の日本行きの目的のひとつは、東京で僕らが開催するバラライカフェスティバルに出演することなんだけど、よかったら一緒に出てみないか」という誘いを受けて、急遽バラライカも持っていくことになったんですよ。

そうした経緯で、昨年、文京シビックホールで開催されたバラライカフェスティバルにおいて、彼と一緒に演奏したんです。
これが日本での初めての演奏でした。

そのバラライカフェスティバルは、今回のインタビューで通訳をしてもらっている中川さんもオーガナイザーとして参画されていて、中川さんとはそこで知り合ったんです。
そんな新しい経験や出会いもあった、とても楽しいバラライカフェスティバルでした。

その後、夫妻は予定通り北海道に行き、僕はというと、今回の日本滞在予定が短かったため、北海道に行くには日数が足りないし、初めての日本だから、東京を観光するのもいいだろうということで、東京に一人で残ることにしたんです。
でも僕一人では右も左もわからなくて(笑)
そのときも中川さんに助けてもらったんですが、結局、当初の目的とは異なり、北海道もロードバイクも何もない日本旅行になりました(笑)

こうしたことは、ロシア人あるあるかなとは思いますが、結果的には、中川さんとの出会いをきっかけに、日本の伝統食文化とコラボレーションして、 日ロ両国で、様々なイベントを開催できたりもしているので、よかったです。


--はじめての日本旅行は結局大変な旅行だったんですね!?けど、その経 験があったからこそ、今に繋がっていることもあるのがすごく運命的に感じます…!次の質問なんですが、先ほどはヴァレンティンさんの感じるバラライカの魅力をお聞きしたんですけど、聴く側の人に伝えたいバラライカの魅力などはありますか?

そうですね、バラライカという楽器の演奏者の立場として言わせてもらえば、バラライカといえば「ウォッカ」、「熊」、「マトリョーシカ」といっ たような、典型的かつプロトタイプ的なイメージを取り払って、演奏を聴いていただければと思っています。

言い方を変えれば、バラライカは単なる「昔の楽器」というような“軽い”イメ ージのものではなくて、人の心の琴線に触れるような響きを持った、本当に素晴らしい楽器なので、その音色や響きを、固定観念に囚われずに素直に聴いてもらえたらと思うんです。

先ほども言いましたが、民族音楽だけにとどまらず、様々なレパートリーの曲を演奏できる楽器でもありますしね。
私自身は、常にそうした気持ちを持っていますし、皆さんにもそれが伝わっ て欲しいと思いながら、いつも演奏を行っています。


--バラライカへの愛がすごく伝わってきます!最後の質問になってしまう んですが、ヴァレンティンさんの今後の活動や行ってみたいこと、展望などについて聞かせてください!

どのように言えばいいか、なかなか難しいんですが、音楽や食といった文化に関して、日ロの間での交流を、政治的な側面を抜きにして、双方の国を舞台に行っていくことができればなと思っています。

よく言われることではありますが、音楽は、世界中の誰の心にも響くという点で、世界における共通言語といった側面もあります。
その音楽の力を使って、人々を結びつけるような活動を行っていきたいですね。

現在、進んでいる具体的な計画もあります。
インバウンド向けに東京を中心として活動している、琴や尺八などをはじめとする日本の伝統楽器で構成されるオーケストラがあるんですが、そのオーケストラとコラボレーションするというものです。
日本の伝統楽器の響きとロシアの伝統楽器・バラライカやマトリョーミンの響きを合わせて、日本の伝統的な音楽あるいはロシアの民族的な音楽を合同で演奏していこうというのがコンセプトです。
私自身、日本に来日するたびに歌舞伎を見に行くほど、日本の伝統文化に関心があるので、コラボレーションしながら、もっと日本の伝統文化を知っていきたいとも思っています。

そのほかにも、ニューヨーク在住のロシア人ジャズピアニストの方とアメリカやロシアを舞台にしたコラボレーションをするお話もありますね。

先ほども言ったんですが、やはり、私の中で、バラライカという楽器のイメ ージについて回る「民族音楽」という枠を取り払いたいという思いが強くあります。
なので、バラライカで演奏できる曲のレパートリーが多種多様であることを実際の演奏を通じて伝えていくことが大事だと思っていて、そのための手段としても、コラボレーションには強い関心を持っているので、今後も積極的に取り組んでいくつもりです。


--コラボレーションめっちゃいいですね!!ヴァレンティンさんの今後の活躍とても楽しみです!!ぜひ、「日ロドライブ」編集部のある香川県や瀬戸内地域にもお招きして、演奏していただきたいと思っているので、今後ともよろしくお願いします。今日は本当にありがとうございました!






(インタビュアー/山地ひであき)