【対談企画】モロゾフ・デニスさん(ロシア人ガイド)×中川亜紀さん(日露文化オーガナイザー)
「これからの日本のインバウンド」(前編)

(写真向かって左側:中川亜紀さん、向かって右側:モロゾフ・デニスさん)


日本・ロシアに縁をもつ「人」にスポットを当て、その「人」を紹介、そし て「人」を通じて、ロシアの魅力や日本とロシアの関わりなどを、車でドライブするような冒険心を持って発信していく「日ロドライブ」


今回は、日ロドライブ初の「対談企画」です。

数々のロシアの著名人を日本に案内し、満足度の高い旅行を提供してきた、ロシア人スーパーガイド・モロゾフ・デニスさん
ロシア料理研究家で、「日ロドライブ」でも毎月コラムを執筆していただいている、日露文化オーガナイザー・中川亜紀さん
日ロ両国の文化や慣習への造詣がとても深いこのお二人に「これからの日本のインバウンド」をテーマに対談していただきました。

現在、新型コロナウイルスの影響で、インバウンドは低調ですが、だからこそ、先を見据えた取り組みも重要になる-
今の、そしてこれからの日本のインバウンドに必要なものとは-

対談では、インバウンドについてだけでなく、ロシア人の目から見た日本文化日ロ両国の食文化や慣習などについても触れられています。
ぜひ、お楽しみください。
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-Profile-

モロゾフ・デニス
1977年生まれ、42歳
慶應義塾大学で1年間留学した後、ロシア外務省、タス通信などで研究生として経験を積み、再び来日。現在、ロシア専門旅行会社、ジェーアイシー旅行センター株式会社インバウンド部の企画部長として勤務。
日本の国家資格である全国通訳案内士の資格保持者。数多くの富裕層、フィギュアスケーターなどの著名人、また、テレビ取材班のガイドとしても活躍している。
日本人のメンタリティや伝統を深く理解するからこそ、観光地の現地の人々との交渉を巧みにこなし、それによりロシアのクライアントから高い満足度と信頼を得ているスーパーガイド。

(写真:モロゾフ・デニスさん)

中川亜紀
1975年岡山県生まれ。
岡山大学英米文学言語文化学科卒
日露フードオーガナイザー、a.k.i. kitchen project代表。
2009〜2012年に、夫のロシア駐在に伴い、3人の子供とモスクワに転居、その間に現地ロシア人との交流を通して文化に触れ、特に民族楽器バラライカとロシア料理に親しむ。
料理教室講師(日本人向けロシア料理教室、およびロシア語話者向け和食教室)、フードコーディネーター、食品管理衛生責任者、ロシア教育科学省認定ロシア語試験ТРКИ(第2段階)。
東京都教育委員会委託ロシア語児童の日本語講師およびサポート員として都内の小中学校にて指導。
都内および大阪、岡山にてロシア、ジョージア(グルジア)、ウズベキスタン、カザフスタン、ウクライナ料理教室を開催。難しいと言われるロシア人の心に入り込むコミュニケーションと情熱で「食は異なる文化の人々をつなぐ」をテーマに、日本とロシア(および旧ソ連圏)を食でつなぐ活動を続けている。
その他インバウンド向けサービス、各種メディア(日本およびロシア)で和食とロシア料理の普及活動に励んでいる。
「日ロドライブ」では「お皿の上のロシア」と題した、「食」を通じたロシア文化に関するコラムを執筆中。

(写真:中川亜紀さん)

(以下、お二人の対談です)
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-二人の出会い-

中川亜紀さん(以下、「中川」):今日はよろしくお願いします。デニスさんと初めてお会いして仕事させていただいて、もう3年くらいになるでしょうか?

モロゾフ・デニスさん(以下、「デニス」):そうですね。亜紀さんと初めてお会いさせていただいたのは、 JNTO(日本政府観光局)のお仕事で、ご一緒した時でしたよね。
ロシア極東のテレビ番組で、日本のことを紹介するというもので、その番組内で、亜紀さんが作った日本の家庭料理を紹介させていただいた際に、初めてお会いしました。

中川:その節はありがとうございました。あれはハバロフスクのテレビ局が制作した番組でしたね。デニスさんは、ハバロフスクのテレビ局が日本を紹介する番組を作る際のサポートの仕事などもされてるんですよね。
あの時は番組で、料理以外にも日本のことをたくさん紹介されてましたが、ハバロフスクのテレビ局のスタッフのみなさんにとって、日本の、どの部分が一番印象に残っているように感じましたか?

デニス:スタッフの方々とは、三回ほど一緒に日本各地を周ったんですが、長野県の「上高地」が思い出深かったんじゃないかと思いますね。
極東ロシアには標高の高い山岳地域がないので、山岳の持つ迫力を肌で感じることができたと思いますし、ハバロフスクのような極東ロシアに住む人々にとっては、同じ山岳地域に行くにしても、スイスに行くよりも近いという部分にも魅力に感じてもらえたと思います。
 また、上高地には独特な郷土料理もたくさんあって、それらも堪能してもらえましたし、ちょうどその時期に「鹿の角切り」の儀式という、ロシアではなかなか見ることができないような儀式に私が携わっていたこともあって、それを見せることもできたので、そのことも彼らの中では、とても思い出深かったのではないかと思っています。

中川:なるほど〜!私たち、日本人の感覚からすると、ロシアというとヨーロッパに近いイメージがありますが、極東ロシアに住む方々にとっては、日本の方が近いですもんね。2時間くらいのフライトで来れますし、デニスさんがおっしゃった上高地でしたら、東京からのアクセスもいいですし。
 スタッフの方々の中で上高地が特に印象に残ったのは、デニスさんが日本の山々に造詣が深いので、魅せ方がとても上手だったことも理由だと思いますよ。

デニス:ありがとうございます(笑)

(写真:デニスさん、中川さんのツーショット)


-日本とロシアの「食文化」について-
“ロシア人は薄味が苦手?”

中川:お話に出た郷土料理に関しては、東日本の中でも寒い地域の料理ですが、私がそのテレビ番組で紹介させていただいた和食は、私自身、育ちが岡山県という西日本の地域だったこともあって、西日本の味付けの和食だったんですよね。
 日本料理、和食と一口にいっても、使う調味料などは地域によって全然違いますし、千差万別ですよね。

デニス:おっしゃる通りだと思います。
 亜紀さんもよくご存知だと思うんですが、ロシア人ははっきりした、濃い味の料理が好きです。日本料理を初めて食べるロシア人、特にVIPの方などは、ミシュランに掲載されているような有名な和食レストランに行っても、「味が薄い」と感じる人が多いんですよ。
 ですが、亜紀さんの作る日本料理は、味の濃いものもあれば、薄味のものもあるというように、味の強弱のバランスがとてもよくとれていて、そこがロシア人たちにすごく評価されていますよ。

中川:おー、それはとても嬉しいです。ありがとうございます。
 そうすると、ロシア人の方々には、まずは東北地方の濃い味の和食を紹介して、味に慣れてもらってから、比較的薄味の西日本の料理を紹介するのもいいかもしれませんね。

デニス:そうですね。それはいい考えだと思います。

中川:私の出身の岡山県や、この対談記事が掲載される「日ロドライブ」の編集部のある香川県などが位置する西日本は、「採れたての魚に調味料をたくさんかけて調理するのはもったいない」、「新鮮なものは刺身で食べるのが一番」とされるような、素材の旨味を重視する地域柄ですからね〜。
 魚介の刺身などはロシアではあまり馴染みがありませんよね?

デニス:おっしゃる通り、ロシア人にとって、魚食の文化というのはあまり馴染みがないです。魚といえば、湖や川の魚で、味が薄いので、とにかく濃い味付けをして食べるといった認識があります。
 ロシア人のほとんどは内陸部に住んでいて、海の幸にあまり縁がないという事情もありますね。

中川:極東ロシアに住まれている方々であれば、いわゆる「日本的な海の料理」を振る舞ってもいいかもしれませんが、内陸部に住んでいるロシア人の方々に魚介類を振る舞う際は、料理の出し方を少し考えた方がいいでしょうね。

デニス:そうですね。ひと工夫があると喜ばれると思います。

中川:今思い出したんですが、そういえば、デニスさんにご紹介いただいたロシア人の方に牡蠣料理を振る舞ったとき、一番人気だった料理は「牡蠣クリームコロッケ」でした(笑)

デニス:まさに味のわかりやすい、こってりとした料理ですね(笑)


-ここ10年間における日ロ関係の変化について-
“日本に来るロシア人観光客は着実に増えている”

中川:デニスさんは、テレビ局のお仕事以外にも様々なお仕事をされてらっしゃると思うんですが、日ロを股にかけるような仕事をされるようになって、どれくらいになるんですか?

デニス:仕事として本格的に携わるようになってからは、かれこれ10年くらいですね。

中川:デニスさん、日本語がとてもお上手ですよね?それだけ日本語がお出来になるということは、日本語自体は10年前よりももっと以前から勉強されていたのでは?

デニス:まぁ、そうですね〜。日本に来てからでいうと20年、その5年前から日本語自体は勉強していたので、日本語歴だけでいうと25年というところになりますね。

中川:すごい、さすがです。

デニス:けれど、単に日本語を勉強するのと、日本語を介して人助けをするというのは、ちょっと意味が変わってきますからね(笑)
 日本語を使って、人に喜んでもらうような活動をしたり、それがビジネスに繋がってきたというのは、おそらく10年くらい前からだと思います。

中川:例えばなんですが、この10年で、デニスさんが感じる日ロ交流の変化はありますか?

デニス:ありますよ。これは一般の人たちの交流が増えたことですね。10年前までは、日ロ交流に関わるのは、ほとんどがVIPの方や政治、経済界の方々でした。
 そうした中、この10年で、徐々に一般のロシア人たちの中にも、観光目的で来日する人が増えてきました。2016年にはプーチン大統領が来日し、政治的には色々な問題もありましたが、「ビザの簡素化」が合意されたことで、日ロの交流は大きく前進しました。
 ビザの簡素化によって、2017年2月からは、ロシア人が日本に行こうと思えば、その一週間後には日本に行ける時代になりましたし、これはJNTOの発表している観光客の数字にもすぐに反映されていましたね。2016年度は64000人程度だったロシア人観光客が、2017年度には80000人近くまで伸びて、2019年度には、約1200000人にまで達しましたから。

中川:まさにうなぎ上りの数字ですね。
 思えば、ロシアの方たちはよく海外旅行に行かれますよね。日本人はどちらかというと、海外旅行に行くのはお金持ちというイメージが根強いですが、ロシアの方たちは、階層に関係なく、普段高級レストランで食事をしない人や高級品を購入しないような人たちも含め、多くの人が海外旅行に行くイメージです。
 私も10年くらい前にモスクワに住んでいたんですが、そうした「海外旅行好きのロシア人」というイメージにも関わらず、当時日本を旅行先で選ぶ人は周囲にいませんでした。
 けれど、たしかにここ数年で、気軽にビザを取って、気軽に観光目的で日本を旅行する一般のロシア人の方々が増えたように感じていたんですよね。

デニス:例えば、銀座を歩いていて、たくさんロシア語が聞こえてくるようになったのには、私も本当に驚きました。
 このビザの簡素化の合意から、様々な問題はあるものの、ロシアと日本の両政府が、二国間関係の構築に前向きだというのは、なんとなく感じられましたね。

中川:そうですよね~。

デニス:亜紀さんはロシアにある程度の期間住まれていたので、よくご存知だと思うんですが、気候の理由もあって、ロシア人たちは常夏、海、お日様が大好きじゃないですか?
 紫外線が苦手な人も多いんですが、痛がりながらも海に行くみたいな(笑)
なので、観光先として、トルコやエジプトといった身近な国が人気だったんですが、最近、割と人気があるのがギリシャのエーゲ海なんですよ。エーゲ海といえば、なにかピンときませんか(笑)?

中川:もしかして、私が子どものころから見ていた日本のエーゲ海と言われている岡山県の「瀬戸内市牛窓」でしょうか(笑)?

デニス:そうです、日本にもエーゲ海ありますよね!

中川:いやー、それに関しては岡山県人としても、少し恥ずかしいです(笑)
本物のエーゲ海と比べていいものかどうか(笑)

デニス:いやいや、恥ずかしがることはなにもありませんよ!そのくらいのポテンシャルが「牛窓」にはあるんですから!

中川:そう言ってくださるのは嬉しいです(笑)
 それに関連してなんですが、デニスさんにお聞きしたいことがあって。私自身、岡山県に住んでいたので分かるんですが、岡山の人たちは、少なくとも東京に住んでいる人たちに比べると、物事に対して「もっとやってやろう」といったガツガツしたところがあまりないんですよね。よく言えば、欲がない。
なので、その姿勢自体は変える必要はないと思うんですが、せっかく観光地としてのポテンシャルがあっても、そのアピールや「どうすればもっと色んな人たちに来てもらいやすいか」を考えるといった部分が、私の目から見るとまだまだ足りていないように感じるんです。
 ぜひ、そういった部分についてデニスさんにお聞きしたいと思って。こうしたことについては、デニスさんはとても的確な視点を持っていて、お詳しいとも思うので、ぜひ後ほどお聞かせしていただければと思います。

デニス:いえいえ、ありがとうございます。ぜひ、よろしくお願いします。

(写真:デニスさん。瑞牆山の山頂にて)

-民間交流のその先に-
“日本人とロシア人はウマが合う?”

中川:2016年のプーチン大統領の来日がきっかけでビザが簡素化されて、日本、ロシアの、VIPでない普通の人たちも気軽に両国を行き来できるようになりました。
 デニスさんは、そのようにして拡大していく民間交流をどう思いますか?
また、この民間交流を将来的な国際交流、経済交流の発展、あるいは政治的な問題の解決に繋げることはできると思いますか?

デニス:そうですね〜。2016年の首脳会談自体は賛否両論で、評価が分かれたりする部分もありますけど、私個人としては、国同士の付き合い方というよりも、まずは国民同士の付き合い方を改め直そうという動きがあったことをとても評価しています。
 もちろん、両国間には領土や平和条約の問題といった難しい問題はありますが、ほとんどの一般の人たちはそういったことに関心はありません。
 関心があるのは「近いけれど遠い国」あるいは「遠いけれど近い国」であるお互いの国が、実際のところ、どんな国で、そこに住んでいるのはどんな人たちなのかということだと思います。
 そのように考えると、なんだかんだいって、日本人とロシア人はその国民性から見ても、ウマが合う部分が多々あると思うので、大きなポテンシャルを秘めていると思います。

中川:私もそう思います。

デニス:変な話、ロシア人は、ヨーロッパの国々やアメリカの人たちよりも、日本人とウマが合うような気がしてならないんです。
そんな風に感じるここ10年です(笑)

中川:ですね(笑)私自身、ロシア人たちの、アクティブさを多分に持ちながらも少し遠慮がちなところ、シャイなところというのは、日本人の感性と非常によく似ていて、ウマが合うと感じています。

デニス:そうですよね。しいて挙げるなら、ロシア人のそういった内面は、岡山県人と、とてもよく似ていると思いますよ(笑)
 ロシア人は、見かけが、ぶすっとしていて、一見して愛嬌がないとよく言われるんですが、一歩踏み込んで仲良くなると、温厚で、人好きのする人柄が見えるようになります。個人的には、そうした部分が岡山県人と似ているんじゃないかなーと、思うんです(笑)

中川:まさに私の父がそんな感じです(笑)
 岡山県でも海側に面した地域に住む、いわゆる「海の男」で、険しい顔をしているんですが、一度、酒を酌み交わせば、身内のようになってしまうといったような(笑)

デニス:お酒で心が繋がるというのもありますよね(笑)

中川:そうそう(笑)
 ロシア人と日本人は相容れない国民同士であるどころか、むしろウマが合うのだから、今後民間同士で理解を深め、繋がっていくことで、気がついたら、それが様々な交流や問題の解決といった、もっと高度なレベルに発展していくようになればいいですよね。

デニス:まさにそうですね。

---来月更新予定の後編に続きます---






(構成/「日ロドライブ」編集部)